第二章 〜異世界転移 - 極限サバイバルの幕開け〜 2
強烈な倦怠感と痛みが襲う。失血、魔力消耗、飢え、渇き、寒さ、すべてが重なり、身動きが取れない。目を閉じれば意識が飛ぶ。だが、眠れば死ぬことは本能的に分かる。
「寝ちゃダメ……寝たら……終わる……っ。」
朦朧とした意識の中で、自分に言い聞かせる。体を動かそうとするが、ほとんど力が入らない。指を少し動かすだけで、全身に針を突き刺されるような痛みが走る。
そして最も差し迫った問題——右腕の傷。ズキズキと脈打つような激痛が襲う。血は止まりかけているが、傷口は深く、熱を持っていた。
「……っ! 熱くなってる……っ。」
このままでは、いずれ発熱が悪化し、命を落とす。この場で傷を処置しなければならない。
「……消毒できるもの、ないの……?」
視界がぼやける。手元にあるのは、湿った土、苔、折れた枝——どれも役に立たない。だが、脳内で冷静にシミュレーションする。傷を消毒する手段は? 水があれば洗えるが、手元にはない。布で縛るだけでは不十分。ならば——
「焼くしかない……っ。」
最も苦しい選択だった。這いずるようにして、手を伸ばし、小さな枝を集める。石を探し、こすり合わせて火花を出そうとする。——が、時間がかかりすぎる。
「もう……なんで、こんなときに……っ。」
唇を噛み締めながら呟いたその瞬間、指先にわずかな熱を感じた。——魔力。無意識のうちに、それを込める。
次の瞬間、小さな火の粉が弾けた。
「……嘘、できた……!」
枝に火をつけ、小さな焚き火を作る。揺らめく炎が、彼女の影を森の闇に映し出す。ミレイは震える手で一本の枝を取り、炎の中に突き立てた。先端が赤く染まる。
「……これで……焼くしか、ない……っ。」
理性では理解していても、本能が拒絶する。目をそらしたい。やめたい。だけど、やらなきゃ、死ぬ。選択肢なんてない。痛みに耐えるか、それとも——。
「……やるしかない……!」
意を決し、火のついた枝を傷口に押し当てた。
「っっあああああああああああ!!!!!!」
灼熱の苦痛。全身が弓なりに跳ね、涙が勝手にあふれる。痛い、痛い、痛い!
「うぅっ……っ……いや……やだ、もうやだ……っ。」
必死に歯を食いしばり、意識が飛びそうになる。
「……っ……いたい……いたいよ……。」
腕の感覚が麻痺し始めるころには、血が止まっていた。涙が溢れる。だが、確実に——生存確率は上がった。
「……生きてる……っ。」
息が荒く、指先が震える。喉が渇いて声すらうまく出せない。それでも。
「わたし……まだ……死なない……っ。」
自分に言い聞かせるように、震える声で呟いた。この地獄を生き抜くために。