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利成君と明希の子育て

「フローライト第四十七話

奏空は普通に地元の小学校に入学した。低学年の頃はそんなに目立つこともなく、普通に元気な男の子といった感じで、勉強も良くできていた。ところが四年生になってからは授業中でもお構いなしに何かを食べてみたり、禁止されているゲームを持って行ったり、気分が乗らないなどと学校に行かないと言ってみたりで、明希は何度か学校に呼び出された。


 


「元気なのはいいんですけど・・・」と担任の教師は言った。


「はぁ・・・」と明希は頭を下げた。


「こないだは授業中に私の言ったことがおかしいって・・・それもクラス全員を巻き込んで言うものですから・・・」と先生が言葉を濁した。


「すみません・・・」と明希はもう一度頭を下げた。


「それと奏空君のお父様のことを悪く言った子供たちがいて・・・三名ほどの生徒を突き飛ばしたり、叩いたりして・・・怪我まではさせなかったのでそこはまあ良かったんですけど・・・」


「えっ?あの子が他の子をですか?」


「そうです」ときっぱりと言う先生。


「すみません、その・・・どのお子さんか名前教えてもらえますか?謝りにいきますから」


明希がそういうと、先生が生徒の名前を教えてくれた。


(もう・・・どうしよう・・・)と考えながらその日家に戻った。


 


明希が帰宅すると奏空の姿が見えなかったので、明希はピアノの部屋に行った。最近はよくピアノを弾いていることが多かった。


「奏空」と明希はピアノを弾いている奏空に呼びかけたが、返事もなくピアノを弾き続けているので明希は少し声を大きくして呼んだ。


「奏空!」


すると奏空がピアノを弾く手を止めずに「何?」と言った。


「ちょっと話があるからピアノを止めて」


「・・・・・・」


奏空からの返事はない。そのままピアノを弾き続けているので明希はそばまで行って奏空の顔を見た。


「奏空?」


するとようやく奏空がピアノを弾く手を止めた。


「何?」と言う言い方は利成にそっくりだ。


「あのね、先生に言われたんだけど、あなた他の子のこと突き飛ばしたりしたの?」


そう言うと奏空は「ああ、それ?」と言ってからまたピアノを弾き始めた。


「奏空?!」と明希はまた大きな声を出したが、今度はまったくピアノを弾く手を止めずに完全に無視している。


(もう・・・)


こうなったらもう奏空は絶対に明希のいうことを聞かない。


(仕方ない・・・また利成に言ってもらうしかないか・・・)と諦めて明希はピアノの部屋を出た。


 


その日の夜、わりと早く帰って来た利成に、食事の後片づけが終ると明希は 珍しくテレビを見ている利成に声をかけた。奏空は自分の部屋に行ってしまっていた。


「利成」


「ん?」と利成はテレビに視線をむけたまま答えた。テレビの内容は歌番組だった。明希はそれをちらっと見てから続けた。


「奏空のことだけど・・・今日、先生からまた呼び出されたの」


「そう」と関心がなさそうに答える利成に少しカチンとくる。


「あの子ね、他の子を突き飛ばしたり叩いたりしたんだって」


そう言うと利成がようやく明希の方を見た。


「突き飛ばしたりって?怪我でもさせたの?」


「ううん、怪我はないらしいけど・・・どうも利成のことを悪く言われたらしくて」


「そうなんだ」


「だけど、だからといって暴力みたいなことはダメでしょ?私、その突き飛ばしたっていう子供たちの名前聞いてきたから謝りに行こうと思って」


「怪我はしてないならそこまでしなくていいんじゃない?」


「だって・・・ちゃんとしておかないと、またこいうことしたら困るし・・・」


「こういうことって?」


「他の子を叩いたり、暴力みたいなことだよ」


「俺のことを悪く言われてしたことなんだろ?じゃあ、やみくもにしたわけじゃないんだから親が謝りに行く必要ある?」


「・・・じゃあ、利成から注意して。昼間私から話そうとしたんだけど、奏空ったら例のごとく私のことは無視するんだよ?」


「そう・・・まあ、無視はダメだよね」


「でしょ?だからお願い」


「・・・わかったよ。奏空のこと呼んできて」と利成が言う。


明希は少しホッとして奏空を部屋まで呼びに行った。「奏空?」と部屋のドアを開けると奏空がスマホで通話していた。話しながらこっちをチラッと見る奏空。


「うん、そうだよ。大丈夫だって。ゆっきは間違ってない。そいつのほうが悪いよ」


(ん?)と思う。


「そうそう、気にしないで学校に来なよ。何か言ってきたら俺がまた殴ってやるよ」


(ん?)とまた思う。


「うん、それじゃあね。こっちも明希がきちゃったから切るよ」と奏空は言って通話を切った。


「奏空?殴るって?」


「別に」と態度が悪い。


(もう反抗期?)と思ったが気を取り直して言った。


「利成が呼んでるよ」


「利成さんが?どうせ明希が告げ口したんでしょ?」


(は?)と思う。


「告げ口なんてしてません。呼んでるから行って!」と少し声を荒げてしまった。


「へいへい」とかなり態度が悪い奏空。


(もう、ほんとに反抗期ってこんな早かったっけ?)


