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25:街案内

「おはよう……ねむ……」

「おはよう……ございます……」

「う……腰が……死ぬ……痛い」



 朝起きるなり、身体を伸ばしてボキボキとマッサージをし始めるエルフのリンとレン。


 昨夜は食事会をして、いい感じに酔っ払った結果エルフのリンとレン、ドワーフのベルタの4人で部屋飲みになったのだ。


 その結果、色々と仲良くなってしまった訳だが、まぁ仕方がない。


 エイラたちがスッと帰っていったので、この辺も見越されているのだろう。




「うー……ちょっと身体拭くお湯もらってきますね」


 ベルタさんが服を羽織り、お湯桶をもらいに出て行った。

 見た目がJSなので、色々と不安になった夜だった。


 その割に昂ってたんけだが――それにエルフのお二人は耳があんなに弱いとは思わなかった。

 エイラの尻尾を苛めていたときより激しかった。




「はー……ふふっ」




 リンは起きてから何度も自分の耳に手を当て、トリップしているような表情をする。

 ちなみにリンとレンは姉妹ではないのだが、親戚同士と言うか同じ氏族らしく、確かに雰囲気はそっくりだ。




「ノユキ様、ベッド……その……すいませんでした」


 3人が部屋に来るとのことで4人部屋へと変えて頂いたのだが、二つ並んだダブルベッドにタオルを敷いて、そこに2人が並んで寝ていた。




「その……すいません」


 真っ赤になった耳を垂らし、申し訳なさそうにするレンさんだが、あれは仕方ない。

 初めての経験だろう。



「気にしてないから、リンもレンも気にしないで」


 そうやって2人を慰めているとベルタが大きな木製のタライにお湯を入れて戻ってきた。

 明らかに自分より重いはずなのだが、ドワーフは凄いなと考えながら、運び込むのを手伝う。




「ふぅ~じゃあノユキ様、お背中流しますね」

「あっ、私も手伝います」

「私も」


 言うや否や、タオルをお湯で絞り身体中を拭き始められる俺。

 その後は交代して3人の体を隅々まで拭いて綺麗にし、もう一度汗だくになった俺たちは宿を後にしたのだった。



◆◆◆◆◆


「あ、ノユキおはよぉー」

「おはよ」

「エイラもナツミもおはよう」


 リンとレン、ベルタは仕事に向かったので今日はエイラとナツミに街を案内してもらうことになっていた。


 ちなみに俺のリミットは今日の朝で48時間が経過し、今回は120時間のクーポンなのであと72時間――あと3日という時間が残されているだけだった。


 


