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27:めでたい

 紆余曲折――そんな言葉がピッタリだろうか。

 3度目の異世界でエイラに会い、4度目、5度目、そして6度目の異世界に飛び、ついに7()()()の今日ここへと辿り着いた。



「ようこそベルグへ――ってあれ!? おまえさん随分と久しぶりじゃないか!」


 そんな門番の声を背後に置き去りにし、俺はベルグの中央通りをひたすら走っていた。


 

「はぁっ、はぁっ――」







『二代目ハルネ•ウミノ伯爵は王歴521年3月に産まれ――』


 そんな文献に辿り着いたのは6回目の異世界旅行――王歴4121年()()()()()()()()の王都にある古代図書館禁書庫だった。





 

 「はぁっ、はぁっ、こっちか!」


 そして俺は今、ついに王歴521年3月1日のブルグへと辿り着いたのだった。




◆◆◆◆◆


 


 商業区を走り抜け、数百メートルを駆け抜けてやがて見えてくる真新しい屋敷。


 2人の門番が守る屋敷には、窓が開け放たれた部屋からカーテンが靡いているのが見える。


「お、おい! だれだ!」

「おい待て! その人は!」




「はぁっ――はぁっ、はぁっ……あのっ、俺は――」


 息を切らし、屋敷へと辿り着いた俺を見知らぬ門番が通してくれた。


「あなたのお顔と服装などは、奥方様よりキツく教え込まれております。必ず通すようにと――どうぞ」




 門を開けられ、屋敷へと続くポーチを抜けていく。

 左右の花壇には春の花が咲き始め、暖かい風に揺れていた。



 俺は震える手を押さえ、玄関の扉を開く。




 中へと入ると吹き抜けの玄関が広がり、目の前には()()()にユキネが座っていた階段が目に入った。




 その階段を横目に、人の気配のするリビングへ続く扉を潜った。






◆◆◆◆◆





 ソファーへ腰掛け、楽しそうに談笑する3人の女性の姿。


 最初に目があったのは奥に座っていたライネだったろうか。

 春の幻覚を見たような表情のあとみるみる涙が溢れ始める。




 それから一瞬だけ遅れてレイネが気配に気づいて振り返り、釣られてミカとも目が合う。





「――っ!」

「うっ――ノユキ……ノユキぃ……」

「おっ……帰りなさい……ませっ、ご主人様ぁ……」


 大きなお腹を支えながら立ち上がろうとする3人を止め、俺は慌ててソファーへと向かう。


 泣きじゃくるライネの頭を撫で、抱きしめる。

 次にレイネ、ミカも同じようにハグ。



 

「みんなただいま。また会えた」

「……うんっ……会えた……嬉しい……うれしいよぉ……ノユキぃ……おかえり……おかえりなさい」



 

 やはりライネが1番泣き虫だなと、俺は頬を伝う涙を拭いながら3人の温かさに包まれるのだった。



◆◆◆◆◆



 どのぐらいそうしていただらうか。

 ボソッと誰かが話し始め徐々に調子を取り戻したライネたちは、離れていた空白を埋めるように、あったことや気持ちを伝え続けた。


「ねぇ、今回もやっぱりすぐ帰っちゃうの?」

「今回は30日は居られる。その代わりやらなきゃならないことがあるんだけど……それが終われば、その先はずっと一緒に居られるはずなんだ」


「そうなんだ!」

「やったぁーノユキとずっと居られるって、何をすれば良いの!?  なんでも手伝うよ!」




 そう、今回俺は『720時間のクーポン』を使ってやってきた。



 スタンプカードを50個まで貯めた結果、スタンプ帳が新しいものへと変わった。


 新しいスタンプ台紙では最後にお何がもらえるのか表示されていたのだ。



 現在26個まで溜まっており30個でもらえるクーポンは何度も使える『自由周遊クーポン』。

 そして50個目でもらえるクーポンは『自由周遊クーポン』『永住権』と書かれていたのだ。

 

 この『永住権』があれば、現代日本とこの世界を行き来することができるそうだ。

 


「30日で20個のスタンプ……なんとしてでも貯める」



 普通に考えれば難しい数字だが、この世界で暮らすためには必ず手に入れなければならない。

 ネックなのが『永住権』でこれはこっちの世界にいる時に使用すると、その時代も日本を自由に行き来できるそうだ。


 だが『永住権』の移動と同時に『自由周遊クーポン』を使って特定の時代にいくことはできないらしい。



 

 しかし時間限定のクーポンと同時になら使えるし、『自由周遊クーポン』自体は何度も使えるので、120時間クーポンがあればユキネやエイラたちに会いに行けるのだ。




 そのためには、なるべく今回の滞在期間30日で多くの人と絆を結ぶことが目標なのだ。

 


 

◆◆◆◆◆

 


「でね、この子が生まれたらハルネってつけようと思ってたの――」

「ねーノユキー、私もね名前考えてるんだ」

「ご主人様――私もご主人様のお名前の一部を賜れれば嬉しいです」


 そして話題はやはりお腹の子供の話へと移る。

 3人とも臨月ということで大きなお腹を抱えながら幸せそうに話して聞かせてくれた。


「初めはとても暴れてたのよこの子――きっと元気な子が産まれるわ」


「おねーちゃんの赤ちゃん、確かにずっと脚バタバタしてたよねー。私の赤ちゃんは夜だけ元気だった」

「ふふ、この子はなかなか動かなかったんですよ」


 この時期になるとほとんど動かないそうで、すこし残念だったが元気に生まれてくるならそれで良い。



 

