第六章 〜邂逅〜 6
リリスは笑みを浮かべながらも、双剣を交差させて応じる。金属がぶつかり合う甲高い音が耳を打ち、手のひらにビリビリと残響が伝わる。
「——うふふ、それはいい判断」
その言葉が神経を逆撫でする。ミレイは舌打ちし、さらに体勢を低くした。雷槍を一度引き戻し、ナイフとの二段攻撃で一気に押し込む。
圧倒的なスピード戦。だが、リリスはまるで見透かすかのように、最小限の動作で捌いていく。その表情には、不気味なまでの余裕が浮かんでいた。
その時——
ミレイの指先が熱を超えて、燃え上がるような感覚に包まれた。
(……これなら!)
迷わずナイフを投げる。放たれた刃には火が宿り、空気を切り裂きながらリリスの顔面へと一直線に迫る。
リリスは双剣でそれを受け止める。瞬間、火が弾け、眩い閃光と熱がリリスの視界を覆い尽くした。
その刹那——
ミレイは再び雷槍を突き出す。
「——はぁっ!!」
息を吐き、全身の筋肉を解放する。電撃がうねり、閃光が闇を切り裂いた。
リリスの腕に、浅い切り傷が走る。わずかながら血が滲み、ぽたぽたと地面に落ちていく。
「……やるじゃない」
リリスは楽しそうに笑ったが、その声音には微かな熱が帯びている。まるで、新しい刺激に興奮しているかのよう。
ミレイは荒い息を整えながら、槍を構え直す。
火の残滓がまだ周囲に舞い、雷の余波が空気を振動させている。視線の先で、リリスの袖口から血が滲み、黒い地面に赤い筋を描いた。
(これで終わるわけない。でも……やれる)
心臓の鼓動が、耳の奥でドクンドクンと鳴る。疲労感はある。しかし、恐怖を感じる暇はない。
生存本能が告げる。まだ戦える、と。
瘴気に満ちた戦場で、2人の息遣いが交錯する。次の瞬間、どちらが先に動くのか。
火と雷の交差する煙と光の向こうで、リリスは傷口を見下ろし、さらに口元を歪めた。それを見たミレイは槍を握りしめ、再び地面を踏みしめる。
互いの殺気が震える空気を満たし、血の匂いが一層濃くなっていく。誰もが次の一瞬を見逃すまいと、戦場が息を呑んだ。
そんな中——
リリスは微笑んでいた。
「——面白いじゃない」
リリスが“一歩”詰めた。
速い——違う、異常なまでに速い!足裏が震えるほどの突風が巻き起こり、血と錆びの匂いに満ちた空気を切り裂く。
音すら置き去りにするような加速。視界の隅で、双剣の刃が不気味な軌道を描き、瘴気の中に鋭い光を生む。
斜めに交差する二閃が、ミレイの身体を狙う。
反射的に槍を振る。回避と防御、両方を同時に試みるが——
「——残念」
リリスの声と同時に、
ミレイの腹部に、鋭い衝撃。
「——ッ!」
痛みが炸裂する。内臓まで響くような感覚に、思わず息が詰まる。
ほんのわずか、双剣の刃が掠めただけ。
それなのに、皮膚が裂ける確かな切り傷。熱い血がじわりと溢れ、湿った大地へと滴り落ちていく。
リリスの刃は深く抉らない。いや——意図的に、浅く裂いた。
「これくらいで済ませてあげるわ。だって——」
リリスは、ゆっくりと双剣を振るい、ミレイの血を弾いた。周囲の霧のような瘴気をうねらせ、まるで小動物を弄ぶかのように。
「“壊れる”のは、もう少し後のほうが、楽しいでしょう?」
微笑みは変わらない。けれど、その目には底知れない愉悦が宿っている。
リリスにとって、これは戦いではない。
これは、じわじわと“獲物”を追い詰め、楽しむ遊戯——。
「そろそろ、私のターンね?」
リリスが、一歩踏み出す。
その瞬間——全身の肌が粟立った。
瘴気が肌にまとわりつき、血生臭い空気がまるで喉を塞ぐかのように重たく感じる。呼吸さえ浅くなり、心臓が高鳴る。
“嫌な予感” なんて生易しいものじゃない。
“ここにいたら、殺される”
脳裏に、鋭く冷たい感覚が突き刺さる。
考えるより先に、ミレイの体は本能的に右へ跳んだ。
だが——
「ふふっ、引っかかった」
(……え?)
足元に広がった“何か”に、ミレイの動きが絡め取られた。まるで無数の細い鎖がまとわりつくような感触。ぬめった土の匂いが鼻を突き、足が泥に沈むかのように重くなる。
逃げたはずなのに、動けない。
——逃げ道が罠だった。
脳裏に、冷たい記憶がよぎる。
あの時——何度も“死に続けた” あのループの悪夢。
必死に“最適な選択”をし続けた。
それでも逃げられなかった。
——また、繰り返すのか?
「どうしたの?」
リリスの声が、耳の奥に響く。声色は甘やかでありながら、人を壊しにくる狂気が滲んでいる。
——ゾワッとする嫌な感覚。
彼女の双剣が、無造作に振り上げられる。閃く銀色の刃が、荒廃した空気を切り裂くように高く掲げられた。
次の瞬間——死の予感。
喉元へ向かう双剣の軌跡が、スローモーションのように見えた。
(避けないと——!)
