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15・SIDE:セリーナ

お久しぶりになってしまい、申し訳ありません。

またコンスタントに投稿できるよう、頑張ります!

どうかよろしくお願いします(>-<。)


 それから、セリーナは普段と変わらぬ生活を送っていた。

 レナートを伴い、学院のカフェテラスで束の間の休息を楽しむ。香り高い紅茶と、香ばしいナッツに極上の甘みを加えたハチミツのタルトを口に運びながら、先日の事を思い返していた。

 

 クライスト子爵と密談を交わした、あの日の夜。

 セリーナは部屋に戻り、マリアに杖とフィリップ・デュボワ伯爵の衣装を預け、ネグリジェに着替えた。そして、クライスト子爵の動向を探る為、少し遅れて帰ったカルロが部屋に着くや否や――廊下でマリアと話すレナートの声が聞こえてきた。


 カルロは、咄嗟に特性セリーナちゃん人形を抱えテラスから外に飛び出し身を潜めた。カルロとマリアが機転を利かせてくれて事なきを得たが、正直、運が良かったとしか言えない。


(う~ん、どうしたら良いのかしら……)


 やはり、これ以上隠し通すのは難しいだろうか。

 しかし、カルロの言う通りレナートは法を守るべき立場にある人。どんな反応を示すかわからない以上、安易に告げることはできないし――たとえ秘密を共に守ってくれるとしても、そのせいで彼の立場が危うくなる可能性も考慮しなければならない。


(やっぱり、隠したまま行動する? でも……)


 チラリと横を見ると、直立し、表情を硬くするレナートの姿が見える。

 毎日見ている内に何となくわかるようになってきた。ここ最近、どことなく気落ちした顔をしている。セリーナとしては、本意ではない。

 

(明らかな悪意を持つ者なら、退けるのは簡単なのに。舞台を用意するだけで勝手に悪事を働いて、勝手にその身を滅ぼしてくれるから。レナートは、誤解されているだけで、間違いなく誠実で優しい人なのに……)


 そもそも、まず、何よりもこの状況が腹立たしいのだ。みな、何故彼の魅力に気が付かないのか。崇高な精神により磨かれた凛々しい眼差し。すっきりと引き締まった頬に、男らしく筋張った首筋。シャツの上からでも分かる逞しい体と、覗き見える前腕。瑞々しい色香は、これまでセリーナが接してきた中でも群を抜いている。


 じーっと眺めていると黄金の瞳がこちらを向いたので、セリーナはにこりと微笑みを返す。それだけで、レナートは僅かに戸惑った表情を見せ、視線を外す。他の人にはわからないほどの微妙な変化だけれど――そのもじもじとした様子が可愛らしくて癖になりそうだ。逞しい体のサイズ感とのギャップに、自然と頬が緩んでしまう。


(格好良くて可愛いなんて、最高じゃない? 肌や瞳の色が何だと言うの? その生き様だけで十分尊敬するに値する人なのに、みんな、やたらめったら怖がっちゃって……まるで、何かの『呪い』みたい)

 

 セリーナは、はたと動きを止める。何かの答えに結び付きそうな気がした。

 過去に書籍か、文献で――似たような事例を見たような。

 しかし、その思考はレナートの動きで遮られる。セリーナを背に隠すように一歩前に出て、一点を見つめて何かを警戒している。セリーナは、座ったままその様子を見上げ、首を傾げた。


「レナート?」

「セリーナ様」


 重なる様に爽やかに響く声が聞こえ、レナートの向こうに現れた人影を見る。真っ直ぐな藍色の髪を持つ、いかにも"優等生"という雰囲気の男子学生が、こちらに近付いて来ていた。


「まあ、ユリウス様」


 名前を呼べば彼は立ち止まり、一度丁寧に頭を下げた。

 顔を上げると、水色の瞳を嬉しそうに細める。

 

 セリーナは、レナートの袖の裾を摘まみ、その注意を自分に向ける。


「レナート、大丈夫よ。お友達なの」


 レナートは、即座に身を引いた。胸に手を当て礼を示し、頭を下げる。


「失礼致しました。職務につき、ご理解頂きたく」

「構いませんよ。お噂はかねがね……フィオレ公爵家のご子息でいらっしゃいますね。アーヴィング公爵家のユリウスと申します。お父上は、お変わりございませんか?」


 ユリウスは、レナートに臆することなく笑顔を見せた。彼の名は、ユリウス・レジナルド・アーヴィング――ニンフィア帝国に三つある公爵家の内、最も力を持つ一族の嫡男であり一人息子。品行方正で成績優秀。男女ともに人気が高く、貴族達からの評判も良い。第一皇子の側近を勤めており、完全なる皇后派の一人。当該、セリーナの婚約者になるのではと目されている人物だ。

 

「……申し訳ございません。生家を離れ、長いもので」


 レナートは表情を変えること無く淡々と答えるが、セリーナは少し引っかかりを覚えた。フィオレ公爵とは、数度顔を合わせたことがある。正義感が強く、実直な人であったような気がするが――実のところ、深く話したことはない。レナートの家族は、レナートの噂について、どう受け止めているのだろう。

 

「……なるほど。もしお会いする機会がありましたら、また鷹狩をご一緒させてくださいとお伝えください」


 ユリウスはセリーナに向き直り、「ご一緒しても?」とにこやかに尋ねる。セリーナが快諾すると、ユリウスは嬉しそうに頬を緩め席に着いた。

 

「ずっと、お会いしたいと思っておりました。先日ご相談に乗って頂いた母への贈り物の茶器ですが、お陰さまで想像していた以上に喜んで頂けました」

「まあ、それはよかった! 夫人のお生まれになった土地は、ラベンダー畑が美しいと伺ったことがあったのです。きっと、お好きな柄だと思いましたわ」

「僕だけではきっと、もっと味気のないものを選んでしまっていたと思います。セリーナ様の豊かで、思い遣りに溢れる感性があったからこそ選べたのです。心より感謝しています」


 セリーナは、『そうでしょ、そうでしょ?』と言うわけにもいかないので、「まあ、そんな」と軽く恥じらっておく。ユリウスは、見惚れた様子で頬を染め、照れたように微笑んだ。――好意があることを隠そうともしない。


(……悪意は感じないけど、思惑はある気がするのよね。徹底した貴族社会で生きて来たこの子が、こんなにもあからさまに感情を表に出すかしら?)

