第三章 〜少女との出会い〜 5
ミレイはゆっくりと息を整え、槍を握る手の力を緩めた。全身が疲労で重く、腕が痺れている。それでも、まだ戦える。そう、戦わなければならない場面はこれからも続く。
地面にはゴブリンの死体が転がり、血の匂いが鼻をつく。その間に倒れている少女。
彼女は小さく肩を上下させ、かすかに呼吸している。
「……大丈夫?」
ミレイは慎重に少女へと歩み寄り、しゃがみ込んだ。彼女の顔色は悪く、体は冷え切っている。
「しっかりして。まだ意識はある?」
少女のまぶたが微かに震え、ゆっくりと開いた。虚ろな瞳がミレイを捉え、かすれた声が漏れる。
「……逃げなきゃ……ここにいたら……」
震える手がミレイの袖を掴む。その力は弱々しく、それでも必死さが伝わってきた。その言葉に、ミレイは警戒しつつも、まずは彼女を安全な場所へ運ぶべきだと判断した。
「まずは、安全な場所に移動しよう。」
少女の体は驚くほど軽かった。疲弊しきっているのは明らかだ。ミレイは支えるように立ち上がり、周囲を見渡した。森はまだ暗く、油断はできない。次の脅威がすぐに襲ってくるかもしれない。
地面には、倒したゴブリンの持ち物が散乱していた。ミレイは少女を支えながら、使えそうなものを目で探す。
棍棒、錆びたナイフ、小さな革袋——慎重に袋の中身を確認すると、乾燥した草が詰まっていた。
「……なんだろう、これ。」
見覚えのない葉。手に取ってみると、わずかに独特な香りがする。指で揉んでみると、ほのかに苦味を感じる匂いが立った。食べ物ではなさそうだ。
そのとき、腕に支えていた少女が微かに動いた。指先が震えながら、革袋の中の草を指さす。
「……前に……みんなが……怪我の時に……使ってた……」
ミレイは驚いたように少女を見下ろした。意識が朦朧としているはずなのに、はっきりと薬草の存在を示している。
「これ、薬草なの……?」
少女はゆっくりと頷いた。
ミレイは改めて草を観察した。葉の形、独特な苦味のある香り、乾燥して保存されていたこと——確かに、薬草として扱われていた可能性は高い。
「……そうなんだ。だったら、ちゃんと使えるか試してみないと。」
少女はかすかに微笑んだように見えたが、それも一瞬のことだった。再び意識が遠のいたのか、頭がぐらりと傾ぐ。
「ちょっと、しっかりして……もう少しだけ、頑張って。」
ミレイは少女を支え直し、歩を進める。森の暗がりが揺れ、風が枯れ葉を巻き上げた。次に何が起こるかわからない状況だが、一つだけ確かなことがある。
——この子を、生かさなきゃ。
手のひらの薬草を軽く握りしめながら、ミレイは静かに決意を固めた。




