21:地底都市アングラ
☆★★★★
「ここがアングラの街よ!」
すっかり正午を過ぎたあたりに、俺はやっとエイラの街へとついた。
この世界に来てすでに34時間ほど経過している頃だった。
「これがエイラの住んでいる街か……」
例えるなら超巨大な崖。
グランドキャニオンのような岩の崖だ。
その壁の一部に不自然な岩の裂け目があり、そこから地底へと降りてきたのだ。
地底に広がる巨大な都市。
それがこのアングラの街だそうだ。
「やっと着いたぁ~腰いたーい」
「腰が痛いのは俺たちの自業自得じゃないかな」
途中一泊するときに色々と仲良くなり過ぎた。
その結果休むはずなのに余計に体力を消費してしまい、到着がこんな時間になったのだ。
「えーえへへ、自業自得だからしかたないわね」
そう言って2本の尻尾をふりふりするエイラ。
今朝、どう言う理由なのか分からないのだが、1本の尻尾しかなく一族で落ちこぼれと言われていたエイラの尻尾が2本に増えていたのだ。
「大人の女になったからか?」
「ま、まさか……じゃあお隣のえっちゃんとかまだ3歳なのに……まさかそんな」
「ごめん嘘だよ、それだと男はどうするんだって言う話になるし」
「男の人にもあるんでしょ? 穴」
「それ以上はやめろ」
街の入り口でバカみたいな話を始めてしまう前にエイラを止め、地下へと続く階段を降りていった。
◆◆◆◆◆
「あれ? エイラちゃん! よかった心配してたのよ!」
門番だろうか、兵士の格好をした女性がエイラを見た途端走ってきて肩をガクガクと揺らす。
「あわっ、やっ、レンさん! 私は無事だよーただいまー!」
「よかったぁ……『エイラは間違えて毒草を口にして死んだ』なんて聞いたから、今夜から遺体の回収班が出るところだったのよ!」
「そ、そうだったんですか……確かに毒を盛られて死にかけたけど、この人が助けてくれたの」
「――っっ!! な、なんですって!?」
「あ、でも大丈夫ですよ、こうやって無事に帰って来れたし」
そんな流れで紹介された俺は、レンと呼ばれた兵士さんにめちゃくちゃ感謝された。
彼女は背中に弓を装備しており、銀色のボブカットからは尖った耳が飛び出していた。
(エルフ――だ!!)
耳が尖った人を、ライネブルグでチラッと見た気がしたのだが、まともに話するのは初めてなのだ。
レンさんは年齢はわからないが俺よりは若く見える。
細く横に伸びた耳。
確実に美人系の顔に、胸元は細やか……かと思いきや、胸当ての端……脇の部分に見える膨らみを見るとそれなりにある気がする。
「ノユキ、こっちはレンさん。昔からお世話になってるこの街の兵士さんよ!」
「あ、すいません、よろしくお願いします」
「レンさん、ちょっと話があるんだけど、あっちで……いい?」
俺たちはそのまま街に入ることなく、レンさんとともに街門近くの取調室へと入れてもらった。
そこで俺たちは事件のあらましを伝えたところ、レンさんは部隊長とギルドの偉いさんをこっそり呼びに行ってくれたのだった。
◆◆◆◆◆
ギルドの救助隊隊長だという、俺の半分ぐらいの身長しかないドワーフの女性、ベルタさん。
それとレンさんの隊長だというエルフの女性、リンさん。
今夜出発する予定だったという救助隊の責任者2人にエイラが事件のあらましを説明し、俺は見つけた時のことを話して聞かせた。
エイラが臨時で組んだパーティーリーダーの男――クラウスという冒険者の報告では、エイラが毒草を間違えて口にし瀕死、彼女を魔獣から守ろうとしたクリスも助けることができなかったと報告を出したそうだ。
討伐自体は成功しているので報酬を受け取った彼らは、休む事なく長時間街を離れる依頼を受けたそうだ。
「なんてこと……人間族は犯罪者以外の奴隷は死罪だそ」
「そこはまだはっきりしてないんですが……そんな話をしてたので」
「でも、それじゃあもうこの街には戻らないかもしれませんね」
「証拠はエイラさんの証言のみ……となると指名手配は難しいでしょうか」
ドワーフのベルタさんとエルフのリンさんがなんとか捕まえられないかと話し合うが、物的証拠が無いと他の街への手配までは難しいとの事だ。
「あいつらはそもそも他の街から1年ほど前に流れてきた冒険者でね……街での素行は普通だったし、他の街でも手配されたと言う話は見つからないんだ」
「そんな……」
つまり毎回『上手くやっていた』のだろう。
気に食わない獣人を殺害し、目星をつけた人間の女を攫って奴隷にする。
「あの、その人たちが来たという去年から、この街で行方不明になったり事故で死んだ人たち、女の人が多く無いですか?」
「――調べてみよう」
「私も詰め所に戻って報告書を漁ってみるわ」