 

 もちろん、セリーナとしては婚約の話を進める気はさらさらないが、これ以上、婚約者候補が増えるのも困る。彼には、これからも存在として、良い防波堤でいて貰いたい。そして、リリー妃と敵対関係にあった皇后の忠臣であること、幼い頃から『本物のセリーナ』と親交があったことなどから、何か情報を聞き出せるのではと適度な距離感で関係を保っている。


「お兄様はお元気ですか?」


 無難な話題を選ぶと、彼は困ったように眉尻を下げた。


「それが、あまり体調が思わしくなく……今期に入ってからは、学院には一度もいらしていないんです」

「まあ、そうでしたの……」


 第一皇子の体調不良は、ここ数年に始まったことではない。今から約十一年前――リリー妃の馬車の横転事故が起こる直前、第一皇子と本物のセリーナの毒殺未遂事件があった。セリーナは軽症で済んだが、第一皇子は生死の境を彷徨ったと言う。幸い、一命は取り留めたものの、以降、定期的に体調を崩している。


(最後に見かけたのは、確か昨年の建国祭の時だったかしら? そこまで悪いようには見えなかったけど……)


 今、社交界は皇后の子である第一皇子派と、第一后妃の子である第二皇子派の、大きく二つに派閥が分かれている。本来であれば、皇后の子である第一皇子が皇位継承権序列第一位を持つはずなのだが、未だ立太子されないのはそこに理由がある。

 

 第一后妃が動き出したのなら、掘り返せばリリー妃やセリーナの件に繋がる可能性もある。少し調べてみようかと、ユリウスに申し出る。


「では、わたくしも近々お見舞いに伺ってみますね」


 ユリウスは僅かに驚いたように目を(みは)ったが、すぐにまた嬉しそうに相好を崩した。


「ええ、ぜひ。幼い頃は、ご兄弟の中でも取り分け仲の良かったお二人です。きっと、喜ばれると思います。その際は、是非僕にエスコートさせてください」


 それから、セリーナがタルトを食べている間、ユリウスは幾つか近況の報告のような話をした。そして、一つの話題が終わり会話が途切れた時、不意にレナートを見て言った。


「……そう言えば、あなたはまだ、徽章(きしょう)を付けられていないんですね」

徽章(きしょう)?」


 セリーナは、言葉を繰り返し首を傾げる。何の話だろうと思っていると、ユリウスがコクリと頷いた。


「はい。専属護衛騎士の方は、自らの主を表す宝石があしらわれた徽章を胸につけるのです。宝石は、お住まいの宮の名前と同じ物なので、セリーナ様の場合はオパールですね」

「へぇ……レナート、貰ってる?」

「……制作に時間が掛かっているようです」

「突然の任命のようでしたからね。僕の父も驚いていました」

「まあ、宰相閣下も?」


 それにはセリーナも驚いた。レナートの配属は、学院卒業後、セリーナの婚姻など先行きを決めるにあたり、皇族であるにもかかわらず専属の護衛騎士をつけていないのは外聞が悪いからだと考えていた。どうせ貴族の誰かが皇帝に進言したのだろうと――まさか、皇帝の独断だったとは。

 

(……変ね。自分勝手に振舞っているようで、しっかりと貴族達の心を掴むように動く人なのに。何を考えているのかしら?)


 かつては放っておいてほしくて、やむを得ず拒絶の態度を示したけれど、セリーナとしては特に皇帝に対して悪感情を抱いているわけではない。


 今一度レナートを見る。――誰かの差し金だろうか?

 でも、表情を硬く押し黙るその姿に、裏があるとはどうしても思えない。

 なら、彼の清らかさを利用した()()の思惑だろうか。

 水面下で、何かが動き出しているのかもしれない。


(そろそろ、本格的に切り込んでいかなくちゃいけない? ――ああ、でも何だかとても……楽しくなりそう)


 思わず頬が綻ぶ。カルロに言えば怒られるかもしれないが、妖精は本能で生きる生き物なのだから、許して欲しい。筋肉を愛でるのと同じくらい、お金を集めるのが好きで――遠慮なく悪戯が出来る悪い人間も大好きなのだ。


 『本物のセリーナ』を見つけ出し、その幸せを守ると言う本能が示す目的とは別に、少しくらい楽しんだってバチは当たらないはずだ。


 セリーナの様子に、二人の男が驚き息を飲んでいることなども気が付かず、セリーナは優雅に紅茶を啜った。ユリウスは、空気を変えるように話題を変える。


「……そういえば、セリーナ様。夏至祭の夜は、どうお過ごしになるか決められていらっしゃいますか?」

「――夏至祭?」


 すっかり忘れていた大イベントの名を聞いて、セリーナはパチパチと眼を大きく瞬かせた。


貴重なお時間を使ってお読みいただき、ありがとうございます。

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