第五章 〜城塞都市ファル=ガルド〜 1
空が夕暮れに染まる中、ミレイは静かに森を抜け、リーナの待つ場所へと戻った。焚き火の残り火がまだかすかに燻り、そこに小さく座るリーナの姿が見える。膝を抱え、じっと地面を見つめていた。
「……戻ったよ。」
ミレイの声に、リーナは少し顔を上げた。だが、その瞳にはまだどこか不安の色が宿っている。
「村……どうだったの……?」
「魔法陣を壊した。あれが黒いやつを生み出していた可能性が高い。もう襲ってくることはない……と思う。」
リーナはかすかに頷いたが、すぐに目を伏せる。まるで、そこに戻るのを恐れているかのようだった。
「……村に、行くの?」
ミレイは頷いた。
「必要なものを探すよ。色々足りてないし。」
リーナの表情は硬く、唇を噛みしめている。
「無理しなくていいよ。辛かったら、ここで待ってても」
リーナは少しの間沈黙した。
「ううん……行く。」
その声は小さいながらも、どこか決意が感じられた。
ミレイは立ち上がり、槍を手に取る。
「じゃあ、行こう。」
夕暮れの空が赤く染まり、村の影を長く引き伸ばしていた。ミレイとリーナは、ゆっくりと村の入り口に近づく。焼け焦げた建物、崩れた家屋——村は静まり返り、風だけが冷たく吹き抜ける。
「……大丈夫?」
リーナは小さく頷く。
「……大丈夫。ちゃんと見ておきたいの」
その声は震えていたが、意志の強さが感じられた。ミレイは彼女の決意を尊重し、静かに頷く。
「じゃあ、一緒に行こう」
二人は慎重に足を踏み入れた。村の中は荒れ果てており、人の気配はない。地面には散乱した荷物や壊れた家具が転がっている。ミレイは注意深く周囲を見渡しながら、リーナの表情を横目で確認した。
「……ここ、リーナの家?」
リーナが立ち止まり、視線を落とした。その目の先には、半壊した木造の家があった。扉は吹き飛び、壁には大きな亀裂が走っている。
「……うん」
彼女はそっと中に足を踏み入れる。ミレイも後に続いた。
室内は埃っぽく、家具は倒れ、食器が割れて散乱している。かつては生活があった場所。けれど、今は誰もいない。
「……全部なくなっちゃったんだ」
リーナの声は静かだった。ミレイは何も言わず、彼女が気持ちを整理するのを待った。
リーナは小さく息を吸い、何かを振り払うように顔を上げる。
「……まだ使えそうなもの、探す」
「うん、そうしよう」
二人は慎重に室内を探し始めた。使えそうな毛布や道具を集め、食料の残りを確認する。ミレイは古びた棚の引き出しを開け、思わず手を止めた。
「……これは?」
中には小さな革袋があり、中を覗くと、薬草が詰められていた。
これだけでも、あると助かる。
ミレイは袋を慎重に閉じ、腰のポーチにしまった。
「とりあえず、今日はもう暗いし、ちゃんと休んだ方がいいね。どこか無事な家を探して、そこで寝よう」
「……うん」
リーナはまだ表情に沈みが残っていたが、それでも小さく頷いた。
二人は慎重に村の中を進み、比較的無事な家を探し当てた。屋根は崩れておらず、壁もまだしっかりしている。中に入ると、埃っぽいが寝るには十分だった。
「じゃあ、まずは身体を拭いて、それから何か食べようか。ずっと汚れっぱなしだし、少しでも整えたほうがいい」
「……うん」
ミレイは水を探し、少しの布を濡らして体を拭く。リーナも同じようにし、二人は少しだけ気持ちを落ち着けた。
その後、簡単な食事を取り、ようやく横になる。
「明日は装備をちゃんと整えよう。私も、もっとちゃんとした槍が欲しいし」
「……うん、私も、少しは手伝えると思う」
「頼りにしてる」
ミレイはそう言って、ゆっくりと目を閉じた。
こうして、長い一日が終わった。




