26:限定のあれ
その日の夜。
つまり朝になれば元の世界に戻ってしまう夜。
俺はエイラの家にお邪魔していた。
同居人はギルドの依頼で外に出てしまっているそうなので、少し遠慮しながらもお呼ばれすることにした。
街から1日ほどの範囲で『白虎鬼』という魔獣が確認されたらしい。
どこかで聞いたことがあると思ったら、エイラと水浴びしている時に危険予知さんで見た魔獣のことだった。
その退治に駆り出されていると言うことは、エイラの同居人とやらは相当腕が立つのだろう。
そんなこともあり、今日のお泊まりメンバーはエイラとナツミ、リン、レン、ベルタの6人だ。
「ねぇ、ノユキ、これ書いてほしいなぁ……なんて……だめ?」
「何これ?」
じゃぁご飯の用意でもと思っていたところに、エイラが2枚の紙をおずおず差し出してきた。
「これはねー法的な縛りはないんだけど、その……誓いの書類みたいなやつで……」
どうも説明に歯切れの悪いエイラだったが、他の4人――ナツミとリン、レン、ベルタも同じような紙を胸元に持っているのが見え、やっと俺はそれが何かを思い出した。
「あぁ……それって『父子契約』とか『認知契約』ってやつ?」
俺以外とは関係を持っていないと言う契約書……確か破ると奴隷身分に落とされるほどヤバいもので、男が書くほうは戦争などに向かう父親が『生まれてくる子はオレの子だぞ』という宣言書みたいなものらしい。
どちらも、ライネとレイネ、ミカの3人にも書いてと言われて書いたことを思い出した。
「ノユキ知ってるの? あっ――そっか」
「なにが『そっか』なのかは想像つくけど、ほれ、貸して。ほかの4人も」
「い、いいの?」
どうも全員がオッケーを貰えると思っていなかったらしい。ナツミはしれっとしてたが、泣き虫のエルフ2人は涙腺が決壊していた。
◆◆◆◆◆
「もし――もしもまた会え……ごめん、なんでもない」
「エイラ、ナツミ、リン、レン、ベルタ……ありがとう。5人のことは忘れないから」
6人で語り明かした夜は容赦なく明けてしまい、俺が帰る時間が近づいてきた。
何度経験しても別れがあるのは辛い。
その先にあるのがライネたちとの再会だとしても、この辛さはなかなかのクソ仕様だ。
ライネたち、そしてユキネたちの足跡がその後でも判明するから心の支えになっていると言うのもあるだろう。
「あ……そうだ、これはお願いだからその通りにする必要はないんだけど」
「なに! なんでも言って!」
「うん、なに?」
「もし、子供ができたらさ、俺の名前の一部もあげてほしい。可能なら子供のその子供も……ずっと先の未来でも俺たちの子供だってわかるように」
「……貰っても……いいの?」
「今更だろ」
5人を交互に抱きしめながら、改めてお願いをする。
『ウミノ』の字は流石に不味そうなので『ユキ』や『ウミ』とか、なんとなくでもいいから、俺が次にこの世界に来た時、エイラたちの子孫だと俺がわかれば嬉しい。
「もしくは、ノユキの世界の名前でもいい? 私がいっぱいリストアップするわよ」
「それ同じ立場の奴とかいたら危なくないか?」
「それはそれで。ウミノ伯爵家なんてお家がある時点である程度は大丈夫でしょう」
ナツミが耳をぴょこぴょこ揺らしながらそんなことを言う。
「そうだな。あと記念じゃないけど、俺の持ち物を渡しておこうか」
俺はマジックバックから記念になりそうなものをそれぞれ渡すことにした。
次来る時はもっと記念品らしいものを用意しようと誓いながら、キャンプ道具から小さな小物を漁る。
「エイラにはこれ」
「これ……かっこいい」
「サバイバルナイフって言って、色々と役に立てば」
「ありがとう……ありがとう……」
「ナツミは? これとかどう?」
「そうだ、もし持ってたらだけどマルチナイフとかない?」