「さっ、今日は豪華に行かなきゃね――ねぇお買い物お願いしても良いかしら?」


 すっかり泣き止んだライネは台所の方に控えていた3人のメイドさんに声をかける。


「もちろんでございます奥様――腕によりをかけてご用意してさせていただきますわ」


 微笑みながら返事をしたメイドさんも目元が真っ赤になっていた。




 

「もう、あなたたちまで泣いていたの? ほら出かける前に顔を洗って…………うっ……あ、やば……」


 


 和かにメイドへ晩御飯の指示を出していたライネが突然ソファーから身を乗り出したと思うとすぐに床へと倒れかけ、俺はギリギリでライネを支える。

 

 

「奥様!?」

「ライネ!」


「これは……ミド! お医者様を――走って!」

「サリーはお湯とタオル、ベッドの用意を!」


 

 先ほどまで穏やかに話していたメイドさんが、残り2人に指示を出し、リビングへと走ってくる。

 腹を抑え、うずくまるライネ。



 

「だ、大丈夫よノユキ……多分貴方が帰ってきて早く会いたくなっちゃったんだわ」


「奥様、お部屋へお連れします……」


 そう言ってメイドさんがライネの腰に手を回そうとするのを俺は止める。



「ライネは俺が連れて行きます――それよりもっと人手を用意してください」


 


 そうだ。

 この3人は同じ日に産気いて、子供たちは全員同じ誕生日になるのを俺は知っている。


 

「ですが……奥様」

「この人の言うとおりにして」


 

 額にじんわり汗をかきながらもメイドへ指示をするライネの腰に手を回しゆっくりと立ち上がらせる。


 

「かしこまりました――」

「ノユキ……もしかしてレイネとミカも?」


 ライネはなぜ俺がそんなことを言い始めたのか理解してくれていたようだ。

 


 

「そうだ、時間はわからないけど、3人とも同じ誕生日になるんだってさ」

「――すぐに手配して参ります!」



 

 俺のセリフを聞き、説明する前にこのあと何が起こるのかを察したメイドさんは取り出すように出ていった。


「レイネ、ミカは大丈夫か?」

「う、うん……お姉ちゃんは大丈夫?」

「私は大丈夫……よ」


 まだ2人とも大丈夫そうなので、まずライネを連れていくことにした。


「ライネ部屋は?」

「一階の奥にある3部屋を使っているわ。私は1番手前」



 

 お腹に手を当て、ゆっくりと歩みを進めるライネ。

 俺はなるべく揺らさないよう、倒れることがないよう背中に手を回し、手を引きながら部屋へと連れていった。



「はぁっ、はぁっ……ふ、ふぅ……も、もう大丈夫よ……ううっ……」

「ライネ……」


「はぁっ、はぁ……レイネたちの様子も見てきてあげて」


 確かにライネを放っても置けないし、レイネたちも心配だ。


「ライネ、少しリビングに戻って様子を見たら戻ってくるから」

「うん、いってらっしゃい」


 そう言ってライネが横になったベッドを振り返り、リビングへと戻ったのだった。



◆◆◆◆◆


――おぎゃぁぁぁ……

  ――あぁぁーっ……


 


「っ! う、生まれた!?」

「旦那様、今しばらくお待ちくださいませ」


 リビングで今か今かと待つこと8時間……すっかり辺りが暗くなり、バタバタと走り回るメイドさんや女医さんの足音だけが響いていた屋敷に、ついに待ち望んでいた泣き声が響き渡った。



 

「しかも今レイネのほうと、ミカの方も?」


 確かに赤ん坊の声が3つ続けて聞こえた。

 同じ日に生まれたとは聞いていたが、まさかタイミングまで同じだったとは思いもしなかった。


 



 結局りレイネとミカも揃って陣痛がきており、すぐにベッドへと連れていったところにメイドが女医先生やシスターを引き連れて帰ってきた。

 そこからの記憶はあまりない。


 

 随分と長い間待っていた気がするし、一瞬だった気がする。



 

「ま、まだかな」

「もう少々お待ちを――せっかくですし少し移動させております」


 俺に付き添ってくれていたメイドさん――確かサリーと呼ばれていた犬耳の女性が扉の外を確認し、もう少し待つように言われ、俺は素直にソファーへと座り直した。





 天井を見上げながら扉の向こうから聞こえてくる赤ん坊の声を聞いているとここまでの旅路が走馬灯のように思い出される。


「俺の感覚だとあれから半年すら経っていないんだよなぁ」


 初めてライネと出会い、みんなと別れた。

 そしてもう一度会いたいという一心で再びこの世界に来た。

 

「まさか400年も経っているとか思わないって」



 ユキネたちに会い、自分からの手紙によってもう一度ライネたちと会う方法を知って、何度も何度も日本とこの世界を行き来した。


「極め付けはあれだよなぁ」


 最後には自分そっくりな男性が国王になっているという衝撃体験をして、ついにこの場所に戻ってきたのだ。



 まだまだやるべきことは沢山あるが、やっと『帰ってきた』という満足感と達成感を感じながら、眠りに落ちたのだった。

ここまで読んで頂きありがとうございます。

一旦一区切りですが、まだ書きたい話があるので普通に続きます。


次回「28:3つの幸せと使命」は明日の20時頃更新です!

ぜひ引き続きお楽しみください!

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