ともかく奴らがこの街にいないと言うのが確定したため、俺たちは安心してエイラの家へと向かうことになった。
「あっ、ちょっと待って」
「そうそう、エイラもよ。あなた達に対する取り調べがまだよ」
「えっ、レンさんに、リンさん、ベルタさんも……な、なんですかっ! と、取り調べられるような事は何も」
ズイっと机越しに圧をかけてくる三人。
「しらばっくれない。何その尻尾? どうして急に増えたの? あとどうして下着もつけずに男の人のシャツを着てるの? もしかして無理やり……?」
レンさんが俺を睨ん――だと思ったのだが、睨まれたのは何故かエイラの方だった。
両肩を掴まれてガクガク揺らされている。
「なっ、レンさんそんなことあるわけないでしょ!」
「だって、エイラ、男は苦手だって……」
「そっ、うん、そ、そうなんだけど……あ、あはっ、この人は大丈夫だったわ」
ついに言い訳が出来なく観念したのか、エイラに腕を組まれた。
それを見て、何故かレンさんの上司のリンさんが椅子ごと後ろへ倒れ、ベルタさんは机に突っ伏した。
「エっ、エイラっ!? わっ、あっ、わ……たしもその……あとで紹介してほしいんだけど」
エイラの耳元でレンさんがぼそっとそんなことを言ったのだが、バッチリ聞こえてるからな。
「あの、一応聞きたいんですが、なんでそんなにビックリしてるんですか? エイラこの街でなんかしたのか?」
「えぇ……私、品行方正な市民だよ」
「はいっ! それは私から!」
椅子ごと倒れていたリンさんがいつの間にか復活しており、手をあげて説明してくれた。
「いいですか? まず前提の話になりますが――」
リンさんの説明をまとめると、この街には人間以外の種族――つまり獣人やエルフ、ドワーフなどの種族が一番多い。
そして全体的に男が少ないそうだ。
獣人は一夫多妻なのだが、それでも男が足りていない。そしてエルフやドワーフは完全に男不足。
獣人の男性はエルフとドワーフは恋愛対象外。
となると、あとは人間の男性だが、彼らもエルフやドワーフに興味をあまり示さないことが多く、下手すれば性奴隷として捕まって売られる可能性もあるそうだ。
「私たちやハーフリングもそうですが、ドワーフの女は背が小さ過ぎて無理と言われます……」
ドワーフのベルタさんはそう言うが、顔は普通に美少女で胸もでかい。
ただ背が低いだけ。
(胸が大きな女子小学生なんだよな……見た目は。髭も生えていないし筋肉質というわけでも無い)
「私たち耳長族は……嫉妬深く、普段は冷たくて、体つきも女らしく無いと……人間の間で評判で」
そんな評判を流した奴は俺が処分してやる。
エルフ。
耳が感情に合わせて動いているのは、獣人の尻尾のようなものだろう。
顔は澄ましているのに耳だけが真っ赤だったり、ピクピク動いていたりと、非常に面白い。
というか美人すぎるのだ。
触れていいのかと思ってしまう。
胸の薄さとは言うが、普通にBかCはあるだろう……獣人やドワーフがデカすぎるのだ。
「つまり、みんなノユキとお友達になりたいって事?」
「(こくこく)」
エイラのぶっちゃけた質問に、今度は3人が真面目な顔で頷く。
人間であり亜人に何も差別的な考えもなく、まず男嫌いのエイラが懐いているので信用ができる。
それだけでお近づきになりたい欲が出てしまったと、少し我に帰ったリンさんにお詫びをされてしまった。
◆◆◆◆◆
「――公私混同してしまい申し訳ありませんでした。ぜひ次回、お詫びにお食事でもご馳走させてください」
「私も、宜しければゆっくりとお話しさせてください」
そう言って、リンさんとベルタさんは過去資料を漁ってくると部屋を後にし、エイラの友達であるレンさんも仕事に戻って行った。
「この街ってあんな人たちばかり?」
「あー……確かに獣人以外は子供がいる人少ないかも……言われるまで気づかなかったわ」
「エイラは子供とか欲しいと思っている派?」
「うーん、昨日までは正直、要らなかった。それより私はやらなければならないことがあったから」
それは彼女の尾が原因で仲間から見放され家出をしてきた話だろう。
「でもね、今はすっごく、びっくりするほど家族が欲しい。やっぱこれが原因かなぁ……不思議だなぁ」
エイラはくるんと周ると、2本に増えた尻尾をふさふさと振る。
「えへへ、とりあえずうち行こっ! ちょっと散らかってるけど、良かったら泊まってって」
そう言うエイラに手を引かれ、俺はアングラの街中へと足を踏み入れたのだった。
次回明日の20時投稿予定です!
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