第六章 〜邂逅〜 2
商隊は五台の馬車を連ね、目的地である城下町へと到着した。町の入り口には石造りの門がそびえ、活気ある市場や行き交う人々の姿が広がっている。
馬車が止まると、商隊の主が満足げに息をついた。
「ふぅ、無事に着いたか。いやぁ、お前のおかげだな」
ミレイに向かってそう言うと、男は袋から報酬を取り出し、手渡してきた。
「約束の報酬だ。それと……盗賊討伐の分も追加しておく」
「ありがとうございます」
ミレイは金貨を受け取り、一礼した。
他の護衛たちとも別れを告げ、彼女は足早にギルドへ向かった。
◇◇◇
城下町の冒険者ギルドは広場の一角にあり、堂々とした石造りの建物だった。扉を開けると、中には多くの冒険者たちが集まり、談笑したり依頼を確認していた。
「いらっしゃいませ。依頼の報告でしょうか?」
受付の女性がにこやかに声をかけてくる。
「はい、商隊護衛の依頼を完了しました。途中で盗賊に襲われましたが、全員捕らえています」
「盗賊討伐も……それは見事ですね。少々お待ちください」
受付嬢は記録を確認し、ミレイの報告内容を照らし合わせた。
「今回の報酬は、基準額の六十ゴールド。そして、迅速な討伐を評価し五ゴールドを上乗せ……さらに盗賊討伐の分として二十ゴールドを追加し、合計八十五ゴールドとなります」
ミレイは静かに金貨を受け取る。
そのやり取りを見ていた周囲の冒険者たちが、ざわめいた。
「あいつじゃないか?最近噂の新人槍使い」
「Cランクとは思えない仕事ぶりだな……」
「盗賊を相手にして、護衛対象を傷ひとつつけずに守ったって話だ」
ミレイは淡々と金貨を受け取り、静かに礼を言った。
「確かに受け取りました」
それを見ていた熟練の冒険者が、ふっと笑った。
「面白ぇ新人が来たもんだな」
ミレイは気にせずギルドの掲示板へ向かいながら、一つの目的を思い出していた。
(黒い者……あれの正体を知る必要がある)
リーナの村で遭遇した異形の存在。通常の魔物とは異なり、不気味な瘴気を纏っていた。
(あれは……神が言っていた魔王に繋がるものかもしれない)
ミレイはふと、近くのテーブルで話していた冒険者たちの会話に耳を傾けた。
「最近、また行方不明者が増えてるらしいな」
「ああ。街道沿いで消えたって話だ……まるで影に呑まれたみたいに跡形もないってよ」
ミレイはその言葉を聞き、ゆっくりと視線を向けた。
(影……黒い霧……?)
ミレイは静かに拳を握りしめる。
「……もう少し、調べる必要があるみたいね」
ミレイは受付に戻り、先ほど対応した受付嬢に尋ねた。
「すみません。行方不明者について詳しく知りたいのですが、ギルドには何か情報がありますか?」
「行方不明者の件ですね……最近、街道沿いの村でいくつか報告が上がっています。特に、廃村となった場所の近くで姿を消した人が多いようです」
「廃村……?」
「ええ。かつて住人がいた村ですが、数年前に突然人がいなくなって、それ以来放置されているそうです」
ミレイは頷き、さらに尋ねた。
「そこへ向かった冒険者や調査隊は?」
「何度か調査が行われましたが、特に目立った手がかりは得られていません。ただ……」
受付嬢は少し言葉を濁した。
「……?」
「戻ってきた冒険者の一人が、"村の中で何かに見られている気がした"と言っていたそうです。それが何なのかは分からないのですが……」
(……気配を感じた?)
それはリーナの村で感じた、あの不気味な視線に似ているのではないか。
ミレイは拳を握り、決意を固めた。
「……その村へ行きます」
「えっ? でも、それは——」
「問題ありません」
受付嬢は一瞬言葉を失ったが、ミレイの真剣な眼差しを見て、ゆっくりと頷いた。
「分かりました。ただ、一人では危険です。慎重に行動してくださいね」
「ありがとうございます」
ミレイは軽く会釈し、ギルドを後にした。
(廃村に何かがある……それを確かめなければ)




