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02:クーポンの凄さ?

本日3本目

 俺は周囲を警戒しながら、巨木の根本で布にくるまり眠っているであろう人らしきものへと向かう。

 


 

 近づくに連れ、焚き火の跡や背嚢のようなものが置かれているのも見えてきた。


 高さ100メートルは超えているであろうセコイアのような巨木。

 木の幹といっても人がすっぽり入れそうな隙間もあるので、他にもまだ居るかもしれない。





 それに何と言ってもこの世界の人に初遭遇だ。警戒されないように遠すぎず近づきすぎない距離から声をかけたほうがいいだろう。

 俺はそんな事を考えながら、そろそろ声をかけようかという距離に到達したとき、突如脳内に映像が浮かんできた。



 


「――っ!?」



 

 一瞬だったが、木の上から降ってきた人影により羽交い締めにされ、ナイフを突き立てられいる自分が見えたのだ。


 


 前回のように映像一面に真っ赤なフィルターがかかっているような映像ではなかった。

 命の危険というわけではないだろうと勝手に判断した俺は地面で丸まって寝ているであろう相手ではなく、全く気配すら分からないが木の上に居るであろう人に向かって声をかけることにした。





 

「あの――すいません、おはようございます」


 声をかけてから、言葉が通じないかもしれないという考えに思い至ってしまったのだが、今更である。


 上を声をかけても人の気配はせず、地面で寝ている人は起きる気配もない。

 目を凝らして枝のほうを見上げるも、やはり人が居るようには思えないのだが……。



 

 暫くしてもう一度声を張り上げるべきかどうしようかと思ったとき、突然背後に何かが降ってきた。


「――見たところ冒険者じゃないようだが」

「ひっ!?」



 

 来るとわかっていても、その動きが予想していたより素早かった。

 驚いて両手を上げた俺が恐る恐る振り返ると、人のようだが人ではない――いわゆる『獣人』のような女性が立っていた。



 

「よく私が上に居るってわかったわね……凄腕?」



 

 足の背後に見える尻尾はパタパタと左右に揺れており、この人が猫なのであればイライラしているか不安を感じているのだろうか。




 

「えっと、一応危険予測というか、危ないことがあるとなんとなくわかる程度です……あと一般人です」



 下手な受け答えをして、敵対認定されても困るので、まずは聞かれたことだけに的確に答える。

 新卒で商社の営業部に所属し、半年間鍛えてきた俺なりのノウハウだった。



 


「危険予測――? 私も似たような感覚は持っているんだけど……私はさっき警戒こそしてたが殺気は出していなかった……それでも気づくなんて」


 俺に向けられていたナイフを腰の鞘へと仕舞う獣人の女性。

 どうやらある程度の警戒は解いてくれたらしい。

 

「私はライネ。冒険者をしている。あんたは?」


 ライネと名乗った女の子は、名乗った通り俺が想像できる通りの『冒険者です!』という格好をしていた。

 

 焦げ茶色の革で作ったようなマントを巻き付けすっぽりと全身を隠しており、足元にはブーツ。

 ナイフを仕舞うときにちらりと見えたマントの中はおへそが丸出しの軽装だった。



 そして、頭の上と足の間。

 猫のような尻尾だと思ったが、頭の上からピョコンと生えている耳を見て気づいた。




 

(あ、猫じゃなくて、この耳って虎……じゃないライオンか?)




「えっと、名前は海野雪也(うみのゆきなり)……。部屋で寝ていたはずなんだけど、目が覚めたらこの先の草原で寝ていた。今、とにかく人里を探しているってのが今の俺の状況かな」



 

「ウミ……ノユキ?」

「うみのゆきなり。だけどウミノでもノユキでも好きに呼んで」


「じゃぁ……ノユキ……で、そんなことってあるのか?」



 

「俺もそう思ったんだが、実際俺はここに居るし、もうこれは信じるしか無いかなって考えている――ちなみにキミ……ライネさんは?」

「……あー……うん、私のことはライネって呼んで。み、見たところあんたのほうが年上だろ? 私はそこでぐーすか寝ている妹とギルドからの依頼遂行中ってやつ」


 少し歯切れの悪い言い方だったが、俺はライネが指さした方――地面に丸まっているボロ布を見る。

 どうやらアレが寝ている妹だそうだ。



 ともあれ、初対面はつつがなく済んだようで一安心する。




 

 

「おーい、レイネそろそろ起きなー」


 姉のライネは、俺のことは危険がないと判断してくれたらしく、レイネと呼んだ妹を起こし始めた――というか蹴り飛ばした。

 

