23:伯爵家の権力
アングラにある宿屋。
夕食の時間になり、宿の一階にあるレストランスペースで俺とエイラ、ナツミが3人で横に並び、向かいに女の子が3人座っていた。
「とりあえず乾杯しますか」
「そ、そうね」
「よ、よろしくお願いします!」
ノリの悪い合コンでも始まったような感覚だが、そのうち打ち解けると信じてワインで乾杯をすることにした。もともとエイラとは夜にご飯を一緒に食べるという約束をしており、ナツミとは先程まで一緒に居たので、予定通りではある。
向かい側に座っている想像外の3人、つまりレンさんとリンさん、ベルタさんをエイラが連れてきたのだった。
「先ほどの今で押しかけて申し訳ありません」
「今夜の予定が空いたので……突然ですいません」
そう言って、リンさんとレンさんのエルフコンビが申し訳なさそうに頭を下げた。
巨乳女子小学生な見た目のベルタさんも気まずそうにワインを飲み干した。
(見た目が子供ぽいせいで、すごい絵面に見えるなぁ)
「ねぇ、みなさん!? 空いた予定って私の遺体捜索の予定だよね!?」
なかなか美味しいツッコミをしているエイラの腰をポンポンと叩いて座らせた。
「ひゃう!? ちょ、みんな居るのに」
「…………何やってるのよ」
エイラに勘違いな抗議をされ、反対に座っているナツミに服の裾を掴まれた。
「とりあえず、まぁ飲もうぜ。エイラはもう報告とかは終わったのか?」
「うん、全部終わったーめんどくさかったぁ」
「お疲れさん」
エイラは無事に帰ってきたが、結局もう1人のメンバーだった人間の女の子は行方不明のままである。
その娘の捜索に出るべきだという話も出たそうだが、エイラの証言から近隣のギルドへ行方不明者の手配を回すことになったらしい。
なんとかしてやりたいが、俺にはそう言う能力があるわけでは無いので、ギルドに任せるしか無いだろう。
「あのーノユキさんって冒険者じゃないですよね?」
「んーそうですねー。旅行者ですかねぇ」
冒険者ギルドに登録しているわけでも無いので、俺の身分はなんだろうと考えるが、よく考えたら身分証を持っていなかった。
「一応、他国の伯爵家の身分証ならあるんだけどなぁ」
前回、キリネさんにもらった伯爵家の身分証しかなく、公的なものは持っていない。
「はっ、伯爵家――!? ノユキさん、貴族だったんですか?」
「や、やば……い……どうしよう私とんでもないことを」
「はわわ……ど、どうかお命は……」
「待って、ちょ、待て待て!」
金属プレートの身分証を見せたら向かいの3人だけでなく、エイラまで床に土下座をしようとするのを必死で止めた。
ちなみにナツミは「ふーん」といいながらワインを飲んでいた。
「身分証が伯爵家発行ってだけで俺はただの平民だよ!」
一応このタイミングでは平民だ。将来的には伯爵になるらしいけど。
◆◆◆◆◆
「はぁ……てか、そんなになるほど貴族ってヤバいのか?」
4人を落ち着かせ、やっと椅子に座り直させた俺は一番大人なイメージであるエルフのリンさんとレンさんに聞いてみる。
「貴族というか、人間の貴族はマジやばいです」
その発言力と統率力、種族としてのポテンシャルを含めて優秀な人間は殆どが大貴族として国王の元で働いているそうだ。
品行方正、清廉潔白。
低俗な方向に『やばい』じゃなくてよかった。
「つまり人間の貴族……その関係者などは本当に雲の上の人というか、お目にかかることすら一生にあるか無いかぐらいで……」
「へ、へぇ……」
「ねぇ、ノユキ、それ見せて~」
俺が指先でクルクルと回していて身分証のプレートをエイラが興味津々という感じで、指先でヒョイと取った。
正直、こういう内容ですよと言われただけで、実際何を書かれているのかは知らないのだが。
「……………………」
「エイラさん?」
「エイラ? ねぇノユキ、エイラ固まっていない? フリーズした?」
向かいのレンさん、俺の隣からはナツミが心配そうにエイラをじっと見ている。
