第七章 〜絶望の底で〜 5
体の痛みが和らぐのを待ちながら、ミレイは荒れ果てた崖下の地形を改めて観察した。
瓦礫と砂利が転がる岩場。倒木や絡みつくツタ。所々に金属の破片が埋もれ、かすかに朽ちた建造物の残骸が顔を出している。この場所には、過去に何かがあったのは確かだ。崖下にこんなに人工物の残骸が転がっているのは不自然すぎる。
「……とにかく、武器を確保しないと」
丸腰では話にならない。あの黒い者のような脅威がまだ潜んでいるかもしれないし、食料の確保だって、戦える武器がないと厳しい。
ミレイはゆっくりと体を動かしながら、使えそうなものを探し始めた。
足元に転がる木の枝を拾い上げる。
「うーん……ちょっと頼りないか」
太さは十分だが、耐久性が心許ない。戦闘に耐えられるものではなかった。衝撃を受けたらすぐに折れそうだ。
次に、金属片を探す。瓦礫の中から、朽ちた槍の穂先らしきものを見つけるが、刃は錆び、根元は折れていた。
「惜しい……けど、使えないわけじゃない」
ミレイは槍の柄になりそうな丈夫な木を探しながら、ツタや金属片を活用する方法を考えた。生存本能が「使える」と判断したものを無意識に手に取らせる。
ギルドの討伐依頼で、現地の素材を活用して戦ったことは何度かある。だからこそ、今も「ここにあるもので最適な武器を作る」ことに集中できた。
(……折れた槍の穂先と、頑丈な木の枝。これをどうにか組み合わせれば——)
ツタを巻きつけ、金属片を補強しながら固定する。槍術適性が働いているのか、即席ながらバランスの良い形に仕上がった。突き技には十分使えそうだ。
しかし、まだ何かが足りない。思考を巡らせながら、ミレイは拾った槍を何度か振る。
「……やっぱり、重心がちょっとズレてるか」
戦えるには戦える。だが、完璧ではない。ならば、もう少し強化できるはずだ。
周囲を探しながら、ミレイは地面に埋もれた 革の断片 を見つけた。元は鎧の一部だったのだろうか。使えそうな部分を引き裂き、槍の持ち手に巻きつける。
「……これで、ちょっとはマシかな」
今度はしっかりと手に馴染む感覚があった。これなら 戦える。
「よし」
槍を構え、何度か試し振りをする。やや重さはあるが、突きの動作には問題ない。防御にも使えそうだ。
「これでしばらくは大丈夫そうかな」
武器を確保したミレイは、次の行動を考え始める。
「次は……この場所をもう少し探索してみるか」
生き延びるためには、もっと情報が必要だ。今の自分がどこにいるのか、この場所に何があるのか。
慎重に歩を進めると、ふと地面に目を留めた。わずかに盛り上がった土の隙間から、青みがかった小さな葉が顔を出している。
「……これって」
しゃがみ込み、慎重に引き抜く。見覚えがある—— 食べられる野草だ。
ギルドの討伐依頼では、任務の際に野草や果実を食料にすることもあった。これは薬効のある植物で、生で食べても問題ないはず。
「ラッキー……ってほどじゃないけど、ないよりはマシか」
ミレイは少し摘み、しばらく咀嚼してみる。苦みがあるが、食えないことはない。
「少しでも体力を戻さないとね」
槍を片手に、ミレイはさらに周囲を探索し始めた。




