閑話休題(薬師見習いリーナ) 2
ある日。
市場の喧騒の中、乾いた悲鳴が響いた。
「リーナ! こっちに来て!」
リーナが慌てて走ると、そこには額から血を流した男が座っていた。どうやら市場で荷馬車にぶつかり、転倒したらしい。血が流れる額に手を当て、苦しそうに顔をしかめている。
「血……!」
リーナの手が震える。今まで包帯の巻き方や薬の調合は学んできたが、実際に患者を治療するのは初めてだった。練習とは違う、生身の人間の痛み。それが目の前にある。
「落ち着きなさい。まずは傷口を見て、必要な処置を考えるのよ」
エリサの冷静な声が響く。リーナは深呼吸し、男の傷を観察した。幸い、深い切り傷ではなく、表面の裂傷だ。だが、血はまだ滲み続けている。消毒し、止血すれば問題ない。
(できる……私にも、できる!)
震える手を無理やり止め、清潔な布を手に取る。血に染まった男の額をそっと押さえると、彼がわずかに顔をしかめた。
「しみるけど、我慢してね」
優しく声をかけながら、慎重に血を拭き取る。消毒薬を浸した布を傷口に当てると、男が息を呑んだ。
「ちょ、ちょっと待て、そんなに染みるもんなのか……?」
「大丈夫、すぐに痛みは和らぐから」
そう言いながら、リーナは素早く包帯を取り出し、手際よく巻きつける。少し手が震えたが、なんとか形になった。
「……ふぅ」
「よくやったわね、リーナ」
エリサが微笑む。リーナの顔が、誇らしげに綻んだ。
「ありがとうな、小娘。助かったよ」
男が苦笑しながら頭をかく。リーナはまだ緊張した面持ちだったが、確かに一歩前に進んだ。




