表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/107

第五章 〜城塞都市ファル=ガルド〜 7

 ギルドでの手続きを終えたミレイとリーナは、そのまま宿舎へと向かった。ギルドの施設は想像以上に広く、活気に満ちていた。依頼を受ける冒険者たち、情報交換をする戦士や魔法使い、酒場のような賑やかな談笑の声が響いている。


 宿舎はギルドの奥にあり、登録したばかりの冒険者には安価で提供されると受付で説明を受けた。案内された部屋は、最低限の家具が整ったシンプルな作りだったが、ミレイとリーナにとっては十分すぎるほどだった。


「こんなちゃんとした部屋に寝られるなんて……」


 リーナが感動したように部屋を見渡す。これまで森での野宿や、村の廃屋で寝泊まりしていたことを思えば、これほど快適な空間はなかった。


「やっとまともな布団で寝られるね」


 ミレイも頬を緩めた。冷たい床や硬い地面ではなく、清潔なベッドがある。それだけで十分だった。


 荷物を整理し終えると、リーナはギルドの薬調合室へ向かうことになった。彼女の仕事場は、ギルドの中でも比較的静かな区画にあり、薬草の仕分けや基本的な調合の補助をすることになるらしい。新しい環境に緊張しながらも、リーナは「頑張るね」と笑った。


「ミレイも、仕事見つけないとね」


「うん、お金も稼がないと」


 ミレイはギルドの依頼掲示板の前に立ち、ずらりと並んだ紙を見つめた。Cランクとして受けられる依頼の中には、討伐・護衛・探索といった内容があり、それぞれ報酬も異なる。


「どれがいいかな……」


 戦闘経験を積みたいなら討伐依頼がいい。安定した報酬を得るなら護衛。探索は未知の危険があるが、得られるものも多い。


「まずは無理のない仕事を選ぶか、それとも少し強気に行くか……」


 ギルドの掲示板には、大小さまざまな依頼が貼り出されていた。その中で目に留まったのは、低ランク向けのゴブリン討伐の依頼だった。


 ミレイは無意識のうちに拳を握りしめた。数日前、森の奥で命がけの戦いをした記憶が蘇る。あの時は、生きるために必死だった。今は違う。ギルドの正式な依頼として報酬が発生する。状況は変わったが、戦う相手は同じゴブリン。ならば、あの時の経験を活かせるはずだ。


「……ゴブリン討伐、やります」


 受付嬢が微笑みながら、依頼内容を確認する。


「この依頼は、街道沿いの小さな森に現れるゴブリンの群れを討伐するものです。目撃情報では、五体前後。すでに被害が出ているため、迅速な対応が求められます」


 ミレイはうなずいた。以前、森で戦った時は数匹のゴブリン相手に苦戦したが、今は武器も装備も整っている。加えて、リカルドとの実技試験を経たことで、戦闘の感覚も確実に向上していると感じる。


「前に森でゴブリンと戦ったことがあります。その時の経験が活かせると思います」


「それなら安心ですね。ただし、油断は禁物ですよ。ゴブリンは単体では弱いですが、集団になると厄介です」


「わかっています。準備をして、すぐに向かいます」


 依頼を正式に受け、ミレイはギルドを後にした。装備を確認し、簡単な食糧と水を補充する。今回は、生存のための戦いではない。依頼達成のための戦いだ。それが、冒険者としての最初の一歩なのだと、ミレイは自分に言い聞かせた。


 そして、彼女はナイフと槍を携え、再び森へと足を踏み入れた。


 森の中は静かだった。昼間とはいえ、木々が生い茂るせいで薄暗く、どこか肌寒さを感じる。ミレイは槍を手に、慎重に足を進めた。鳥の鳴き声が遠くで響く以外、周囲には何の気配もない。しかし——。


 ——いる。


 直感が告げていた。以前と違い、今の彼女は気配を読む力が向上している。単に動く影を追うのではなく、森全体の空気のわずかな乱れを感じ取ることができるようになっていた。


 木の陰に身を潜めながら、視線を前方へ送る。やがて、小さな影が数体、低い唸り声をあげながら森の中を歩いているのが見えた。ゴブリンだ。五体、いや、六体。受付で聞いた数よりも一体多いが、想定の範囲内だ。


(……どう仕掛けるか)


 生存本能が、冷静に戦術を組み立て始める。真正面から突っ込むのは悪手だ。相手の数が多い以上、個別に仕留めるのが理想。まずは一体、音を立てずに倒す。混乱させ、そこから一気に数を減らす。


 ミレイはナイフを逆手に持ち、音を殺しながらゴブリンの背後へと忍び寄った。気配遮断のスキルを活かし、慎重に足を運ぶ。以前の自分なら、こんな細かい動きはできなかった。だが、今は違う。


 間合いに入った瞬間、迷いなく喉を狙ってナイフを振るう。鈍い音が響き、ゴブリンがかすかなうめき声を漏らしながら、その場に崩れ落ちた。他の個体はまだ気づいていない。


(……あと五体)


 即座に槍へ持ち替え、二体目へと向かう。しかし、そこでミレイは気配の変化を感じた。森の奥から、別の足音が近づいてくる。新手か、それとも別の敵か——。


「……っ、まずい」


 考えるよりも先に、体が動いていた。ミレイは槍を構え、目前のゴブリンに一気に突撃する。突きの軌道は無駄がなく、完璧なまでに急所を貫く。絶命するのを確認する間もなく、次の敵に向き直る。


 今度は、気づいたゴブリンたちが武器を構え、こちらへ襲いかかってくる。


「……いいね、やろうか」


 ミレイは静かに呟くと、槍を正眼に構えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