14:俺からの手紙
「ノユキ様ですね?」
「き……君は……」
突然その呼び名で呼ばれてギョッとするが、俺はなるべく冷静を装い返事をする。
「おにーさん、ノユキって?」
「お嬢ちゃん、ちょっと待っていてね」
どうやら彼女は俺と2人で話がしたいようなので、ミホちゃんに頼んでこの辺りで待っていてもらうことにした。
「話……あるんだろ? 2階の奥の書斎にでもどうだ?」
「2階は一般人立ち入り禁止ですよ。一般人は」
そう言ってクスクスと笑った女性は2階へと伸びる階段を上がり、途中の立ち入り禁止ロープを超えていったのだった。
◆◆◆◆◆
「先ほどは唐突に失礼しました。わたくし、ユキネ・ウミノと申します。お察しの通りかもしれませんが、貴方様の遠い子孫……という奴です」
「ユキネ・ウミノ……?」
何となく想像していた話だがいざ口に出されると脳がついて行かない。
つまり俺とライネもしくはレイネかミカとの子供の子供の……ということだ。
ユキネは耳をぴこぴこ動かし俺の様子を観察しているようだった。
「教えてくれないか? 俺が帰ってからのこと……知ってる範囲でいい」
俺が消えた後、あの3人がどうやって生活をして……その後どうなったのか。
せめて幸せであってほしい。
父親のいない子供というのも、考えるだけで悲しくなる。
「こちらを……手紙です。王暦922年、6月1日、つまり今日、この時間にここへノユキさまが尋ねられるので必ず渡すようにと」
「…………手紙? 何で今日俺が来ると」
『雪也へ』
手紙の裏には漢字で宛名が書かれていた。
「……お、俺の字?」
ユキネに尋ねるが、彼女は無反応。
顔を伏せ、その表情は読めない。
俺は慌てて手紙の封を開けて中の紙を開いた。
『雪也へ。 今日この街に着いたようでまずはおめでとう。そして、悲しかっただろ?』
そんな書き出しで始まっていた俺宛の手紙を読み進める。
『細かいことは言えないが俺はライネとレイネ、ミカと再会できた。
そのあとはこっちの世界で幸せな人生を歩んでいるよ。
子供もたくさんいるし孫もできた。
伯爵なんていう身分にもなっちまったが……ともかくスタンプ帳のコンプを頑張れ。
俺から言えるのはそれだけだ』
なぜか分からないが涙が溢れると言うのはこう言う経験なのかと思い、目を拭い手紙を封筒へと戻した。
手紙の内容を解釈するならば、今日ここにいる俺は今後、あの時代あの場所へと戻る方法を手に入れたのだろう。
そしてその原因は『スタンプ』。
この世界と絆を結ぶ。
いくつ集める必要があるのかは分からない。けれどこの世界での俺の目的がやっと決まった。
「……ユキネさんありがとう」
「どういたしまして? 中身は知りませんがとても幸せそうな顔をされております」
そのあと、ユキネさんは昔話を聞かせてくれた。
俺はライネとの間には6人の子供、レイネとも4人の子供がおり、ミカとの間にも4人の子供がいたそうだ。
それぞれも大家族を作ったりして、この街には結構『俺の子孫たち』がいるそうだ。
「我がウミノ家には代々、危険を予知することができるという不思議な力が宿っております」
その力のおかげでこの街を守り発展させてくることができたそうだ。
ライネと俺の子供が二代目とすると彼女は六代目とのことで、現領主は彼女の母であるキリネ・ウミノ伯爵が務めているらしい。
俺の孫が三代目、曾孫が四代目なので、この街の領主は俺の玄孫にあたるわけだ。
目の前にいるユキネは来孫で、子供すらいた記憶がないのに玄孫や来孫ですと言われても実感はゼロである。
「よろしければ、母もノユキ様に一目お会いしたいと言っておりまして、明日で構いませんので領主館までお越しいただけませんでしょうか?」
「もちろん、ぜひ寄らせてもらいます」
「恐縮です……よろしくお願いいたします」
俺はユキネさんと握手し、書斎から出ると一階のロビーで待っていてくれたミホちゃんと合流し、色々と記念館を見学した。
驚いたのは、俺が最終日前に購入しておいたドレスのレプリカが飾られていたり、指輪のイメージ図が婚約指輪として描かれていたりしたことだ。
俺は街をドラゴンから守る結界を張った結果、一時的にその身を滅ぼしたが、翌年に彼女たちの祈りと愛によって復活したらしいぞ。
その復活の奇跡があったおかげでこの地方では畑で肉や魚が獲れたり、噴水がワインになったそうだ。
その日は街で一番大きな祭り『復活祭』として毎年行われているらしい。
(あかん……宗教じみてる! 誰だこんなデマを広げたのは!)
「おにーさん、この話は学校でも習うんです。素敵ですよね〜私も将来こんな運命の王子様が現れないかなぁ〜」
うっとり顔で話すミホちゃんに聞くと、女の子は皆、この話をロマンチックな恋の話として夢見るそうだ。
「…………ミホちゃんそろそろ帰ろっか」
「あっ、はい!」
少し居心地が悪くなってきた俺は、ミホちゃんの手を引きそそくさと記念館を後にしたのだった。
◆◆◆◆◆
翌日。
まだ朝早い時間に部屋をノックされる音で目を覚ました。
「お客さん……起きなー、あんた何かしたのかい?」
寝ぼけ顔で扉を開けると少し困り顔の女将さんがそう切り出した。
どうやら怒っているわけではなさそうだが。
「下に伯爵様の遣いという方が来られてるよ」
女将さんの言葉で一気に目が覚めた俺は慌てて服を着替え、顔を洗うと一階のフロント横の食堂へ向かった。
「おはようございます」
礼装というのだろうか、ビシッとした詰襟の軍礼装のような服に身を包んだユキネさんが深いお辞儀をした。
「ユキネさん……こんな朝イチに……」
「申し訳ございません。宿の方にも無理を言ってしまいました。どうしてもその……母と祖母を止めることができず」
そのセリフだけで何がどういう理由でこんな時間に突然尋ねてきたのかを理解してしまった。
耳と尻尾がぺたんと力なく垂れ下がっているのを見ると、しょんぼりしたライネにそっくりだった。
俺はユキネさんに用意するのだ少し待ってくれと伝え、部屋に戻ると持ち物をマジックバックへと仕舞う。
再び下へ降り、女将さんに謝罪と遅くなることを伝えておくことにする。
「すいません女将さん、今日は少し遅くなるかもしれません」
「あいよ、気をつけていってらっしゃい」
「おにーさん、領主様のお知り合いなの?」
「あー……知り合いといえば知り合いかなぁ」
「そっ、そうなんだ……すごいっ! あの人も昨日記念館で会ったお姉さんだよね、どうしよう、私何か失礼なことしちゃってないかな」
「あはは、その辺は大丈夫だよ。じゃあ行ってきます」
「はい、おにーさんいってらっしゃい!」
女将さんとミホちゃんへ手を振ると、ユキネさんにお待たせしましたと伝えて宿を後にしたのだった。
次回明日の20時投稿予定です!
もし気に入っていただけた方は「ブクマ」や下の評価【★★★★★】などよろしくお願いします!




