28:3つの幸せと使命
ライネの娘『ハルネ』
レイネの娘『サクラ』
ミカの息子『ミオ』
そろってベッドに並ぶ3人をうっとり顔で見つめる俺とメイドの面々――。
「まぁ、ハルネ様の笑った顔はノユキ様にそっくりですねー」
「サクラ様はお静かで落ち着いてらっしゃいます。ミオ様はすこし甘えん坊ですね、ふふっ……可愛い」
仕事が手につかないほどキャッキャしているのは主にメイドの3人だ。
ライネとレイネは近くに並べられたベッドで仮眠中、3人のお母さん代わりとしてミカが面倒を見ている。
ハルネとサクラは母親と同じくふわふわの金髪に丸い耳がピョコンと生えており、短いながらも立派な尻尾も生えている。
ミオは――父親贔屓だろうが、きっとこの子は男前になるだろう。
もともとミカも整った顔なのだ。俺に似なくて良かった。
「3人の相手は少し大変ですが、総合的に考えると楽ですね――眠れる時間が取れるというだけでも精神的に楽です」
3人は全員母乳をあげているが、やはり2時間おきに起こされるため交代制で1人もしくは2人が起きて世話をしている間、1人は必ず寝るという生活に落ち着いたようだ。
「あ、あの、ご主人様」
「ん? ミカどうした?」
ミカがぐずり始めたサクラを抱いてソファーに座り授乳しながら見上げてくる。
「父と母がすいません」
「あー……あれね。いいよ孫が生まれるということはそれだけ目出度いことだよ」
すっかり調子を取り戻し、逆に売り上げが爆増絶好調のリンデン商会の会長、ミカの父と母から大量のお祝いが送られてきたのだ。
ベビーベッドだけにとどまらず、服や食器、子供用のおもちゃなど、店でも開けそうな量になっている。
「でも流石にご主人様の部屋を占領するのは……」
「大丈夫。また次の子が産まれても使えるだろう?」
「つ、次……は、はい、そうですね。その件ですと、聞いたところによるとライネとレイネならすぐに作れるらしいですよ」
子供を産んですぐに次の子供を作れるとか、やっぱり獣人はすごいな。
だがそれよりも俺はやらにゃならんことがある。
そのことはすでに3人に相談済みで何人か知り合いを紹介してもらえることになっている。
本当はもっと有力者の女性と関係を持ってほしいらしいが、今回は時間制限もあるので、なるべく知り合いを増やす方向で動いてくれるらしい。
確かにライネが言うように、有力者とのつながりがあるとこの街での生活も楽になるし、今後を考えるとスタンプを集めやすくもなる。
(多分俺が将来的に伯爵になっていたのってそういう繋がりを作ったのが原因っぽいしな……)
「とはいえ……残り時間で行けるかな」
今回の滞在は30日。
ライネたち以外の有力者のコネというと、リンデン商会長、あとはこの街の現領主が一番最高有力者だろうか。
他にも貴族も居るらしいが、その辺りは全く知らないのだ。
領主といえば、この街――つまり、アーガルズ王国の辺境都市ベルグは、現在その一帯が結界に覆われ悪意のある魔獣が侵入するのを防いでいる。
これは領主自らが研究チームを率い、さまざまな実験を行った結果、ゴブリンなどの小物からドラゴンやワイバーンの空飛ぶ魔獣はもちろん、遠距離からの魔法攻撃なども防げることが判明したそうだ。
そしてその原因である俺にはその功績で領主より表彰されることになっていた。
「金一封も貰えるらしいしな」
「ふふ、ですが魔獣素材の輸出業以外は大した産業がないですからね……あまり期待はされない方がいいかと思われますよ。ふふっ」
「そういうのは中身じゃなくて貰ったっていう実績だしなー。てかやっぱりほとんどが自給自足なんだなこの辺りは」
冒険者が狩ってきた素材を外に売り、食料品や衣料品などを輸入する。
だが大半の農民は自給自足生活をしているぐらいのレベルの都市だ。
都市というか街だろうか。
それが改めて見たベルグという街のイメージだった。
「……将来、畑で魚と肉が取れるようになるんだけどな」
「……はっ? 魚……ですか? 畑で?」
そりゃそういう反応になるよな。
俺もそうだった。
でも400年後には特産物になってるんだぜ……。
―――ピロン
「あれ? なんの音ですか?」
「あ、俺だ」
突然のスマホ通知音に母乳を吸っていたサクラがキョロキョロと目を動かしているの見ながら、尻のポケットに入れてあったスマホを取り出した。
「……『おすすめ観光マップ』? なんだこれ」
通知をタップするといつものクーポンアプリが開き、クーポン一覧が表示された。
地図を見ることができる『観光周遊マップ』の下に新たに『おすすめ観光マップ』なるものが追加されていた。
『おすすめ観光マップ』
何度もその場所に訪れた貴方へお勧めしたい、近場のお勧めスポット! ぜひ訪れてみては?
