波乱の幕開け
そんな約束をしてはや10日。
マリエナもリリーナもお互いが干渉することはなく、学園生活が平穏に送れていた。
「ユーストス様、お待たせいたしました!行きましょう!」
そんなマリエナの楽しそうな声を耳にする。
どうやら、放課後は彼女とユーストス、ヴェクトルでどこかへ出かけるらしい。
そういえば、エンジンをかけたかのように、あの日の約束からマリエナの動きが
活発になっていると気づいた。
”ものすごい行動力ね…この根性には恐れ入るわ…”
そう思いながら、今日も蔵書室へ向かうリリーナ。
廊下を渡り、そろそろ扉が見えてくるだろう場所に、人がいるのが見えた。
その人はツーブロックのセンターわけの綺麗な金髪を持ち、制服ではなく淡いグリーンのスーツをまとっている。
蔵書室の扉と横の掲示板を見ながら、顎に手を当てて悩んでいる様子だった。
「ここ…うう…ん…」
「どうされましたか?」
悩んでいるのを無視して入室することはあり得なかったので、リリーナは尋ねてみた。
すると、その金髪の青年はリリーナを見て少し表情が緩んだ。
「あ、あの、教務室は…ここ…?」
そう言って、蔵書室を指さした。
「ああ…ここは蔵書室ですね…。
教務室は、この長い廊下をまっすぐ行って、右に曲がってすぐに階段があるので、
そこを2階まで降りてもらって、そこから右に少し行ったところにありますよ。」
と、割と丁寧に今いる場所からの道順を示したつもりだった。
「……まっすぐ…右…」
青年は、指差し確認をしながらリリーナから教えられた道順を復唱している。
「階段…右…よし、わかった。ありがとう、行ってみるよ。」
「はい、お気をつけて。」
そう言い見送ったリリーナ。
だが、次に見た光景が、彼女をものすごく不安にさせたのであった。
「えっとまずは左…あれ…行き止まりだなぁ…?」
「え…!?」
蔵書室の扉を開こうとしたリリーナも思わず大きな声で振り向いた。
金髪の彼は行き止まりを前にして、またもや顎に手を当て壁を見上げている。
”これは…!!”
このままでは彼はこの学園で一生迷ってしまうのでは…と思い
リリーナは彼に声をかけた。
「あの…よろしければ、教務室までご案内いたします。」
「そう?ありがとう!助かるよ。」
彼は柔らかい笑顔をリリーナに向けた。
それは一般的にはカッコいいと思うだろうが、凄まじい方向音痴を見せつけられた
リリーナにとっては、苦笑いで返すのが限界だった。
ほんの数分後、2人は教務室の扉の前にいた。
「本当にありがとう。」
「いえ、お気になさらないでください。…では、失礼致します。」
そう言い、お辞儀をすると彼も軽く手を振り返して、教務室へ入っていった。
リリーナはそれを見て一安心するとともに、再び、蔵書室へと向かった。
”さあ、今日は何を読もうかしら…?”
そう考えながら、軽快に階段を昇っていく。
すると、蔵書室のある階に着いたところで、少し声が聞こえた。
「…けて…!」
「ぁあ…っ!!」
普通の話し声ではない、そう察したリリーナは、駆け出していた。
声の発生源は蔵書室の中。普段締め切っている扉からでも聞こえる声。
それは段々と蔵書室に近づくにつれ、明確に聞こえるようになってきた。
「いや…!」
「だれか…!!」
何かが…起きている。
声と共に時折ガタッ、ガタッと聞こえる室内。
リリーナは、すぐにも突入したい気持ちを少しだけ踏みとどまり、
以前ロニ時代のアシュレイからもらった黒いクリスタルのネックレスに触れ、
集中して心の中で呼びかけた。
”お兄様…学園で何かが起きているの…今から確認しに行こうと思うのですが
ノーと一緒にこちらに来てもらえますか…?”
そうしたすぐ後に、クリスタルが光り、そこから粒の光が吹き出たかと思うと
それが猫の形となり、やがて黒猫アシュレイと、白猫ノーが現れた。
”おまたせ。”
”きたよ。”
「2人とも、ありがとうございます。では早速…」
そう言い、扉を開けようとした瞬間。
向こう側からの衝撃で、勢いよく扉が開いた。
バタンッ!!
ドカッ!!
それと同時に扉から飛び出し、壁に勢いよく打ち付けられたのは
いつも顔を合わせている司書。
衝撃で気を失ってしまったが、特に目立った外傷はない。
”リリ、治癒!”
アシュレイが的確に指示をする。
「は…はい!」
動揺していたリリーナはそれにハッとさせられ、すかさずその司書に治癒魔法をかけた。
険しい表情だった司書だが、魔法のおかげで顔が穏やかになっていく。
それに安心したのも束の間、今度は本丸、室内だ。
先に室内に入り、様子を伺っていたノーが、顔を覗かせて言う。
”ひどい怪我の人はいないけど、みんな気を失っているみたい。
肝心の騒動の主は…気配はあるけどまだ見つけられてない…”
それを聞き、黒猫アシュレイとリリーナも警戒しながら室内へと入った。




