22:同郷
地下都市アングラは岩を掘って作ったような家と木材と石材を組み合わせて作ったような家が混在している。天井には光石という鉱石が発光しているらしくとても明るかった。
街の大通りにはどこから持ってきたのかサボテンとツツジが合体したような不思議な低木も植えられており、地下都市という印象とは違い自然と調和した街だった。
俺の横を歩くエイラにいつの間にか腕を組まれており、胸の間に腕が挟まれててとても気持ちがいい。
何人かエイラの知り合いだろうが、すごい変なものを見たと言う表情を向けてくるのが印象的だった。
◆◆◆◆◆
「着いたー! ここが私の家!」
街の入り口から5分ほど歩き、エイラに案内されたのは意外にも一軒家だった。
勝手にアパートのようなのを想像していたのだが、この一軒家に友達数人とシェアして住んでるそうだ。
「おまえ、シェアしてるのに勝手に男を泊まらせるのはアウトだろ」
「あいたっ!?」
エイラにデコピンをして、ちゃんと同居人全員が良いと言わない限りダメだと伝え、近くの宿を教えてもらうことにした。
「うー……いてて……絶対大丈夫なのに」
「あれ? エイラっ!?」
家の門のところで話しているところに背後から声がかかった。
エイラの友達かと思い振り返ると、黒髪ロングの清楚系女子がお化けでも見たような顔で佇んでいたのだった。
「あーナツミ! ただいまぁー!」
「たっ、ただいまじゃないわよ! 死んだって聞いて、もう私どうしたら良いのかって……」
なるほど、これが噂の『ナツミ』さんらしい。
確かに日本人と言われれば日本人にしか見えない顔つきだ。
「…………バニーガールだ」
ただし、頭から生えている髪と同じ色のウサ耳が生えていなければ……である。
ちなみにロップイヤーのように垂れたウサ耳だ。
「――!? ちょっと! 誰それ? ってエイラ尻尾が! じゃなくて、今そこの人、私のことなんて言ったっ!?」
エイラの心配をしたいのか、よくわからん男の俺を追求したいのかわからないが、とにかく彼女にロックオンされたことはわかった。
「あーこの人はノユキって言って、私が死にそうなところを助けてくれたの。それでこっちがナツミちゃんね」
「…………よろしく」
「海野雪也です。よろしくお願い申し上げます」
怪しいものを見る視線を向けられたので、あえてフルネームで営業らしく90度に腰を折って挨拶をしてやった。
「ノユキの本名ってそんな名前なんだーウミノユ……?」
「う……うっ……みの?」
「海野です」
「えっ、マジで言ってる? その髪も染めたわけじゃなくて?」
「残念ながら地毛だよ。やっぱり君は……」
「まって。それ以上は……ね?」
「了解」
「えっ? ナツミとノユキ、なんだか分かり合ってる?」
「いや同じ髪色だから気になるだけだよ。ほらエイラ、さっさと宿を教えてくれないか?」
「うーん、なんだか気になるけど……あと、宿案内するけど同居人には許可とって明日は泊まってもらうからね?」
「わかったわかった」
ちなみに昨日の夜、俺があと数日で居なくなるとは伝えてある。
寂しいが仕方ないと納得されたのだが、だからこそ一緒に居たいのだろう。
でもそれとこれとは別だ。
流石の俺も女の子だけのシェアハウスに転がり込むようなことはできない。
結局俺は商業区にある宿へと案内してもらい、無事に部屋を取ることに成功した。
エイラは晩御飯を一緒に食べようと約束をして、ギルドへ正式に報告と諸々手続きをしてくると一度別れたのだった。
◆◆◆◆◆
――コンコン
ベッドで少し横になり、散歩にでも行こうかなと思っていたところで部屋の扉がノックされた。
「どうぞ。早かったね」
俺が扉へと声をかけると、そっと木の扉が開かれた。
「失礼します。エイラに許可取ってきたから」
「許可?」
「友達の彼氏と密室で2人きりになる許可」
「彼氏じゃ無いけど……エイラはなんて?」
「『やっぱそう思うよね! いいよ! 応援するから終わったら教えて!』だって」
結構エイラにも愛されてるなと思っていたのだが、男を独占しないと言う獣人特有の感覚はすごいなと思う。
