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20:きれいに洗い流す


 俺が地雷を踏んでしまったせいで泣いてしまったエイラ。

 彼女の泣いた理由は単純だった。


 単純というと彼女に酷だから口にはしないが、よく分かる話しだった。



 つまり彼女の一族はみんなが2尾から9尾という複尾を持って一人前という感じらしい。

 だが尾が1本しかない彼女は中途半端という立場に立たされており、彼女はその環境を改善したく修行と称して家出をしてきたらしい。


 だが何年努力をしても尾は増えず……ということだ。


 俺はしょんぼりしてしまったエイラに謝り、やっと落ち着いた頃に、近くにあるという小川まで案内してもらうことになった。




◆◆◆◆◆



 15分ほど歩いてたどり着いたのは、意外にも水量のある清流だった。

 幅は3メートルぐらいあるだろうか。

 雨が降っていたにも関わらず、水かさはそこまで高くなく濁ってもいなかった。


 

 俺はエイラが身体を洗っている間に椅子でも出してのんびり休んでいようと思ったのだが、尻尾を洗うのを手伝ってほしいと頼まれた。





「恥ずかしいから、み、見ないでよ?」


 エイラの髪は既に洗い終わったようで綺麗な金色の髪から水が滴り落ちていた。

 俺は膝まで川に入って、エイラの背後から泥まみれの尻尾を水で洗っていく。


 触るたびにピクピクと反応するが、気にせずシャンプーをつけ手櫛で綺麗に泥を落としていく。





「なぁ、女の子は異性に尻尾を触らせないって聞いたけど、種族によるのか?」


「そんっ……そうよ……今だってすっごく恥ずかしいけど、なんだかノユキなら良いかな……って……どうせ後で全部隅々まで触られるんでしょ?」



 尻尾の毛を解かすたびに川の水が茶色く濁っていくのを眺めながら考える。



(俺ならいいっていうセリフは何回か聞いた。やっぱり変なフェロモンが出ている説が濃厚だな)



 

「まぁ触っていいと言われれば俺も男だし、エイラは美人だしぜひ触らせてもらいたいけど」

「んなっ……!? も、もうっ、そういうところよ!」




 そんなやりとりをしながらも泥を大体落としてから、俺はもう一度シャンプーで洗い、最後にリンスをする。




「ほらエイラ、これで髪をもう一度洗って。俺はタオル用意してるから」



 キャンプ用のミニボトルに入ったシャンプーとリンスをエイラに手渡し、ひと足先に川から出て川岸の岩へと腰掛ける。


 そして髪を洗うエイラを眺めながら休憩することにしたのだった。


◆◆◆◆◆


「あ、あの……タオル貸してくれる?」

「ん? あぁごめん、はい」


 すっかりピカピカのツルツルになったエイラが川から上がってくるのをぼーっと見ていたら、つい反応に遅れてしまった。




「この髪用の石鹸と身体用の石鹸、どっちも凄いわね……タオルもふっかふかだし」

「それは良かった。すっかり綺麗になったな」


「うん、ありがとう。服は……ごめんね、もう少し貸しててね」



 エイラから脱がした服はなるべく洗ったつもりだったのだが、やはりもう着る気にはならないほど色々なもので汚れていた。




「うぅ……もうお嫁に行けない……」

「俺は気にしていないし、エイラも死ななかっただけ良かったってことにして気にしないのが一番だぞ」


「う、うん……」




 エイラは結局ブカブカのTシャツに短パンを履いた。

 尻尾が通らないので、お尻の上部はハサミでV字で切った。


 下着も全滅してたのでノーブラノーパンだがそれは我慢してもらおう。




(……ライネかレイネの下着ならあるけど流石になぁ)




「あのテントは……街に戻ったら私が掃除するから」


 テントというよりポップアップシェードなのだが安物なので、掃除するぐらいなら捨てたほうがマシだ。一応同じものを後二つ持っているし、6人ぐらいが眠れるガチのテントも一つ持っている。




「あぁ、テントはいいよ。処分するから」

「でもあんな軽くて便利そうなやっ……あ、もし……す、捨てるなら欲しいなぁ……なんて……だめ?」



 捨てるなんて勿体無いと言いかけたエイラは、良いことを思いついたと言わんばかりに、捨てるならクレとおねだりしてきた。


 確かに冒険者ならあの折りたためるポップアップテントは便利だろうか。

 着替えにも使えるし。




「ちょっと考えておくよ」

「やったぁ」



 考えておくと言っただけだが、エイラは既にもらう気のようだ。

 エイラはそんな話をしながらも頭をタオルで拭き、尻尾を綺麗にタオルで拭き始めた。


 ここから街までは1泊ぐらいで到着するらしい。

 地図で見てもそんな距離に街は見当たらないのだが、ちゃんと街があるらしい。


 エイラも住んでいるらしいので、あるのは本当なのだろう。




「それはそうと、今って何年の何月だっけ?」


 俺はエイラの身支度を眺めながら、聞こうと思って忘れていたことを聞く事にした。

 前回は400年ほど経過していたが今回はどうなのだろうと気になるのだ。

 

