第八章 〜ノルディスの亡霊〜 3
ギルドの依頼掲示板に並ぶ、数多の討伐依頼。昼前の時間帯にもかかわらず、受付にはすでに多くの冒険者が集まっていた。その中で、ミレイは静かに掲示板を見上げる。
「……これと、これもいけるかな」
さらりと依頼書を引き抜き、受付へ向かう。手に取ったのは一件や二件ではない。まるで討伐依頼を“買い占める”かのように、ミレイは次々と紙をまとめていく。
受付嬢が目を丸くした。
「ちょ、ちょっと待ってくださいミレイさん! これ、一人で全部受けるつもりですか?」
「うん。問題ないよ」
さらりと答えたものの、周囲の冒険者たちの視線が集まるのを感じる。依頼内容は、通常のCランクの冒険者が手を出すには少々厳しいものばかりだ。狼型魔獣の群れ討伐、洞窟に巣食う巨大昆虫の駆除、森に現れた狂暴化した魔獣の掃討……。どれも、パーティーを組んで挑むのが前提の依頼。
「……さすがに無茶じゃない?」
「いや、あの槍の腕なら……でも、いくらなんでも数が……」
「いや待てよ、こないだの酒場で見たけど……アイツ、一人で酔っ払いの集団を軽く捌いてたんだぜ?」
ギルド内でざわめきが広がる。ミレイはそれを意に介さず、受付嬢に依頼を手渡した。
「この三日間で全部終わらせるから、受理して」
「……そ、そんなスケジュールで!?」
受付嬢は頭を抱えたが、受け付けた以上は止める権利はない。無言のまま承認の印を押し、討伐依頼が正式にミレイのものとなった。
こうして、ミレイの討伐三日間が幕を開ける。ミレイは一刻も早く戦闘の勘を取り戻したかった。
———
一日目。
最初の標的は、街の北に生息する狼型魔獣の群れ。
普通の冒険者なら四人以上のパーティーで挑むところだが、ミレイにとっては朝の準備運動のようなものだった。
「右、四匹……左、二匹……囲む気?」
槍を構えた瞬間、野生の直感を持つ狼たちが一瞬怯む。その隙を逃さず、一閃。灰槍の穂先が唸りを上げ、一体の首を断ち切る。
狼たちは反撃のため一斉に飛びかかったが——
「遅い」
動きを先読みし、槍の軌道を最小限に抑えた動きで迎撃。二撃目、三撃目を連続で放ち、瞬く間に周囲を片付けていく。
気づけば、辺りには動かなくなった魔獣の群れ。三十匹以上いた狼型魔獣は、全て静寂に飲み込まれていた。
———
二日目。
「この洞窟……面倒そうだな」
今度は、地下に広がる洞窟の昆虫型魔獣の駆除。暗闇の中で動き回る相手は厄介だったが——
「……音が、うるさい」
狭い空間での戦闘に対応するため、槍のリーチを調整し、接近戦に持ち込む。毒のある触肢を巧みに避けながら、一撃ずつ確実に仕留めていく。
出口に戻る頃には、すべての魔獣が駆逐され、洞窟は静寂を取り戻していた。
———
三日目。
森の中、魔力暴走した大型魔獣との戦い。
並のBランク冒険者では手も足も出ない相手だった。
しかし、ミレイはその巨体の動きを見極め——
「……ここだ」
一閃。
狙い澄ました槍の一撃が、魔獣の急所を貫く。
血しぶきと共に、巨体が地面に崩れ落ちた。
———
こうして、三日間に渡る怒涛の討伐依頼を終えたミレイは、ギルドへと戻った。
受付嬢は戦利品と討伐報告を受け取りながら、震えるように呟いた。
「……こ、これ、本当に三日で……?」
「うん。言った通りでしょ?」
淡々とした返答に、ギルド全体がどよめいた。
「……ちょっと待て、今ギルドの依頼一覧ってどうなってんだ?」
「おい、こいつが受けた討伐依頼、ほとんど全部終わってるぞ!」
「三日で? いやいや、バカな……」
ギルドマスターが静かに立ち上がる。
「ミレイ」
「……お前を、Bランク冒険者として認定する」
その瞬間、ギルド全体がどよめいた。
当たり前だ。まだこのギルドで正式な討伐依頼をまともに受けたこともない槍使いが、わずか三日でBランクへと昇格したのだから。
——しかし。
「おいおい、納得いかねぇな……」
低い声とともに、屈強な体格の男が前に出た。
「いきなり現れた女が、たった三日でBランク? ふざけんなよ」
ミレイはため息をついた。
「……めんどくさいな」
「何だと?」
男がミレイに手を伸ばした、その瞬間——槍の穂先が喉元に突きつけられた。
「次は、刺すよ?」
静寂が訪れる。
もはや、誰も文句は言わなかった。
この場にいる全員が、ミレイの実力を目の当たりにしたのだから。