「うひっ!? いたたた、なぁに~おねーちゃん。まだ眠いよ~……」


 丸まっていたボロ布の塊がムクリと動き、中からライネさんにそっくりな煽情的な姿の女の子がムクリと起き上がった。



 

「ほら、そろそろヤツも活動開始時間よ。まだ5日あるけど、早く見つけたらそれだけ早く帰れるんだから」


「はぁい……あれぇ……私のパンツどこー……」



 

 むにむにと目を擦りながら、寝ていた周りを漁り始めるレイネさん。

 どうやら俺のことに気づいていないようで、可愛らしいお尻をふりふりしながらズボンを探し始める。


 しばらくして無事見つけたのか、ゴロンと寝転び足を上げるとズボンに足を通し最後に腰を上げてズボンを履き終わる。



 

「ほら、レイネ、ベルト」

「ありぁとー……」


「これブーツ」

「はぁぃ……」


「はい、これ帯」


 まるでお母さんのように着るものを次々と渡していくライネと、素直に受け取り順番に装備していくレイネさん。

 最後にライネが渡した帯は飾りかと思っていたのだが、レイネさんは上着をバサッとぬいで、胸に巻き付け始めた。



 


「……」


 

 俺は無言でそのシーンをガン見し、脳内に思い切り焼き付けておいた。






 

「ふぁぁぁ~……――っ!? ってぇ、誰ぇっっ!?」


 サラシのようなものを装備し終わったレイネさんが最後に腕を上げて大きくあくびをし、ライネに向き直ったところでやっと俺に気づいたようだった。



 

「さすがというか、すごい跳躍力ですね」

「あはは、そりゃ身体能力だけは人間には負けないわ」


 レイネさんはビクっと身体を震わせながら数メートル飛び上がり、俺から遠く離れたところへ着地した。

 そして茶色の尻尾がフッサフサに膨れていた。



 

「レイネーこの人は大丈夫だから、戻ってきなさいー!」


 ライネが声をかけ、やっと落ち着いたレイネさんは恐る恐る戻ってきたので、俺は改めて自己紹介をする。

 そしてそのまま朝食のご相伴に預かる事となったのだった。


 ありがたい。


◆◆◆◆◆


 朝食の用意をしてもらっているのも申し訳ないのだが、手伝っても逆に邪魔そうなので、改めてクーポンを見てみる。

 彼女たちに提示したところで不思議な力が働くとでも言うのだろうか。


「ちょっと聞きたいんだけど、これって読めたりする?」

 

 せっかく現地の人に会えたのだからと、俺は『現地民特別交流クーポン』を画面に表示させて2人に見てもらうことにした。

 そもそもすでに交流しているのだから意味がない気がする。


「えー……っと」

「なんて書いてあるの? これ」


 やっぱり読めないらしいし、特に何も起こらなかったので「ごめんありがとう」とスマホを終い、焚付でも拾おうと周りを散策し始めるのだった。


◆◆◆◆◆

 

 

「んむんむ……それじゃノユキは街に行きたいの?」

「ライネとレイネは用事があるんだよね? 依頼とか言ってたし」


 謎の肉でできたジャーキーなようなものとスープをごちそうになりながら、いつの間にか友達のように話をしている。



 自己紹介をしたときレイネも鼻を何度かクンクンと鳴らすと、ライネと同じように名前を呼び捨てにしてと言ってきたので、遠慮なく名前呼びさせてもらっている。



 

「そうそうー、でっかい熊みたいな魔獣が出たんだって。何グループか狩り出されてる」

「でっかい熊って、三メートルぐらいの……その、俺なら頭からまるかじりができそうなヤツ?」


「知ってるの?」




 

 俺は一瞬躊躇ったが、目が覚めた時からここに至るまでの話をして、途中映像で見えた恐ろしい姿の熊の話をした。


 


「絶対そいつだ。胸元にある刀傷や頭の白い模様も手配書に合致するわ」

「ってことはノユキの言ってた場所に行けば会えるってことだよね――。こーしちゃ居られないね。おねーちゃん、偵察してくるっ!!」



 そう言ってレイネが残りの干し肉を口へ放り込むと、目にも留まらぬ速さで俺が歩いてきた方向へと走っていったのだった。




 

「……レイネったら、ここの片付けと荷物どうするのよ」



 

 荷物や焚き火の跡もそのままで、このままにしておくと狼やゴブリンが寄ってくる可能性があるらしい。


 

