第十一章 〜変質〜 3
リヴィアも剣を収め、槍をじっと見つめた。
「間違いないわ。普通の武器なら、あれに触れることすらできない。でも、あなたの槍は確実に効いていた……どういうこと?」
ミレイは槍の柄を軽く撫で、静かに息をついた。
「……この槍は、精神領域に干渉する特性を持ってる。"灰槍"って名前がある」
「精神領域?」
リヴィアが眉を寄せる。
「うん。触れただけでその人の思考を鈍らせたり、判断力を低下させたりする効果があるみたい。だから、黒い者にも干渉できたんだと思う」
「は?」
バルドとリヴィアが揃ってミレイを見た。
「おいおい……なんだそりゃ。そんなヤバいもん振り回してたのかよ、お前……!」
バルドが酒瓶を持ったまま、半分笑いながらも呆れたような顔をする。
「いや、別にそこまで危険なものじゃないよ。私は影響を受けないし、普通の人間には扱えないだけ」
「"扱えないだけ"の問題じゃねぇだろ!」
バルドが即座にツッコむ。
「そんなん、うっかり握ったら脳みそぐちゃぐちゃになりそうじゃねぇか!」
「試してみる?」
ミレイが、にこりと無邪気に微笑みながら、槍の柄をちょっとだけバルドに向ける。
「お、おい……やめろ! おっかない!」
慌てて一歩引いたバルドを見て、リヴィアが小さくため息をついた。
「そんなもの、どこで手に入れたの?」
「まあ……偶然?」
「偶然で済む話じゃないわ」
リヴィアの冷静なツッコミに、ミレイは肩をすくめた。
「ま、私が使えるなら問題ないでしょ?」
「問題しかねぇよ……」
バルドはぼやきながら酒を煽る。
「でも、確かにこれなら呪詛生命体に対抗できるかもしれないわね」
リヴィアは槍をじっと見つめながら言った。
「ただし、どこまで通用するかは分からない。今回の個体には有効だったけど、もっと強力な呪詛生命体にはどうか……」
「それは使いながら試していくしかないね」
ミレイは槍を背中に担ぎ直す。
「……しかし、お前ってやつは」
バルドがため息をつきながらミレイを見る。
「ただのできる槍使いの冒険者だと思ってたら、なんかトンデモねぇ呪いの武器持ちだったとはな……」
「別に呪いじゃないよ。ちょっと特殊なだけ」
「ちょっとのレベルじゃねぇんだよなぁ……」
バルドは頭をかきながら、呆れたような、それでいてどこか感心したような視線を向ける。
「ま、いいさ。お前が扱えてるなら、それが武器になるってことだ。上手く使うなら頼もしい」
「もちろん。そのために使うんだから」
ミレイは軽く笑った。
「……ただし、調子に乗るなよ」
バルドが真面目な口調で言う。
「そういう強すぎる武器は、使う側を狂わせることもある。お前が何も感じてなくても、"慣れる"ことで変化が生まれることだってあるんだ」
「……気をつけるよ」
ミレイはその言葉に、珍しく素直に頷いた。
「それならいい」
バルドは小さく笑い、酒瓶を軽く振った。
「さて、話は終わりね。行くわよ」
リヴィアが前を向き、歩き出す。
ミレイも槍をしっかりと背負い、バルドと並んでその後を追った。