「ノユキの嘘つきぃぃーー! 平民じゃないじゃん! 貴族よりヤバいじゃん! えっ? なに? 私、死ぬのっ!?」
エイラの叫び声に宿の人も何が起こったのかと顔を出す。
「ちょ、エイラ……ちなみにそれ書いてあるの読めないんだけど、なんて書いてあるんだ?」
「これを読めって? えぇっと……『上のもの、アーガルズ王国 ウミノ伯爵家が身分を証明するものなり』って表には書いてあるけど……」
「アーガルズ王国のウミノ伯爵家……って、あのウミノ伯爵?」
「えっと、四代目当主アカネ、五代目当主キリネ、六代目ユキネ』……って書いてある……ユキネ……さま……だ」
「ユキネ伯爵……歴史の授業で習った……私、絵本も読んでもらった気がする」
「私も彼女の伝記が家にあるわよ……全10巻のやつ」
「ユキネの伝記? なにそれめっちゃ気になる」
「ノユキさん、何呑気なことを……アーガルズの大英雄ですよ」
どうやらユキネは大英雄になったそうだ。
俺の記憶では強がりで頑張り屋でベッドではめちゃくちゃ甘えん坊なユキネでしか無い。
「ノユキ、本当に何者……あっ! さっきナツミにウミ――もがっ!?」
これ以上めんどくさい事にならないように俺はエイラの口を塞ぐ。
俺はレンさんとリンさんの空になったグラスにワインを注ぎ、枝豆のようなものを摘む。
見た目はなぜか真っ赤で唐辛子のようだが、味は枝豆だ。
「というか、裏もヤバいんだけど……アーガルズ国王陛下宛に、一等冒険者特権を無条件で発動して良いからなんとかしろって書いてある……なにこれぇ……」
エイラは両手で落とさないようプレートをしっかりと掴みながら、裏側と表側をくるくる見比べるように穴が開くように見つめついる。
やはり冒険者にとって、一等冒険者の特権とやらの価値は理解しているのだろうか。
そして書いてある内容もキリネさんに聞いていた通りなのでホッとする。
「まぁそんなことより」
「いやいや、ノユキ様、何をサラッと流そうとしてるんですか」
冒険者のエイラだけかと思ったが、ドワーフのベルタさんも同じぐらい驚愕しているようだった。
「そんなことで良いんだよ。それよりユキネの話ってどんなのがあるんだ?」
「ユキネ様ですか? 海の向こうの話ですから書物や伝聞しか無いのですが」
「伝記だと、魔族の大襲撃をたった数千の兵団を率いて蹴散らしたとか、世の中のドラゴンを絶滅させたとか」
魔族の大襲撃とはまたヤバい単語が出てきたが、どうやら元気なやって行ったらしいと知ってホッとする。ドラゴンを絶滅させたという恐ろしい言葉は聞かなかったことにしよう。
「でもユキネ様もだけど、お子様? お孫様? の、シラユキ様も凄いよね」
「あー! そうそう! シラユキ様は確か長女だったわよ。白病の特効薬とか、伝染病を食い止めたとか、シラユキ様が居なかったら国がいくつか滅びたとか言われてるわよねー」
今度はリンさんとレンさんの口から気になる名前が飛び出した。
ユキネの長女で名前がシラユキ。
漢字的には白雪だろうか。
「ねぇ……あんたもしかして」
ナツミが怪訝な視線を向けてくるが、しれっと目を逸らして新しく注がれた白ワインを一口飲む。
「ちなみに今、ウミノ伯爵家って何代目とかわかる?」
「えーっ……と?」
「リン知ってる?」
「何代目かは知らないわ……ベルタは知ってる?」
「確か10代目が就任したとかそんな記事を読んだことがある気がするわ」
10代目。ユキネの玄孫である。
血のつながりが脈々と繋がっているのを改めて凄いと思う。
「そんなことより、ベルタさんとリンさん、レンさんの話も聞きたいなー」
俺は色々と話を逸らすべく、左右に陣取ってるエイラとナツミの様子を確認しつつ、向かいの3人に話を振ったのだった。
次回明日の20時投稿予定です!
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