「……なぁエイラ……それ」

「えっ? 何?」


 俺がエイラの強烈な違和感に気づき、エイラの腰を指差すと本人は気づいていないのかクルクルと回る。




「うわっ、エイラいつのまに!?」


 一緒にいたナツミも驚くが本人だけが気づいていなかった。




「尻尾が3本になってるわよ」

「はっ? はぁえっ、うわっ!? なにこれ!」


 ナツミ指さされ、自分で触りやっと気がついたらエイラ。


「えぇ……3尾……嘘でしょ」


 何度も自分の尻尾を数えるエイラ。

 後ろから見ると2尾の時より、バランスが良さそうに見える。


 金色の毛並みに尾先だけが雪のような白さの尻尾がふわふわと揺れていた。




「3本……」

「なぁ、ナツミ、エイラはなんであんなに呆けてるんだ」


「えっとね……たぶん」



 ナツミが昔エイラに聞いた話だと、簡単にいえば玉藻一族では2尾が一般人、冒険者などの戦闘能力を持っているとされているのは3尾から4尾の人たちらしい。


 そして5尾以上のものは長い時を生きて、神力を操れるようになったもののみ――そして里や一族を護る力を持つ英雄だそうだ。




 ちなみに『九尾の狐』というイメージの9尾が居るのかと聞いたのだが、どうやら9尾は玉藻一族の始祖だけらしい。




「じゃぁ3尾ってことは、エイラはそれなりに戦える子っていう扱いになるんだ。よかったなーエイラ」


 ダメな子扱いをされ郷を飛び出し修行をしていたと言っていたし、これである意味目標が達成できたのだろうか。




「な、なんでだろ……こんな……」


 だが当の本人は呆けたまま、訳もわからないと言う様子だった。


「だって、いままでどんなに頑張っても無理だったのに……」

「ねぇ、エイラ。やっぱりノユキのせいじゃない?」


 俺もそう思う――ナツミのセリフで視線を向けてくるエイラ。

 俺と仲良くなったことが原因なのか、近くにいるだけでそうなってしまうのか。


 ともかく変わったことといえば俺の存在以外は考えられないのは間違いないだろう。




「えへへ、そうかも……でもそうだったらノユキには感謝しかないわね。命の恩人で、人生の恩人で――」




 エイラが腕を絡ませ、ナツミも反対の腕に抱きついてくる。

 ライネたちと同じだなぁと思いながらも、エイラに街を案内してもらうのだった。



◆◆◆◆◆



「ここが冒険者ギルドねー」


 地下都市アングラの段々畑のような形状の街――その中腹にある冒険者ギルドは他の建物と比べやたらと頑丈そうに作られていた。



「砦だな」

「そーなのよ!」



 聞けば、落盤や魔獣に攻め込まれた時、穴倉の中では逃げ場がない。

 そのためギルドの建物や役場など、主要な建物はやたらめったら頑丈に作られているそうだ。



 落盤にも耐え、市民を押し潰してしまわないように。

 だから何かがあればギルドの建物などに避難すると、遠く離れた丘の麓まで抜け道が作られているそうだ。




「しかし意外に緑もあるし、明るいし良いとこだよなこの街も」

「そーでしょう! まぁ、難点があるとすれば埃っぽいところかなぁ」



 確かに砂漠の街のような感じで砂が舞っているが、それはもう風が通り抜けにくいと言う環境のせいだし仕方ないだろう。




「ちなみに、なんでこんなところに街ができたんだ?」



 エイラにおすすめされたサンドリザードという大蜥蜴の肉を甘辛く煮たクレープ包みのようなものを食べながらギルドから都市入り口の方を眺めながら考える。

 

 

「最初はこの国の首都スペルムとアルフっていう貿易都市を結ぶための宿場町として作られたらしいわ」


「交易路だったのか」




 つまり何かあった時の避難場所としても使えるように、外を闊歩する魔獣などに見つかりにくく作られているのだろう。




「最初は空が見えないのは息苦しいなって思ったけど、この環境のおかげで、ワイバーンに襲われることなく生活できるもの」



 道端に落ちている肉を攫うカラスのように、急降下して人間を咥えて飛び立ってしまうのがこの世界のワイバーンらしい。


「そりゃ怖い……」


 確かにそんな恐怖に怯えながらだと子育てすらままならないだろう。


「じゃあ次――」

「はい、エイラさん」

「なんですかナツミさん?」


 ピシッと手を挙げたナツミにエイラが教師風にピシッと指を刺す。


「私お腹がすきました!」


 さっきまで3人でクレープを食ってたのにもう腹が減ったのか。


「そのぅ……下手にお腹に物を入れたせいで余計に……」

「あーあるよねぇそういうの。ねぇ、ノユキはお昼食べられる?」


「あぁ、軽い物ならぜひ」

「あ、エイラ焼きそば行こ」

「良いね焼きそば」


「まぁ焼きそばぐらいなら」

「――ふふっ」




 どこが軽い物なんだどう思いながらも、焼きそばくらいなら食べられるだろうと2人の後ろをついていく。


 確かにそろそろ昼飯の時間が近いらしく、あたりの店からは美味しそうな匂いが漂い始めていたのだった。



◆◆◆◆◆


「焼き……そば?」

「ん? ノユキどうしたの?」


「焼いた……なんだこれ?」

「焼いたそばよ?」


 小さなこぢんまりとした定食屋に入った俺たち3人の前に出されたのは、エイラ曰く『焼きそば定食』だそうだ。


 ここ『焼きそば屋』は美味しい焼きそばが食べられると平日も昼には行列ができる店らしい。

 今日は偶然オープンギリギリに入れて、人も少なくすぐに座れた。



 店の看板そのままのメニューしかないらしく、座るとそれが出てくる仕組みだそうだ。


「…………じゃがいも?」


 俺は皿に乗せられた3個ほどの焼かれたジャガイモを前に、他のテーブルを見まわし、ナツミにヘルプの視線を送る。



 

「ふ、ふふっ、ふふふっ――あはははっっっ」

「う、うえっ!? ナツミどうしたのっ?」

「ひーっ、ノユキがおかしくてっ、あははははっっ」


 どうやらこいつは俺の反応が予想できていたらしい。

 確かに周りのテーブルも同じような物を食べている。


 肉のそぼろと野菜の餡掛けのようなものを焼いたジャガイモにかけて食べていた。




「ノユキ、これがソバの実よ。どんな荒地でも住んでる()()()()で出来るからソバの実。それを焼いたこれが()()()()


 住んでる側にできるからソバの実……。


「枝豆といい、秋鮭といい、どうなってんだいったい」


「ふふっ、あはは、気にしないほうがいいわ、それより冷めると美味しく無くなるから早く食べた方がいいわよ」


「そうだよー、ノユキ早く食べようよー」




 2人に急かされ、俺はエイラがやるのを真似て餡掛けを芋に掛け、ナイフとフォークで切り分け、口へと運んだのだった。

次回明日の20時投稿予定です!


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