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10・Side:レナート

筆が迷い、投稿の時間が遅くなってしまいました((*_ _))

引き続き、頑張ります!


 レナートは、オパール宮に用意された部屋で顔を洗う。

 週が明け、今日からセリーナと共に帝国立学院に同行する。

 カルロは、侍従としての仕事も溜まっているからと今日は護衛の任から外れることになった。

 

 セリーナの仕度が終わるまでに、自分も手早く身支度を整えなくてはいけない。

 それは頭では分かっているが、冷たい水で何度も顔を洗い流す。

 

(――……何故、皇女殿下から()()の香りがするんだ!)


 レナートは、決して顔に出すことはしないが内心困惑していた。

 帝都に来てからというもの、立て続けにあの爽やかな花の香りと出会った。何か特別な香水でもつけているのかと思ったが、その様子もない。強いて言うなら髪を櫛削る時に香油を付けていたが――そもそも、そんな微かな香りではない。


 特に、初見で騎士の忠誠を示すため手を取った時が一番まずかった。

 濃い香りで胸が高鳴り、勝手に体温が上がる。指先の震えを隠すのに精一杯だった。


(……任務に集中しろ! ただでさえ慣れない仕事なんだ、個人的な事由で殿下を危険な目に遭わせるなんてもっての外だ)


 頭を振って切り替える。

 そして、甲冑やマントのない――真新しい黒の護衛服に袖を通した。

 鏡で自分の姿を確認し、一度大きく深呼吸をする。


 いつの間にか握りしめていたロケットを見つめ――ポケットの奥にぐっと仕舞い、部屋を後にした。


 

◇◇◇

 

 

 帝国立学院は国家直轄の教育機関であり、その水準の高さは広く知られている。

 入学に際しては身分の制限はないものの、高難易度の試験を突破しなければならないため、幼い頃から家庭教師をつけている貴族家の者達が主な生徒層を占めていた。社交界では、この学院を卒業したかどうかが一種のステータスとなっており、特に高位貴族にとっては入学が事実上の義務とされている。


 年齢に関する制限はないものの、普通科ではおおむね十五歳から十八歳、騎士科では予備訓練を含め十三歳から十八歳までの子息、令嬢たちが集う。


 学院にも専属の騎士隊はいるが、皇族や留学に来ている他国の王族のみ護衛騎士の帯同が許されていた。


「レナート、疲れていない?」

 

 午前の授業が二つほど終わり、場所を移動する道すがらセリーナが徐に振り返る。

 

「問題ありません」

「そう? 遠慮せずに言ってね」

「お気遣い感謝いたします」


 レナートは、丁寧に頭を下げる。セリーナはにこやかに微笑み、くるりとまた前を向いた。


 セリーナは、レナートが想像していた女性とは少し違っていた。

 理知的で楚々とした女性を思い描いていたが、実際はとても軽やかな女性だった。ふわふわとして掴みどころがなく、いつも楽しげに弾んでいる。それでも、どこかカリスマ性を纏っており、人の目を惹きつけて離さない。


 実際、彼女の姿を認めると、周囲が俄かにざわめく。

 数人の生徒が嬉しそうに顔を上げ、声を掛けようと近寄る姿も見かけた。

 しかし、ついに一人として声を掛けて来る事は無かった。


 それは、ひとえに……――


「……怖い」


 どこからともなく、囁くような小さな話し声が耳に届いた。

 さっと背中から血の気が引く。ドクドクと、痛い程に鼓動が脈打つ。


(……俺の、所為だ)


 自分一人ならば何てことはない。気にしなければ良いだけだ。

 けれど、今は目の前にその身を守り、立てるべき主君がいる。

 

(『戦場のデルム』などと呼ばれる俺が側にいたら、殿下の足枷になる――やはり、俺には専属護衛騎士など無理だ)


 地中の者は日の光の下になど出るべきではない。

 影に潜み、ひっそりと死んでいけば良い。


(そもそも昨日、殿下は『希望の配属先があったら』と仰られていた。それはつまり、俺には側に寄って欲しくないと――そう言うことではないか? あの時俺が、職を辞する意思を示せば、彼女に迷惑を掛けることもなかったのではないだろうか……)


 そんな思考の渦に陥り、表情は益々硬くなる。ただでさえ凶悪な顔をしていると言うのに、これでは益々周囲を怯えさせてしまう。


 何とかしなければと焦る反面。心を乱してはいざという時に動きが堅くなる。周囲への警戒を怠るなと意識を張り巡らせ、また一層表情が硬くなる。


 どうすればと――レナートが痛むこめかみに手を添えていると、セリーナから声が掛かった。


「……大丈夫?」


 セリーナがいつの間にかまた振り返りレナートを見ていた。

 影をまるで知らないような煌めく翡翠色の瞳に、一瞬息を飲むが、レナートはすぐに身を正す。


「――はい。問題ございません」

「でも……」


 セリーナは、思案気にレナートの表情を見つめ、その後周囲に視線を移す。

 どうやら、周囲の状況に気が付いたようだ。

 あまりの情けなさに、レナートは居たたまれず視線を伏せた。


 すると、セリーナは何も言わず前を向き歩き始める。

 それに従いついていくと、彼女は悪戯な笑顔を向けた。


「ねえ、レナート。次の時間……サボっちゃいましょうか?」


 レナートは、目を瞬かせた。



貴重なお時間を使ってお読みいただき、ありがとうございます。

いいね、ブクマ、ご感想、お待ちしています(,,ᴗ ᴗ,,)


午後になってしまいましたが、どうか素敵な一日をお過ごしください

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