表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/142

奇妙なランチタイム

コト…



「…」



「…」



リリーナのカルボナーラは…クリームが固くなってきた。

マリエナのサンドイッチは…特に変わらない。

コップの音だけが聞こえる2人のランチタイム。



ぐうぅ…



リリーナのお腹が悲鳴をあげている。

マリエナとのランチは、沈黙で始まり、お互いにまだなにも話せないでいる。

その妙な緊張のせいで、ランチに手をつけることもできず、かれこれ10分は経過した。



「…ぁ」


「取引しましょう。」



まずは食べましょうと声がけしようとしたのと同時に、マリエナが口を開いた。

その意外な内容に、リリーナは驚いた。



「え?」



不思議そうな顔をするリリーナに対して、いつもと違いやや真剣な面持ちで

まっすぐ彼女を見て言うマリエナ。



「リリーナ様は、私が別の世界の記憶を持っていること、

そしてこの世界の物語のことを知っているとご存知ですよね?

私の目的も…。

ですから、お互いの必要とする条件を言い合いましょう。」



「疑いを持っていただけだけど、やっぱりそうなのね…

わかりました。…で、マリエナさんの条件は…?」



「そうですね、溺愛ルートの実現です。

リリーナ様、先日から私の魅了を何度も吹き飛ばしていますよね?

今朝なんて2度も…!

ああやって邪魔をするのをやめていただけると助かるのですが。」



「あぁ…ごめんなさいね、ちょっと実験を…いえ、えっと…

やはり溺愛ルート…ですか。

それは、ご勝手にと言いたいところですが、

他人の感情のことは考えないんですか?

魅了で無理矢理自分に矢印を向けることの罪悪感などは…?」



マリエナはそれを聞いて、少しクスッと笑っていった。



「ふふ…おかしい。罪悪感?

むしろ私を愛することができるのが彼らの幸せだと思うのですよ。

物語では、最終的にはみんな私に感謝をするんですもの。」



「感謝…ですか…」



「そうです。そのためにはまず魅了をかけ続けて、好感度を上げたいのです。

その後はもうかけないつもりですから、一生魔法漬けという訳ではないので

少しはご安心いただけたら嬉しいです。」



「…うーん…では、魅了を経てでも、

マリエナさんに感情が向かない人にはどうするつもりですか?」



「それはこちらに向くまで徹底的に…とも思いましたが、

もうそれ以上は追わないことにしますわ。」



「なるほど…」



リリーナは大体理解してきたが、一つ大事なことを言わなければいけなかった。

それを緊張しながら伝え始めた。



「ただし、銀灰の悪魔さんに関しては、対象から外してもらえないでしょうか?」



「銀灰様を…!?」



マリエナが急に目を見開いて、リリーナの方に顔を近づけて言う。

先日、演習時に彼が現れた時、リリーナが部屋に戻った時の行動を見るに

彼に思い入れがあるらしい。


だが、銀灰の悪魔の正体は兄、アシュレイだ。

彼にたくさんの幸せを届けたいと思っているリリーナにとっては

絶対に対象には入れたくない。



「なぜ…ですの?リリーナ様は銀灰様に連れられてどこかへ行ってしまった。

その時に何かあったのですか?」



「そう…ですね。彼には…もう姿を消すから、探さないで欲しいと言われました。」



嘘ではない。銀灰の悪魔はもういない。



「…そうなのですか…。せっかく特殊ルートが出たと思ったのに…」



マリエナはうつむき、何やらぼそぼそ言っていた。

そうやって自分の気持ちをまとめていたのだろう、

少しの間をあけてから納得の表情で顔を上げた。



「…わかりました。」



その返事にリリーナは胸を撫で下ろした。

ひとまず、アシュレイには害はない。

それから、マリエナに好意を持たなかった者も深追いはしない。

ヴェクトルに関しては魅了が効かないので、感情持っていかれることはない。



”あれ…なんでヴェクトル様…?”



不意に頭をよぎった彼のことを不思議に思った。







「それで、リリーナ様の条件はなんでしょう?」



今度はリリーナのバトンとなった。

彼女の望むことは一つ。



「私はただ、平穏に学園生活を送りたい。

将来のために高度な教育を受けたいだけなんです。」



「え…それだけ…?」



「それだけ…と言われたらそうですね。

私はそうしたいのですが、最近は周囲で起こる色々なことに巻き込まれるというか…

ですから、マリエナさんの溺愛の邪魔なんてしてないので、

もう私を加害者扱いしたりするのはやめてほしいです。」



「…まあ確かに…物語には出てこないし…っと、ああ。

はい、それは私ももう条件成立のために、わざわざ絡みに行くこともないので

学園生活を妨げたりしませんわ。」



「では、条件成立ですわね。」



「そうですね。」



ここでようやく、お互い、テーブルに前のめりになりながら話していた体勢を戻し、

ふぅっと、一息つく。



「食べましょうか。」



「ですね…」



リリーナは、すでに空腹すぎてキリキリと痛み出してきたお腹を満たすため

固くなったカルボナーラの大きな一巻きを口に入れる。

マリエナは小さい一口を繰り返し、サンドイッチを食べ進める。



「…たまにブワッと魅了を吹き飛ばすの、やめていただけると嬉しいです。」



「ああ…そうですね。もうコントロールできるようになったので、大丈夫だと思います。

ただ、魅了で周りや本人に迷惑をかけそうな事があったら、即座に取り消させてもらいますよ?」



「…わかりました…」



マリエナは少し怪訝そうな顔をしたものの、いつもの外向けの顔に戻り

今度はハニーティーを一口飲んだ。

それを見ながら、リリーナは思った。



”魅了なんかかけなくても、素の自分で勝負することも叶いそうなのに…

彼女の事はあまり知らないけど…。

ただ演習の時は、私と一緒に魔獣を倒したことにしてくれて単位を落とさずに済んだし…。

不思議な人…”



一方マリエナの方も

頬を膨らませながらカルボナーラを食べるリリーナを見て思っていた。



”何だか拍子抜け…恋愛の邪魔をしていたとずっと思っていたのに

本人はこんなだもの…何かを引き寄せる体質なのかしら…不思議な人…”



そんなぎこちないランチタイムを経て

ここに奇妙な約束ごとが締結したのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