「あーあるある。はいこれ」
ナツミには本人希望で真っ赤な20特ナイフ。
ドライバーから爪切り、ヤスリまで色々とセットになっているやつだ。
ベルタにはファイアスターター。
リンとレンにはチタン製のマグカップを渡した。
「ナツミ、あとでベルタに使い方教えてあげて」
「はーい」
他に思い残したことはないだろうかと考え、今回はミニプリンターを持ってきたことを思い出した。
バッテリーで稼働して、写真サイズのものならフルカラーで印刷ができるものだ。
「あんた、そんなものまで……」
ナツミが呆れるが、思い出作りは大事だろう。
5人と写真を撮り、印刷をし、それぞれに手渡す。
ナツミ以外は初めて見る写真というものに大興奮だったが、そのうち色褪せて消えるから、なるべく本とかに挟んでしまっておくようにと伝えた。
俺の分もちゃんと印刷して、手帳型のアルバムへ挟む。
「もしまた来れたら、次はいーっぱいお土産頼むわね? 私ポテチ食べたいなー」
「わかった、わかった」
ナツミはずっとこの調子だが、ずっと涙目だ。
リンとレンはしゃべれないぐらい泣いていてずっと俺の裾を掴んで離してくれない。
「エイラ、ベルタもおいで」
遠慮しているのか、少し離れたところで俺のことを見ていた2人を呼んで抱きしめる。
「色々と世話になった。エイラはあいつらに気をつけろよ?」
エイラを殺そうとした冒険者は無事に指名手配されたらしいが捕まるかどうかはわからないらしい。
他の国に逃げられても、ギルド間は情報が共有されているが偽名などを使われて再登録されたりしてもわからないのだ。
思うに、そんな暗殺や誘拐紛いのことをする冒険者が六等級というのはおかしかったのだろう。おそらく同じように偽名で新規登録をし、若い冒険者を攫ったりしていた疑惑が出てきている。
「大丈夫。あいつのことは必ずギルドが見つけてくれるって言ってたし」
「攫われた子も見つかるといいよね……」
それよりもエイラが生きていると知られて、再び毒殺されてしまう恐怖の方がある。
「大丈夫! ほらここまで来ると、毒なんて効かないってお祖母様に聞いたことるわ」
そう言ってエイラは自慢するように4本のもふもふ尻尾をふりふりと揺らす。
先ほど、気づいたらまた増えていたのだ。
夜を越すごとに増えていくエイラの尻尾。
俺の影響なのか、エイラの元々の資質なのかはわからないが、4尾ともなると毒などの影響を受けないそうだ。
「多分エイラさんは、六等級から四か三等級ぐらいになると思います」
ちゃんとした力を持った玉藻族とは本来それぐらいに強いらしい。
「そっか、じゃあ安心して俺は旅立てるか」
一応、ナツミ以外には別の世界に旅に出ると伝えてある。そう伝えるのが一番理解しやすいだろうと思った。
「じゃぁ、元気でな」
「うぐっ……ふぇ……ぐぅぅ……ノ、ノユキぃっ……げっ、んきでっ……うわぁぁぁ」
ついにエイラの涙腺も崩壊し、最後に抱きしめてやるかと思った瞬間――俺の視界は真っ白に包まれたのだった。
◆◆◆◆◆
「やっぱりあんまりだよなぁ」
見知った部屋へと戻った俺は開口一番出たセリフがそれだった。
いくらライネたちに会うためとはいえ、そのために発生する別れが辛すぎるのだ。
「……」
もう全て忘れて日本でいた方が……そんな考えも頭に浮かぶが、その度に思い出してしまうライネやレイネ、ミカの笑顔。
そして子孫であるユキネたちの笑顔だった。
俺がこれを達成しないと、ユキネたちも存在しなくなるかもしれない。
そう思うとへこたれている場合ではないと、頬を叩く。
「そうだよ、もしかしたらユキネやエイラたちにも自由に会いに行けるようになるかもしれないじゃないか」
このウジウジとした考えはもうよそう。あとは淡々とスタンプを貯めないと。
俺はクーポンアプリを確認してスタンプの具合を見る。