そう書かれたクーポンを開くと周囲のマップが開き、いくつかのポイントがプロットされていた。
「これはライネと出会った辺り……じゃないな反対側の山か……『ダイヤモンド鉱山(予定地)』と『ミスリル鉱床(予定地)』ってなんだこれ」
「ダイヤモンドというのは帝国の北部にある巨大な山脈で取れる希少価値の高い宝石です」
俺のつぶやきを拾ったミカが教えてくれるのだが、俺の知っているダイヤと同じもののようで良かった。
「この辺りでは?」
「王国内ではとれませんね。ミスリルはたまに鉄鉱山にて発見される鉱石ですが、少なすぎてある意味ダイヤモンドより価値は高いです」
いわゆるミスリル武器の材料である『ミスリル鉱石』は魔力の伝導率が半端なく、下手すれば増幅させているのではないかと言われている素材だそうだ。
魔獣から取れる魔石と組み合わせ、便利な魔道具を作ろうとしている研究者も多いそうだが、いかんせん偶然見つかるのを待つだけという状態らしい。
さすが街一番の商会長の娘だけあって、市場情報とセットで教えてくれる辺り、ミカの有能さがわかる。
これでギルド職員の仕事もしていたので、冒険者に顔が利くというのもある意味すごい。
(ってことは……これはもしかしなくてもそういうことだろうか)
アプリではあえて『予定地』などと書いてあるということはまだ発見されていない鉱山ということだ。
そして現在は帝国でしか算出されないダイヤモンドと、鉱山としては発見されていないミスリル鉱山。
400年後のベルグにあった巨大な城壁や俺が伯爵になった原因はこういうのが原因なのだろうと思う。
となれば、40人との新たな絆も必要だがこれはこれで消化しなければならないクエストだと言えるだろう。
「……ミカ、冒険者って雇うのどれぐらいお金かかる?」
「――ご主人様?」
この手柄、ゲットするしかない。
◆◆◆◆◆
俺は第一級の冒険者が連名で冒険者ギルドに声をかけるということが、どれだけ凄いことか改めて理解した気がする。
ギルドの受付で受け取った『依頼受託可能冒険者リスト』にはこの街に所属している冒険者がほぼ全員『参加可能』という返事をよこしてきたらしい。
「あの『ニ姫』のお二人に少しでも恩返しがしたい人が多いんですよ」
そう苦笑いしながらリストの説明をしてくれている受付の女性。
俺はリストを受け取り、少し確認させてくださいと近くのテーブルを借りることにした。
あれから俺はすぐにミカに相談して『鉱石調査の護衛と調査補助員の募集』という形でギルドにクエストを発注したのだ。
発注者はライネとレイネで、依頼主は俺の名前で提出した。
その半日後にはギルドから使いの人がきてリストが出揃ったと教えられ、再びギルドへと戻ったのだった。
護衛依頼と調査依頼だが、腕の立つ人が最優先。
男でもいいが、スタンプのことを考えると女性にする予定だ。
それと行き先が何もない山で、そこを掘って確認しなきゃならないので、魔法が使える人と、鉱石の確認ができる人だ。
そのためには、まずライネにお勧め……というか絶対に連れて行けと言われた冒険者の名前を探す。
「……あった。カミラさん」
ちなみに俺は今スマホのカメラレンズ越しに名簿を見ている。
まだこの世界の字が読めず、1人で冒険者ギルドに来るのを躊躇していたのだか、アプリのカメラ越しなら日本語に翻訳されて見えるのだ。
まず1人目はライネに教えて貰ったカミラという名の冒険者。
リストには『第二級冒険者カミラ(前衛/鬼神族)』と書かれていた。
「もう1人は……マリエッタさんだっけ」
レイネに紹介されたのは、こういう調査なら役に立つはずだから使ってやって欲しいと言われていた子だ。
「あった『第四級冒険者マリエッタ(魔技師/獣人)』……魔技師? 魔法使いじゃないんだな」
なんとなく言葉のニュアンスで理解できるが、具体的にどういう感じなのかは想像できない。
ちなみに先程受付さんに教えてもらったのだが『鬼神族』やライネたちの『獅子族』というのは『純血種』と呼ばれる特殊な種族らしい。
対し『獣人』と書かれているのは、祖先で色々と混じった獣人たちで、これが一般的らしい。
あえて分けるなら『獣人』といわずに『猫耳族』やら『犬耳族』という表現をする場合もあるそうだが、純血種と混在しないように正式な書面では単純に『獣人』と表現されるそうだ。
「……もう1人はこの人か」
あとは鉱石関係に強い人ということで『第五級冒険者ベルル(採取専門/ハーフリング)』と書かれた女性。
「この3人がマストで、あとは戦える人を2、3人か」
残りは受付の人に相談してから指名しよう。
そう考えながら、リストを持って受付へと戻ったのだった。




