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18:三度目の正直

「ここは何処だぁぁぁーー!!」


 眼の前は見渡す限りの荒海。

 再びこの世界に降り立った場所は、全く見たことのない海岸。

 しかも近くに街らしきものは何も見えないような場所だった。



 

「とにかく海から離れなきゃ……」




 何が辛いかというと、今現在、土砂降りなのだ。

 眼の前の海は大荒れ、空は真っ黒な雲が立ち込めており、まるでバケツをひっくり返したような雨が降っている。


 一応長袖のシャツとジーンズに簡単な胸当てだけという今の格好ではあまりにも自然に対して無力すぎる。


 マジックバックから雨具を取り出そうとしても、この土砂降りだと意味をなさないと判断した俺は後方50メートルほど先に広がる雑木林へとダッシュしたのだった。




◆◆◆◆◆


 

「ここでもほとんどダメか」


 落ちていた巨大なヤシの葉ににたものを傘がわりにし、ポンチョを取り出し頭から被る。


 林の中とはいえ、高さ50メートル近くありそうな広葉樹から、葉に集まった雨水が塊になり定期的にボタボタと落ちてくるため、ここでも雨宿りができているとは言い難かった。





 マジックバックから手早くタープとロープを取り出し近くの木の幹に結び、反対側を地面にペグ打ちをして斜めの屋根にする。




「地面ふかふかだな……全部腐葉土か」





 あとはタープの下へテントを貼りたいところだが、少し先に見える荒れた海を見て考える。





「流石にここまでは水は来ないと思うが……この地面の具合……夜はやばいかな」




 だいぶ海から離れている場所とはいえ、海岸に近い辺りは怖い。しかしこれ以上、林の奥へと入るとしても少し雨足が緩くなるのを待つのが良いかなと考える。






「しかし人っ子1人いないのは困る」


 せっかくクーポンを使ったのにスタンプがゼロは困るのだ。何としてでも人里にたどり着くのがマストだろう。




 とりあえず雨宿りだけでやることも無いので、大量に詰め込んだキャンプ道具を役立てようと、低いタープの下で、腰をかがめながら朝食の用意をすることにした。



◆◆◆◆◆



 ランチョンミートの缶を開けて、まな板へ。包丁で薄く切り、フライパンへ並べる。


 シングルバーナーにフライパンを乗せてランチョンミートを焼きながら、もう1つのバーナーにヤカンをのせミネラルウォータを入れてお湯を沸かす。




 前回は春という感じの気温で過ごしやすかったが、今回は流石に雨が降っているせいで寒い。

 息も少し白く、濡れたままだと確実に風邪をひいてしまいそうだ。




 お湯が沸くのを待つ間にポンチョを脱ぎ、シャツを脱いで一旦マジックバックへとしまう。

 ついでにジーンズも脱いで新しいTシャツと、防水のジャケットとカーゴパンツに履き替え、靴もランニングシューズから防水靴へ換装。





 結果、上から下までバッチリと某有名な国産登山装備で揃ってしまった。

 危険予知さんも働かなさそうなので、濡れてしまった胸当てと脛当てもマジックバックへ放り込む。





「お、焼けてきたかな。お湯もそろそろだな」


 マジックバックから8枚切りの食パンを取り出し、焼けたランチョンミートとレタスを挟む。

 もっと色々と調理しても良いが、こんな仮拠点では落ち着かないので今回は腹が満たせればOKということにする。





「うま……外で食う飯は簡単な物でも美味いなー」




 コーンスープの元を入れてお湯を注いで一口飲む。温かいものを飲んだせいで、吐き出す息がますます白くなる。




「ふぅ……。なんだ……?」


 もう一つ食べようかなと思った時、ふと何かの気配を感じた。

 誰かに見られているような……感じではない。




 とにかく()()()()()感じがするのだ。





 雨音のせいで、他の物音はほとんど聞こえない。

 俺はポンチョを被り直し、近くをぐるっと確認することにした。






 危険予知さんは何も仕事をしていないので死ぬことはないはず。

 辺りは所々に茂みがある雑木林。

 人の手が入ったような道はなく獣道も特に見当たらないような場所だ。




「……気のせいか?」




 タープを貼った仮基地の周り20メートルぐらいをぐるっと回ってみたが、特に何も見つからなかった。少し気にはなるが、もとの場所へと戻るかと踵を返したところで、()()()()()を見つけてしまった。