(やっぱりゴブリンとか居るんだな……)


 

 俺はやれやれという表情で荷物をまとめ始めたライネに声をかけ、荷物の番をしようかと提案する。



 


「え、いいの? 助かるんだけど……ノユキ戦えないよね?」

「確かに俺は戦えないけど、ライネが手伝ってくれたら荷物番はするよ。その代わりそっちの依頼が終わったら街まで護衛をお願いしたいんだけど……だめ?」



 

 作戦というほどではないのだが、荷物をまとめて巨木の上に避難させてもらおうというやつだ。

 ライネも朝食を食べているときに、俺一人ぐらいなら抱きかかえて上の枝までなら余裕で飛べると言っていた。


 

「なるほど、私達の荷物とノユキを木の上に引っ張り上げておいて、そこで荷物番をしてくれるってこと?」

「そう、危険な事が起こる予知にも何も引っかからないから大丈夫だと思う」

「……。じゃぁ、おまかせしていい?」



 

 そういうとライネは俺に背中を見せてしゃがみ込んだ。


「……?」

「おんぶだよおんぶ。もしかして抱っこがいい?」



 

 そう言いながらライネは俺の両手の下に手を回してきた。

 レイネより大きな双丘が俺の胸板に押し付けられむにっと形を変える。



 

「はい、そのまま私の腰に両足回して――ぎゅってしてね」


 そうしないと脇が痛くて死ぬと説明されたのだが、確かにそうかもしれない。

 恥しいが既に正面から抱きつかれているので、ライネの肩と腰に体重を預けてコアラのように抱きつく。



(おむねの感触が素晴らしいし、めっちゃいい匂いする……)


 そんなことを考えているから、色々と反応してはいけないところが反応してしまいそうにり慌てて別のことを考える。


 

 

(えっと、体重65キロの俺を高さ5メートル以上飛び上がらせようとすると、両脇にかかる仕事量は……うぁぁっ――!!)



 

 考えている途中に突然ライネが飛び上がり、身体がふわっと宙に浮くとすぐに巨木の太い枝の上に着地をした。


 地上までは30メートル以上ありそうな高さで、地上に置かれていた背嚢がゴミのように見える。

 ライネはこの距離を途中1回だけ幹に足を引っ掛けてジャンプしたらしい。




 

「じゃ、ゴメンだけどここで待っていてね。荷物お願いね」

「お、おう、なるべく早い目に戻ってきてくれると助かる」


「りょーかい! あっ、荷物の中に干し肉とか入っているから食べてもいいんだけど、恥ずかしいから……その……あまり漁らないでね!」


「漁らねーよ! もしかしたらこのロープ使わせてもらうけどいい?」

「いいよー! じゃぁ行ってくるー!!」



 ライネはそう言うなりレイネの後を追うように、あっという間に走っていってしまった。


◆◆◆◆◆



「これちっちゃいツリーハウスなら建てられるよな……」


 巨木の一番下の枝なので最も太いのだろうと思うが、それでも枝幅が俺のシングルベッドより広いのだ。

 そして枝の中ほどにボロ布が掛けられていた。

 ここでライネが寝ていたのかと思うと少しドキドキしながらも、そこを使わせてもらうことにした。


 ちょっと背中が痛いが、こういう秘密基地っぽい場所も悪くない。



「ライネとレイネ……ふたりとも可愛かったなぁ……」



 この後彼女たちに街まで送ってもらえる約束もしたので、少なくとも死ぬ危険はグッと減るだろう。


 そして無事に街に到着したらやっと『異世界旅行』とやらがスタートする感じがする。

 今の状態で「ほら異世界だよ!」と言われても、大自然!という感想以外出て来ない。


 やはりこの世界に住む人の文化に触れてこその海外情緒――異世界情緒というものだろう。


 

 

「あ、そういえば結局ライオンなのか猫なのか、聞けなかったな」



 やたらとフレンドリーな冒険者の姉妹。

 そのライネとレイネだが、朝ごはんの時から妙に近い気がしていた。


 この世界の人達がみんなあんな感じのパーソナルスペースなのか、もしくは獣人だからか……もしくは彼女たちだからなのか。

 

(もしかして『現地民特別なんちゃら』っていうクーポンのせいか……?)


 


 まだまだ知らないことだらけだが、楽しい旅になりそうだと考えながら俺はまぶたを閉じたのだった。


次回明日の20時投稿予定です!


もし気に入っていただけた方は「ブクマ」や下の評価【★★★★★】などよろしくお願いします!

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