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第三章 〜少女との出会い〜 8


 少女の震える声に、ミレイは一瞬、言葉を失った。森の静寂が、重くのしかかる。少女の手が、震えながらミレイの服を掴む。言葉が喉の奥で詰まり、声にならない。


 ミレイはそっと少女の手を握り、ゆっくりと言った。


「今は無理に話さなくていい。でも、君は生き延びた。それが何より大事。」


 少女の瞳に、かすかに光が戻る。


「……うん……。」


 ミレイは立ち上がり、焚き火の残りを確認した。火は完全に消えていたが、灰の中にまだ温かさが残っている。


「朝ごはんを作ろう。食べたほうがいい。」


 少女は小さく頷いた。


 ミレイは、昨日の残りの食料と、簡単な狩りで手に入れた小動物を取り出し、慎重に処理を始めた。食事をとることで、少女の体力も少しは戻るはずだ。






 焚き火の炎が、ゆっくりと揺れていた。湿った木々の隙間から差し込む朝の光が、まだ眠る森をぼんやりと照らしている。遠くで鳥のさえずりが聞こえ、夜の静寂が少しずつ崩れ始めていた。


 ミレイは焚き火の前にしゃがみ、串に刺した肉をじっくりと焼いた。表面がじわじわと色づき、脂が滴り落ちる。肉の焼ける香ばしい匂いが広がると、腹の奥から鈍い空腹感が湧き上がる。


「……少しは落ち着いた?」


 対面に座る少女は、炎を見つめたままわずかに肩を震わせた。けれど、ゆっくりと頷く。


「……昨日は、ありがとう。」


「気にしないで。私も偶然だったしね。」


 ミレイは軽く肩をすくめると、焼け具合を確認する。表面は焦げ始めているが、中まで火が通っているかはわからない。少し炙る時間を長くしようと串を持ち上げながら、ふと思い立つ。


「ねえ、君の名前、聞いてもいい?」


 少女は一瞬、視線をさまよわせた。まるで、自分の名前を言うのをためらっているかのように。けれど、短い沈黙の後、小さく口を開く。


「……リーナ。」


 ミレイはその名前を胸の中で繰り返すように呟いたあと、穏やかに微笑んだ。


「リーナか。いい名前だね。」


 少女——リーナは驚いたようにまばたきをしたが、何も言わなかった。


「はい、これ。まだ熱いから、少しずつ食べてね。」


 ミレイは焼き上がった串をリーナに渡す。リーナはためらいながらも受け取り、小さくかじった。


「……美味しい……。」


 そのかすかな声を聞いて、ミレイはほっと息をつく。


「ちゃんと食べておかないと、また倒れるよ。」


 リーナは黙って頷き、慎重に食事を進めていった。


 炎の前で静かに食事をとりながら、ミレイは考える。

 この少女は、なぜこんな場所にいたのか。なぜゴブリンに追われていたのか。

 そして——彼女の村で、何が起こったのか。


 炎のはぜる音だけが、しばしの静寂を満たす。


 ミレイは食事の準備を進めながら、ふとリーナの服の袖が乱れているのに気づいた。そこには、擦り傷や打撲の痕が無数に残っている。


「手当て、しよう」


「え……」


「昨日も応急処置したけど、改めて見ておきたい。特に、傷が化膿してたらまずい」


 ミレイは慎重に葉を揉みほぐし、傷に塗る。刺激があるのか、リーナは少し顔をしかめたが、すぐに痛みが和らぐような表情になった。


「……少し楽になった」


「なら、しばらく様子を見よう」







 朝の光が森の奥へと差し込み、木々の間に淡い影を作る。空はどこまでも澄み渡り、鳥たちが静かにさえずっている。ミレイは焚き火の残りを片付けながら、リーナに視線を向けた。


「準備ができたら、出発しよう」


 リーナは少しの間躊躇ったあと、しっかりと頷いた。

獲得スキル:応急処置 [D] Lv.1

 - 簡単な傷の手当てを行い、出血や感染を防ぐ。

 - 軽度の傷ならば、自然治癒を促進することができる。

 - ただし、本格的な治療や重傷の回復には向かない。

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