「……死体じゃないよな」


 木の根元の腐葉土からブーツの先が出ていたのだ。

 足先から予測した頭の方を探すと、腐葉土の中に大きな葉が不自然に並べられているのを見つけたのだった。







 雨が降り始め、何かの事情があり腐葉土に潜って露営(ビバーク)しているのだろうか。



 俺は足音を立てずにそっと大きな葉の上に傘を差して葉を退けてみた。







「……えーっと、まずい……よな、これ」


 そっとどかした葉の下には女性の顔があった。

 しかし、生きてはいたがかなり息が浅く荒い。

 顔色も唇も真っ青になっていた。


 その口元には嘔吐したのか吐瀉物の跡もあり、明らかに高熱を出しているようだった。





「お、おい、大丈夫か!」


 ともかくこのままでは死んでしまう。

 俺はその人の頬を叩き声をかけると、意識を取り戻したのかゆっくり目を開けた。


 だが、口をぱくぱくとさせるのだが声になっておらず、何を言っているかわからない。





「いいか、俺は敵じゃ無いし何もしない。そのままだと死ぬから俺のテントへ連れて行ってやる。だから暴れるなよ」


 聞こえているのかどうかわからなかったので必要事項だけを早口で伝えると、微かに頷いたのが見えた。



 俺は女性の体にかかっているであろう腐葉土を手で払っていく。

 そうして掘り出された人はやはり冒険者らしく、胸当てと脛当に小手をつけているようだ。




 そしてその全身はずぶ濡れで髪もブーツも泥にまみれていた。





「…………なるべく触れないようにするけど、緊急時だから許せよ」




 俺はその女の子をお姫様抱っこで持ち上げ、()()の泥も軽く払うとタープを貼った場所まで雨の中を急いで戻ったのだった。




◆◆◆◆◆




「これはしばらく足止めかなぁ……」





 流石に病人を見つけてしまっては放っておくわけには行かないので、仕方なくポップアップテントを出して女の子を入れたのだった。


 中が泥だらけになるが仕方がない。

 人命のほうが大事だし、使い捨てだと思って諦めよう。




 テントの中へと避難して雨が凌げたので、彼女の泥に漬けたような服を脱がすことにする。




「おーい、服着替えさせるけど、尻尾触ってしまっても許してくれよ」




 昔ライネに言われたことを思い出したのでちゃんと伝えておく。




「(コクコク)」


 女の子が微かにうなづいたので、まずは胸当てやらの装備品を外す。

 やたらと主張の激しい胸になるべく触れないよう、シャツを捲りあげ、バンザイさせて脱がしバスタオルで簡単に拭いてから新しいバスタオルを巻いてやる。



 某新品の高級バスタオルだから下手な布団より肌触りは良いはずだ。





 そして次にズボンを脱がすところで気づいた。


「確か尻尾穴あるんだよな」


 俺は仰向けになっている女の子にまたがると、両側から腰に手をいれ尻尾の付け根にあるはずの紐を探す。



 するとズボンと同じ素材の紐がすぐに見つかったので、結び目を解きズボンの前紐も解くと、ショーツと一緒に脱がしてバスタオルで拭いていく。


 尻尾は筆先を拭くようにタオルで押さえながら水気を取り、タオルを巻く。

 そして隣に寝袋を広げて、そこへ寝かせるとチャックをぴったり閉め、更に上から布団を敷いて温めることにした。





「あとは、これを飲んでしばらく寝てるんだ」


 寝袋に包まった状態で女の子の顔だけ横を向かせ、念の為に持ってきていたちょっと高い栄養ドリンクをストローで飲ませる。


「……っ、けほっけほっ」


「ゆっくり飲むといい」


 ちゅーちゅーと細いストローからドリンクを飲み終わるのを見届け、彼女の頭を撫でてから寝袋のフードを枕がわりに寝かせた。

 耳が長いため、寝袋のフードを頭から被せるのはどうかなと思ったのでこうするしかなかった。




 喉元にもタオルを巻きなるべく暖かくして、ペタンとなってしまっている耳の間に手のひらを置いてゆっくり撫でてやるとすぐに眠りについたようだった。



◆◆◆◆◆



 女の子が寝てから3時間ほど。

 そろそろ太陽が天辺になりそうな時間になりやっと雨が止んだようだ。





 俺はタープの雨水を払い、タープ下の腐葉土を退けてキャンプセットを並べ、お昼の用意をすることにした。

 

 その前に、晴れてきたので彼女から脱がせた服を洗うことにする。

 とは言っても水は無いのでペットボトルのミネラルウォータを折りたたみバケツに入れて、そこに脱がした服を突っ込んで泥を落とす。


 吐瀉物やら漏らしたやつやらもミネラルウォーターとボディーソープをブチ込んで何度か洗う。

 洗っても履けないかもしれないが、彼女はどう見ても着替えなど持っていなさそうなので捨てるのは憚られたのだ。




 木の間にロープを貼って、簡単に洗った服を引っ掛けて乾かすのだった。




◆◆◆◆◆



「さて……と。しかしここはどこなんだ」


 一段落した俺は改めて海辺まで向かい、辺りを見回しながら地図アプリも開く。


 しかしやはり周りに人里のようなものは表示されず、地図を色々とスクロールするが何も人工物のようなものは見つからなかった。




「……釣りの用意でもしてくればよかったな」


 雨が止んで移動できるようになったのに移動ができない。かと言ってやることも無いのだ。

 とりあえず持ってきた食料で2人分のお昼の用意をしようとテントへと戻った。





「……あれ?」


 テントの中でゴソゴソと音がしたので、チャックを開けず外から声をかける。


「起きました? 開けて良いですか?」

「……は……ぃ」


 消え入りそうな声だったが入っても良さそうだと判断し、俺は入り口のチャックを開けて中を覗き込んだ。







「…………」


 目を覚ました女の子は、タオルを巻いたままの恰好で土下座をしていたのだった。


次回明日の20時投稿予定です!


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