 



「えぇ? 暦? 王暦1227年の……えーっと今日は11月10日かな」


 ――王歴1227年。


 たしか前回は王暦922年だった。

 その前、ライネとレイネに会ったのは逆算だがおそらく王歴520年ごろだ。



 ライネと出会った時代から数えると700年も経っている計算になる。

 ユキネと分かれてからは300年だ。




「その街の名前ってなんだっけ? アングラ?」

「そうそう。アングラ」


「ちなみにライネブルグっていう街知ってる?」

「ライネブルグ? えー知らないなぁ……他の国?」

「あー国の名前……か」



 言われてみれば街の名前は何度も聞いたが、なんと言う国に属しているかなど全然知らないままだった。それぞれ3泊4日しかいなかったし、覚える暇もなかったので仕方ない気もする。



 知らないと答えようと思った所で、不意にクーポンで無限増殖事件のことを思い出した。



 『アーガルズ金貨に両替しますか?』



 確かにそう言う表記だった気がする。



「『アーガルズ金貨』だからアーガルズが国名なのかなぁ……聞いたことある?」

「アーガルズなら海の向こうの国よ。ここは……「痛てっ……」……どうしたの!?」





 俺は突然の頭痛に襲われ、呻き声が漏れた。

 久々の危険予知さんが発動したのだった。




「エイラやばい、ここにいると死ぬ」

「えっ? どういうこと?」


 見たところエイラは武器も何も持っておらず、Tシャツに短パンという格好だし俺も一般人だ。


「でかい虎が来る」

「と、虎? 魔獣ってこと!?」


「たぶん――あの崖の方からだ。逃げるぞ」

「ちょっ、まって」



 俺はエイラの手を引き、虎が飛び降りてくるという予知が見えた方とは逆へ走り始めたのだった。



◆◆◆◆◆


「エイラっ、一応聞くけど戦いは!?」

「私、後衛だもんっ、あと虎の魔獣ってことは、白虎鬼よ! 私には無理っ!」


 白虎鬼とやらはこの辺りでたびたび目撃される魔獣だそうで、三等級以上の冒険者対象で討伐依頼が出されるらしい。




「なんで襲われるって、わかったの――っ、はぁっ、はぁっ」

「えっとっ、はぁっ、はぁっ、そういう能力がっ、あるんだよ! はぁっ、はぁっ」


 2人して林の中を走り抜けながら後ろを振り返りつつあの場所から必死に離れる。


 ぬかるんだ腐葉土の上を転けないように走り続けて10分は経っただろうか。




「はぁっ、はぁっ……」




 少し立ち止まり、俺はこの場所で待機する想像をしてみるが、特に危険予知さんが反応しなかった。

 どうやら巻いたらしい。




「エイラ、もう、はぁっ、大丈夫ぽいぞ」

「はぁっ、はぁっ、はぁーっ……よか、った……一回の冒険で2回も死亡フラグを回避するなんて……はぁっ」




「…………()()()()()?」

 




 息も絶え絶えなエイラから、めちゃくちゃ聞きなれた単語が聞こえ即座に聞き返してしまった。




「えっと。死ぬのが確定した運命を回避した。みたいな、感じかな」

「意味も同じ……その言葉は誰が?」


 俺のキャンプ道具とかに驚いていたエイラだ。

 彼女がたとえば日本人の転生者やら転移者であるはずはない。





「私の友達がよく言うから移っちゃったの」



「友達……ねぇ。もしかして俺みたいな黒髪黒目?」



「そうそう! 黒くて長い髪で、目も黒なの! 言われてみれば確かにノユキも真っ黒よねー! 女の子だと可愛いなって思っていたんだけれど、男の人だとカッコよく見えるんだね!」


「黒くて長い髪で黒目……俺と同郷な気がする」


「えっ? そうなの? でもナツミのことは赤ん坊の時から知っているわよ? お父さんとお母さんもアングラの生まれだし……?」




「そうなのか? じゃあ勘違いかもしれん」




 一応勘違いだと言うことにしたが、名前の『ナツミ』というのは『夏見』とか『夏海』だろうか。


 そして赤ん坊の時から知っているということは転生だろうか?

 いずれにせよ、日本を知っている人間がいるという事実に、俺は妙に心臓が高鳴るのだった。

 

★★★★☆

次回は21時にあちらを更新しながら、本編は明日の20時投稿予定です!


もし気に入っていただけた方は「ブクマ」や下の評価【★★★★★】などよろしくお願いします!

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