――――――――――――――――――――
『異世界旅行クーポン(120時間)』
『異世界旅行クーポン(120時間)』
『異世界旅行クーポン(240時間)』
『異世界旅行クーポン(720時間)』
『異世界滞在スタンプカード』
――――――――――――――――――――
内容は120時間クーポンを使って、120時間クーポンをゲットしたので枚数は変わらず。
スタンプカードは15枚になっているはずだ。
俺はスタンプカードを開き念のためスタンプの個数を確認した。
『――限定クーポンを手に入れました』
「なっ……なんだこれ?」
スタンプ15個のところにある星マークが光り、何やらクーポンが配られたらしい。
俺はすぐにクーポン一覧を見に行き、思わず息を呑んだ。
「――っっ!!」
『自由周遊クーポン(1回)』
異世界旅行クーポン使用時に、年月日と場所を指定することができます。
「――うっしゃぁぁぁ! きたぁぁぁ!!」
それは紛れもなく、自分の好きなところへと向かえる切符だった。
俺は高鳴る鼓動を無理やり押さえつけ、深呼吸をする。
「よし、これでライネたちのところに行ける……行けるけど使えるのは一度だけだ」
今後も同じものがもらえる保証はない。
となれば、向こうに行ったっきりが可能なクーポンもしくは、長時間のクーポンを手に入れるしかない。
「もし大量にスタンプを手に入れるなら、ライネやキリネに頼めばなんとかなるか?」
要はたくさんの人を紹介してもらい、仲良くなれば良いのだ。
要人であるライネやキリネの力なら、120時間ぶっ続けでそう言う時間を作ってもらうことも可能だろう。
「……ま、待てよ? ライネと会ったのは…………何年何月だ……?」
ここにきて絶望的なことに気づいてしまった。
「ユキネに会ったのは王暦922年6月1日だと覚えている……エイラは王暦1227年11月10日だが……」
ライネに出会ったあの日が何年の何月かわからないのだ。
大体の逆算で王歴500年から520年ごろだと予測しているだけなのだ。
「やばい……どうすれば……」
俺は頭を悩まし、一つの結論に辿り着く。
「いや、結論も何もこの方法しかないか」
それは、クーポンで向こうに行き、歴史を片っ端から調べる。ベルグという街の時にドラゴンが襲いかかり結界が張られた。
教科書にも載っているらしい話だから必ず日付は確認できるはずだ。
「……でも図書館とか、本屋がある大きな街に辿り着かないと調べることすらできない」
それが問題だった。
使えるクーポンは4枚。
仮に30日のやつをスタンプ貯めの為にライネに会ってから使うとなると、3枚。
3回のうちに、あの日を調べるか、次のスタンプを貯めなければならない。
少なくとも過去3回とも人には会えている。
必ずできるはずだ。
次に移動した先で、あの日を調べる。
そして 『自由周遊クーポン(1回)』を30日のクーポンと一緒に使い、ライネたちのところへ行く。
あとはライネに協力して貰えばスタンプはかなり貯まるはずだ。
「よし――これで行くしかない!」
やっと光明が見えた俺は消費した食糧やら、記念品になるようなものや、ナツミが欲しがっていたような消耗品やらを買いに出かけたのだった。
◆◆◆◆◆◆
「よし……食糧よし、サバイバル道具よし、キャンプ道具よし、お金もたっぷりあるから向こうで両替……よし! 行くか!」
翌々日、必要なものの準備を済ませた俺は四度目の異世界旅行へと向かう――。
その先がどこであろうと、必ず最後にライネたちにもう一度会う。
その思いを胸に俺は再びクーポンをタップしたのだった。
次回明日の20時投稿予定です!
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