 


リビングに行くと奏空が、「利成さん、何?」と普通に言ってから利成の隣に座った。


(もう、急に声の調子まで変わるんだから)


「あ、see-throughだね」とテレビを見て奏空が言ったので、明希は驚いてテレビを見た。


「復活したんだ」と奏空が言っている。そうだ翔太のバンドのsee-throughは一時活動を休止していた。


「see-throughのこと知ってるんだ」と利成が言った。


「知ってるよ。バンド系はほとんど」と答える奏空。


「そうか」と利成がテレビを見ながら答えている。


明希も一瞬奏空のことを忘れてテレビを見た。翔太の姿も映っていた。


(翔太も年取ったかも?)


そう思ってから、だとしたら自分もかと思う。あれから何年たったのだろう・・・。翔太が離婚したと聞いて、その後自分が妊娠した。それ以来は会っていなかった。


(ん?)と明希はチラッと利成を見た。珍しくテレビをつけてると思ったら・・・?


(このためじゃないよね?)と少し思う。


「ボーカルいいね」と言う奏空の言葉を聞いて明希はハッと我に返った。


「んんっ」と咳ばらいをして利成を見る。すると利成じゃなく奏空がこっちを見てからまたテレビに視線を戻した。


「奏空、クラスの子突き飛ばしたんだって?」と利成が言った。


「うん・・・」と答える奏空はテレビを見つめたままだ。


「俺のこと言われたって?何言われたの?」


「・・・昔のことだよ」


「昔?」


「クラスの奴がユーチューブで昔のこと見て、そのこと」


「昔って、どんなこと?」と明希が口を挟んだ。


「・・・利成さんのことじゃないよ」


「えっ?」と明希は驚いて奏空を見た。


「俺のことじゃないんだ?」と利成が奏空を見つめている。その視線に気がついた奏空が観念したようにソファに深く腰掛けた。


「明希が頭おかしいって・・・後、子供堕ろしてるって・・・」


「え?何それ・・・」と明希は呆然とした。


「そうか・・・それで頭にきたんだね」と利成が言った。


「そうだよ」と少し不貞腐れたように奏空が答えた。


「それは突き飛ばして正解だね」と利成が笑顔で言ったので、明希は少し焦って言った。


「ちょっと、利成」


「ん?」


「ちゃんと言って。突き飛ばしたらダメでしょ?」


「明希、ちょっとおいで」と利成が奏空の座っている反対側の自分の隣のスペースを手でポンポンと叩いた。


明希はチラッと奏空を見てから利成の隣に座った。


「突き飛ばしたらダメなのはどうして?」


(なぬ?)と思う。


「そんなの・・・ダメでしょ。怪我でもさせたら大変だもの」


「そう、じゃあ、明希が困るからだね」


「え?違うでしょ?突き飛ばすとか叩くとか暴力は何でもダメだよ。それにもし逆の立場だったら利成だって嫌でしょ?」


「逆とは?」


「奏空が叩かれたり、突き飛ばされたりしたら」


「そうだね。じゃあ、もうこれは親同士の感情の問題だね」


「だからー違うって。ちゃんとそういうことしたらダメってこと教えないと」


「そう?じゃあ、奏空に聞こうか?」と利成が言うと、テレビを見ていた奏空が利成の顔を見た。


「奏空は、突き飛ばすことは良いことだと思う?」


「良くないよ」


「そうか、じゃあ、悪いこと?」


「悪くもないよ」


(なぬ?)と明希はまた思う。


「悪くもないし、良くもない?」と利成が続けて聞く。


「そうだよ」


「どうしてそう思う?」


「・・・”突き飛ばす”ってことだけなら”悪い”かもしれないけど、突き飛ばす必要がある時もあるよ」


(あー・・・もう・・・利成みたいなこと言うんだから)


まだ小学四年生だ。それなのにここまで冷静に判断できる?


「そうか」と利成が嬉しそうに奏空の頭を撫でた。そこでちょうどテレビの歌番組も終わる。


「もういい?」と奏空が言う。


「いいよ」と利成が言ったので明希は「あ、ちょっと」と奏空を呼び止めた。


立ち上がってリビングから出ようとしていた奏空が振り返る。


「奏空、お風呂入っちゃって」と明希が言うと「わかった」と奏空がリビングから出て行った。


(はぁ・・・)と心でため息が出た。


「明希」と利成が明希の肩を引き寄せた。


「奏空を型にはめたら出たがるって言ったでしょ?」


「そうだけど・・・」


「本人もわかってる様子だし、それに、今回のことは明希のことで怒ったみたいだしね」


「んー・・・だけど、昔の・・・子供のこと・・・そんな風に言われてるなんて・・・」


「まあ、それは気にすることもないよ」


「それはそうだけど・・・」


昔のことでもインターネットの普及で簡単に検索できる。奏空には二回の死産の話はしていなかった。


「相手のところに謝りに行く?」と利成に聞かれる。


「・・・もういいよ。行かない」と明希が答えると、「そうか」と利成がキスをしてきた。そこでちょうど着替えを手にした奏空がリビングに入って来て、キスをしているところを見られた。


奏空は明希と目が合うと、「やれやれ」と言い、大人みたいに肩をすくめてみせてから浴室の方に行った。それを見た利成が笑っている。


「もう、奏空ったら絶対私のことバカにしてるよね」


「そんなことないよ」とまだ笑顔のまま利成が言った。


ほんと利成がもう一人増えたみたいだ。


(何だか自信なくす・・・)と前途多難な予感・・・・・・。

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