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第五章 〜城塞都市ファル=ガルド〜 5

 ファル=ガルドの街並みを抜け、ミレイとリーナは中央市場へと足を運んでいた。高い城壁に守られたこの都市の中心には、堅牢な石造りの建物が立ち並び、石畳の道を行き交う人々のざわめきが響く。商人の活気ある声、鍛冶場から聞こえる金属を打つ音、焼きたてのパンの香ばしい匂いが入り混じり、活気に満ちた都市の姿を描き出していた。


「ギルドって、あれかな。」


 リーナが指さした先には、一際目を引く建物があった。堅牢な石造りの二階建てで、入り口の上には「ファル=ガルド冒険者ギルド」と刻まれた木製の看板が掲げられている。扉の前には鎧をまとった戦士やローブ姿の魔法使いが集まり、談笑したり装備を手入れしたりしていた。


「思ったより気軽に入れそう。」


 街の人から手っ取り早く稼ぐならギルドに行くと良いと言われ、自分の記憶にある物語のギルドを思い浮かべ、治安の悪さを懸念していたのだがそうでもないようだ。


 ミレイは小さく息をついた。異世界に来て以来、何度も現実離れした光景を目にしてきたが、こうして冒険者たちの雑多な雰囲気を目の当たりにすると、妙に現実味を感じる。ここでは誰もが当たり前のように剣を持ち、魔法を操る。それがこの世界の「普通」なのだと、改めて思い知らされた。


「でも、ここなら宿も仕事も見つかるかもね。」


 ミレイは状況を整理しながら、小さく頷いた。


「よし、行こう。」


 ミレイはリーナと共に、ギルドの扉を押し開けた。


 ギルドの内部は、大きな酒場のようだった。広々とした空間には木製の長机と椅子が並び、各々の冒険者たちが杯を交わしながら談笑している。壁際には掲示板があり、無数の依頼書がびっしりと貼られていた。受付には数名のギルド職員が忙しそうに対応し、装備を身に着けた冒険者たちが順番を待っている。


「……すごいね。」


 リーナが小さく感嘆の声を漏らす。ミレイもまた、この空間の雰囲気に圧倒されていた。


 目の前を通り過ぎる大柄な男が、肩に担いだ巨大な剣を床に置くと、重たい金属音が響く。その隣では、長い杖を手にした魔法使いらしき女性が、何やら細かい文字が書かれた紙をじっと睨んでいた。武器を磨く者、戦いの話に花を咲かせる者、依頼を探す者——さまざまな人間が入り混じる場所。それがギルドだった。


「なんか、本当に冒険者の世界って感じ。」


 ミレイは静かに呟いた。これから自分たちも、この世界で生き抜くために、この場所に身を置くことになる。


「まずは、受付で話を聞いてみようか。」


 ミレイはリーナと共に、ギルドの受付へと歩みを進めた。


「冒険者登録をしたいんですけど。」


 受付には、小柄な女性が座っていた。栗色の髪を後ろで結び、シンプルな制服を身にまとっている。手元には分厚い帳簿が開かれ、次々と訪れる冒険者たちの手続きをこなしていた。


「冒険者登録ですね。では、お二人とも登録希望ということでよろしいですか?」


「はい。」


 ミレイが答えた直後、リーナが不安げに視線を上げる。


「えっと……私、戦えないんだけど……それでも登録できるの?」


 受付の女性は、穏やかな笑みを浮かべながら説明を始めた。


「冒険者ギルドには、戦闘職だけでなく、採取や調査などの非戦闘職の仕事もあります。ただ、基本的にはどの職でもある程度の危険を伴いますので、戦えない方にはお勧めできません。」


「そう、だよね……。」


 リーナが肩を落とす。ミレイは彼女の様子を見て、一瞬考え込んだ。


「……リーナは薬草とか、扱えたりする?」


 リーナは少し驚いたようにミレイを見つめ、それからゆっくりと頷いた。


「ううん、あんまり。でも村にいたとき、お母さんが薬を作るのを手伝ってた……本当にちょっとだけ、だけど。」


 受付の女性が興味深そうに目を細める。


「補助職として登録する手もありますよ。薬師見習いとして、薬草の採取や調合を行う依頼なら比較的安全です。」


 リーナの表情が少し明るくなった。


「それなら、できるかも……。」


 ミレイは頷きながら、自分の登録について尋ねる。


「私は普通に、戦闘職で登録できますか?」


「はい。基本的な能力測定と簡単な実技を行っていただき、適性を確認します。その上で、ランクを決めさせていただきます。」


「……ランク?」


 受付の女性は、手元の書類をめくりながら説明を続ける。


「冒険者はFランクから始まり、実績を積むことでE、D、C……と昇格していきます。最上位はSランクですが、これは英雄級の冒険者のみが到達できるものですね。」


「なるほど……。」


 ミレイは興味深そうに頷いた。


「では、登録手続きを進めますので、こちらの紙に名前を書いてください。」


 ミレイとリーナは、それぞれ紙に自分の名前を書き入れた。これまで問題なく会話も出来ていたが、今更ながらに疑問に思う。どうして私はこの異世界で見知らぬ言語を自在に扱えているのだろうか。


 思い浮かぶのは神の姿だった。彼女の御業をいちいち疑問に思っても仕方がないと思うが。


「では、実技試験の準備をしますので、しばらくお待ちください。」


 受付の女性が手続きを進める中、ミレイはふと考えた。


(私の戦闘力、どれくらいの評価を受けるんだろう……?)


 これまで戦い抜いてきた経験が、この場でどう評価されるのか。ミレイは静かに拳を握った。


 やがて、受付の女性が顔を上げて告げた。


「あなたの実力を測るため、実技試験を行います。試験官は……リカルド教官です」


 その名を聞いた瞬間、周囲にいた冒険者たちがざわめいた。


「リカルド教官か……」「また厳しい試験になるな」「あの人に認められれば、本物ってことだな」


 ざわめきの理由を察しながらも、ミレイはただ静かに頷いた。

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