……体が、動かない。
“本能”が、何も選ばない。
戦いの中で、初めて何も“選べない”という感覚を味わった。視界がじわりと暗くなる。冷たい絶望が、体を締め付ける。
——あの時みたいに。
何度も“繰り返し殺された日々” みたいに。
(……私は、また“死ぬ”の?)
◇◇◇
これまでの事が一瞬のうちに脳裏を過ぎる。まるで長い夢を見ている気分だった。
(おかげで思い出した。私はまだ、死ねない)
そう考えた時、スローモーションの世界の中で、ミレイの耳はかろうじて風が吹き抜ける音をとらえた。どこか遠くで水が滴る音も。土の下で何かが崩れ落ちる微かな振動が伝わる。
(……まさか)
息を詰まらせる。
崖——。
ここが、断崖絶壁の上だと気づいた瞬間、全身の血が凍る。
もし、落ちれば——
だが、考えている暇はない。
リリスの双剣が振り下ろされる。
ミレイは土を蹴り、身を捻りながら間一髪でそれを避ける。
刃が地面に突き刺さり、刹那、飛び散る土埃。
視界が遮られたその一瞬を利用し、ミレイは 手の中に火を灯し、地面を焼く。
炎が弾け、熱風が舞い上がる。
リリスが僅かに目を細める。その一瞬の隙。
ミレイは、全力で崖へと向かって駆け出した。
肺が焼けるような感覚。傷口から噴き出す血の匂いが、鼻をつく。
直線的に逃げるのは危険。リリスに背を向けたら、即座に首を刎ねられる。
だから——
ミレイは わざと転ぶ。
膝を崩し、制御不能のまま 崖へと滑り込む。
最後に見えたのは、楽しげに目を細めるリリスの笑顔。
次の瞬間、身体が宙へと投げ出される。
風の唸りが耳を裂き、視界が急激に回転する。
墜落。
瞬間、全身を貫く衝撃。岩壁にぶつかりながら、枝を掠め、無数の鋭い痛みが身体を突き刺す。
肺の空気が一気に吐き出され、視界がぼやける。
そして——
暗闇に、沈んだ。
死闘の末、圧倒的な実力差を痛感しながらも生き延びました。
この戦いを評価し、彼女のスキルは成長しました。
天賦の才 [S] Lv.-(統合: 【武術の才能】+【魔術の才能】+【スキル獲得率向上】)
- 戦闘と魔法の両方に異常な適応力を持つ。
- 努力なしでは何も得られず、訓練と実戦が必須。
生存本能向上 [A] Lv.5(Lv.4→Lv.5)
- 危険察知能力がさらに向上し、戦場の「殺気」や「罠」をより敏感に察知。
- 逃走や極限状態での選択精度が劇的に向上。
- ただし、身体能力の限界を超えた行動は依然として不可能。
戦闘本能 [A] Lv.5(Lv.4→Lv.5)(統合: 【戦闘直感】+【対人戦闘適応】)
- 戦闘中の判断速度がさらに向上し、対格上戦闘での生存確率が上昇。
- リリスとの戦闘経験を経て、"遊び"の戦闘スタイルへの対応力が上がる。
槍術適性 [A] Lv.5(B→A、Lv.4→Lv.5)
- 槍の技術が大幅に向上し、より速く・正確に相手の死角を突けるようになった。
- 近接戦において、剣士との対峙がさらに容易になる。
- ただし、依然として極めるにはさらなる鍛錬が必要。
受け流し [C] Lv.4(Lv.3→Lv.4)
- リリス戦を通じて、より精度の高い防御技術を習得。
- 剣や刃物系の攻撃に対して無駄な消耗を抑える戦法が洗練される。
雷魔法 [C] Lv.3(Lv.2→Lv.3)
- 雷槍の制御力向上。
- 一撃の威力が増し、痺れや麻痺効果の精度が向上。
火魔法 [C] Lv.5(Lv.4→Lv.5)
- 短時間ながら炎を武器に纏わせる応用技術を習得。
- 瞬時の火の発生が可能になり、煙幕や錯乱戦術にも活用可能。
隠密行動 [B] Lv.5(Lv.4→Lv.5)(統合: 【気配遮断】)
- 戦闘中の動きに"隠れる"技術を追加。
- リリスの目を欺く一瞬の気配消失を再現できるように。
即席戦闘技術 [C] Lv.4(Lv.3→Lv.4)(統合: 【即席武器作成】+【食材選別】)
- 崖落ち後の生存に適した応用技術を獲得。
- 戦場で即席の武器を作る技術が向上。
精神耐性 [A] Lv.5(Lv.4→Lv.5)(統合: 【精神攻撃無効】)
- 幻覚や精神攻撃への耐性がさらに向上。
- "自分が殺した"という偽りの記憶に惑わされることなく、冷静な判断を維持。
新規獲得スキル
出血耐性 [C] Lv.1(新規)
- 大量出血時の行動制限が緩和。
- ある程度の出血を無視して戦闘続行可能。
煙幕応用 [D] Lv.1(新規)
- 火と風を利用し、短時間の視界遮断を作り出せる。
- ただし、環境依存が強く、適した条件でないと効果が薄い。
追跡回避 [C] Lv.1(新規)
- 敵の目を欺き、索敵から逃れる技術。
- 血痕を誤魔化す手法も含まれる。




