15:三人同時?
なぜこんな豪華な馬車が車列になっているのだろうか。
宿の外に停めてあったのは見たこともない黒塗りの豪華な馬車だった。
これで乗り付けてきたのかと若干引いていたのだが、馬車へ乗り込むと前後左右を鎧を着込んだ騎兵に囲まれた。
その背後にも兵士が乗っているのだろうが数台の馬車がどこからともなく現れ後ろに続いたのだった。
「あの……ユキネさん?」
「私のことはユキネと。はい、なんでしょうか?」
「この物々しい警備は」
「本来ならこの辺り一帯を外出禁止令を発令する予定でした。お祖母様が」
「お祖母様……過激だね」
「ノユキ様の曾孫に当たる方です。お祖母様はライネ伯爵夫人より毎日ノユキ様のお話を聞いて育ったと伺ったことがございます」
なるほど、この街の領主様のお母さん――つまりユキネの祖母はライネを直接知っているのだ。
「会えるのが楽しみだ――」
やっと、ライネやレイネ、ミカのことを知る人物に会える――そう思うと、ワクワクせずにはいられなかった。
◆◆◆◆◆
「ようこそいらっしゃいました」
街の中心部に見えていた大きな物見塔の根元に領主館はあった。
周りを堀に囲まれた小さな島のようにも見える領主館は、真っ白な石で垣根が作られており、建物も和洋折衷という感じの三階建の建物だった。
正面玄関に止まった馬車から降りると、2人の女性が頭を下げていたのだった。
「私がこの街……ライネブルグの領主、キリネ・ウミノと申します」
「先代領主のアカネ・ウミノです」
彼女たちがユキネの母と祖母。
そう思ったのだが、双子と言われた方が納得できるほど似ている。
正直、街中で片方に出会っても見分けられないかもしれない。
「この度はご足労いただきありがとうございます、初代様」
「お伺いしておりましたお姿通りですわ……ちなみに私は尻尾の先が黒いです」
祖母のアカネさんがニヤリと笑いながら尻尾を見せてくる。
何を考えていたのか読まれていたのか、いつも聞かれる質問なのだろうか。
「えっと、ノユキこと海野雪也です、今日はお時間ありがとうございます」
血縁とはいえこの街の領主で伯爵本人だ。
礼儀は大事だろうと丁寧に頭を下げて、時間をいただいたお礼をする。
「そっ、そのようなことなさらないでください、あっ、だめですっ、頭を上げてください!」
こういう反応もライネに雰囲気が似ているなと思ってしまった。
◆◆◆◆◆
領主館にある大きな部屋。
普段は会議室として使われているらしいのだが、今は関係者以外立ち入り禁止にされ、机は移動させられ中央に座りやすそうなソファーがいくつかと、ローテーブルが置かれていた。
テーブルにはいくつものお茶菓子とコーヒーが出されていた。
「あれ、このソファー……」
「やはりご存じなのですね。そちらは旧領主館で初代様たちが御使いになられていたソファーでございます。この日のために資料館より持ってきました」
俺が引っ越しパーティーの夜に、酔っ払ったミカに押し倒されたソファーだとは言えなかった。
「えっと、それで今日……私からも色々と話を聞きたいですが、先に何かありますでしょうか?」
「いえ、こうしてお会いできただけで……もう、気を抜くと大変なことになりそうです」
「お母様、わかります。ひいお祖母様の……ハルネ様の仰ってた通りですね!」
「あの、お母様、お祖母様……」
「なぁに? 発情期も来ていない娘はちょっとだけ待っていてね」
「はっ、発情――って……お、お母様!?」
大体察してしまった。
ユキネの母キリネさんと、祖母のアカネさんが言っているのは、俺がライネとレイネに妙に好かれることになった『何か』の話だろう。
まず最初アカネさんに家系図を見せてもらった。
確かにその一番上に俺の名前があった。
『ユキナリ・ウミノ ―― ライネ・ウミノ』
よく知った名前が一番上に書かれていた。
そして俺の名前から別のラインが伸びておりその先にも知っている名前があった。
『ユキナリ・ウミノ ―― レイネ・ウミノ』
『ユキナリ・ウミノ ―― ミカ・ウミノ』
「あの、レイネとミカとの間の子供は……?」
「レイネ様とミカ様とのお子様等はこちらの家系図になっております」
子供が増え、スペースが足らなくなったため数十年前に分けたそうだ。
俺はまず目の前に居るユキネさんへのルートを説明してもらった。
ライネが初代とするとその娘の一人が『ハルネ・ウミノ』
そして『三代目:トモネ・ウミノ』さんが俺とライネの孫にあたる女性だ。
その俺の孫の子供、つまりひ孫『四代目:アカネ・ウミノ』で眼の前にいるユキネの祖母で先代領主だ。
で、現在の領主が『五代目:キリネ・ウミノ』、その娘さんの『六代目:ユキネ・ウミノ』と続くそうだ。
こうやって聞くとそんなに離れていない気がする。
まるですぐそこにライネがいるような感覚にもなってくる。
「あの、俺からの……ノユキからの手紙についてなんですが」
あのユキネが昨日あの時間、あの場所に持ってきた俺からの手紙だ。
「あのお手紙は、ノユキ様――つまり貴方様がお隠れの前に『必ずこの日時、時間、あの場所で渡すように』と強く希望されたものでした」
「それから我々直系の子供はあの手紙とお話を語り継いできました」
こちらの世界での暦を俺は知らなかったが、その後、ライネたちに再会し人生を送った俺が俺宛に手紙を綴った意味はなんだろうか。
自分は深い悲しみの中、再び来たこの世界で過ごした。それから偶然ライネに再会することが出来、その攻略法を教えるために手紙を出したのだろうか。
「ノユキ様、実はユキネはノユキ様のお名前から一文字頂いたのです」
「お手紙を渡すようにとされていた歴だと、この子がその重要な役目を担うとわかっておりましたので」
「そうだったんですね」
俺は隣のお誕生日席に座っているユキネさんをちらりと見る。
「私は祖母や母からこの名前の重要性と一族の成り立ちをずっと聞いておりました」
あんなに冷静そうに俺の前に現れたユキネさんだが、内心は心臓がバクバクで今にも気絶しそうだったらしい。
それと、アカネさんいわく、あの日あの建物の周りはびっしり警備隊や守備隊が完全包囲していたそうだ。
全く気づかなかった。
「俺は……何となく手紙では分かったんですが、いつぐらいに戻ってきて、それからはご存知でしょうか?」
「曽祖母……つまりライネ様より聞いたお話ではハルネ様、一人目のお子様を身籠っているときに戻られたと聞きました」
どこのタイミングで俺はライネやレイネ、ミカに再会出来たのかと思っていたが、想定外の速さだった。
つまり先日俺が別れた時から10か月以内には再会出来たということだ。
「良かった、子供が寂しい思いをしていたんじゃないかと心配でした」
「ふふ、そんなことはございませんわ。貴方様が戻られた衝撃と喜びでお三方とも産気づいて、同じ日にお子様が産まれたと伺ってます」
まさか同じ日にライネとレイネ、ミカが俺の子供を生んだとは……色々と衝撃だぞ俺。
少なくとも、三人が俺の子供を妊娠し、生まれる前に俺は再会が出来た。
そのあと幸せな家庭を築いたのだろう。
その情報だけで俺は救われたしこの世界に再びやってきた意味があったのだと思ったのだった。
★★★★☆
☆★★★★
次回明日の20時投稿予定です!
もし気に入っていただけた方は「ブクマ」や下の評価【★★★★★】などよろしくお願いします!