「ナツミさんがエイラになんて返事したのから気になるけど、何が聞きたい? 俺も聞きたいことがいっぱいある」
黒髪兎耳の少女、ナツミさんを部屋に招き入れると、すっとベッドへに腰掛けてきた。
「えっ……と、まず俺は96時間限定でこの世界に来た。これで通じるか?」
「へぇ。じゃああなたは日本に戻るのね」
「ナツミさんは?」
「ナツミで良いよ。日本の記憶を持っているけど過去の生まれよ。ナツミは私が名乗ってるニックネームで前世の名前だから、本名はナタリアよ」
「『ナ』しか合ってないな」
「うっさい」
ナツミはいわゆる転生者だそうで、2年ほど前に記憶を取り戻したらしい。
向こうではなんらかの理由で死んだのは覚えているが原因までは思い出せないそうだ。
「別に帰りたいとかは思わないけどね。でもお化粧品とか下着とか生理用品とか色々と不便なのは認めるわ」
「俺が何度も来れたらなぁ、向こうの商品を届けてあげたりできるんだけどね」
「…………そこまでは期待していないわよ」
「今何か期待してたな?」
「別に…………」
もしかしたら何か未練でもあるのだろうか、踏み込んでも良いのか分からないため、これ以上の質問を躊躇してしまう。
「それでナツミが俺に聞きたいことは?」
「もう済んだわ」
今のやりとりでナツミが欲しがってた情報が得られたと言うことは、俺が向こうと行き来することができるかというところだろうか。
やはり何かを欲しがっていたのだろうか。
「じゃあもう良いか?」
「――っ……もういっこ」
膝の上に乗せた手をギュッと握りしめたり開いたり、何かを言おうとしているのだろう事はわかるので急かさず待つことにする。
「はぁぁ〜…………」
そしてやっと決心したのか、ナツミが大きなため息をつき、こちらを見上げてきた。
実際には1分も経っていない沈黙時間だっただろうが、えらく長く感じた。
「わ、わ、私と……その……ね……ど、どう? それなりに可愛い部類かと思うんだけど……」
突然「どう?」と言われても普通は警戒しかしないだろうというツッコミはせずに、じっとナツミを頭から足まで観察する。
黒い髪に、黒毛の垂れ耳。大きなクリっとした目に、ささやかな胸。
腰から脚まではすらっと細く、スカートから覗く太ももは顔を埋めたくなりそうなほどである。
「ね、ねぇ……何か言ってよ」
「いや、正直可愛いなって思って」
「じゃ、じゃあっ」
「ちょっと待てって」
俺が即座にそう返事するとナツミがしゅんとする。
やはり突然そんなことを言われても事情が気になるのだ。
ナツミは何かを決心したのか、ゆっくりと理由を説明してくれた。
母親は生まれた時に、父親は去年死んで今は1人で家族がいない。
この世界は女性に厳しく、下手すれば突然攫われて奴隷にされてしまうような環境なので、独り身の女はほとんど居ない。
「あと獣人の男性とそういうことをするのを考えるだけでもダメなの……理由はわかんないんだけど、とにかく無理なのよ」
父親が亡くなった時、近所の人たちが色々とお見合いを進めてくれたらしいのだが、友達としては好きな男でも付き合うとかは考えられないらしい。
両手でギュッと自分を抱きしめるナツミ。
「でもこの世界の人間は獣人に差別的だし……下手すりゃ性奴隷よ……信じられない」
「俺はこの世界に長く居れないし、再び来る事は多分できないだけど、それでも良いのか?」
「それでも……よ。やっぱりあなたには嫌悪感が無いもの……。知ってる? 獣人の人たちって子供は女性が集まってチームで育てるのよ。寂しくは無いはずだわ」
この世界で生まれ、向こうの記憶を持って居て、家族がいない――。
それってかなり寂しいことだろう。
彼女が家族を求めても仕方がないかもしれない。
俺はいまだに日本人で向こうの感覚が前面にあるが、彼女はここで生きて行くしかないのだ。
「ナツミ」
「……なに?」
「おいで」
俺はナツミの肩に手を回し、細く折れそうな彼女をギュッと抱きしめたのだった。
次回は21時にあちらを更新しながら、本編は明日の20時投稿予定です!
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