週末はあそこにおでかけ
いろいろあったものの、ようやく迎えた週末。
「お兄様、ノー、ほら起きて!準備しますよ!」
朝早くからリリーナがアシュレイとノーを起こす。
相変わらず、朝の姿は人間のアシュレイだ。
「ひゃっ…!ちょっ…お兄様…!服…!」
と、掛けふとんをめくったアシュレイの姿を見て、
瞬時に目を逸らしたリリーナ。
それもそうだ。肌触りの良い柔らかい生地でできた、膝ほどまでの長シャツに
これまたゆったりとしたズボンの姿なのだが、シャツのボタンは上から4つは
開け放たれており、胸元が大きく開いていたからだ。
「んー?だって、上の方までボタンをとめると苦しいだろ…
ほら、それよりここ…おいで。」
と言って、横を向いて寝ている自分の隣を指差し、リリーナを促す。
「お兄様…ですから、そこは子供の頃の感覚のままなんです…。
私はもう大きいですから、そこには行きませんよ…!」
「んー、じゃあこれならいいか…?」
そう言い、すかさず黒いモヤに包まれるとあっという間に黒猫姿になる。
「ほら!」
「ずるい…お兄様、この技は反則です…!」
「はは、絆されたか!来い。」
「い、いきません!さ、早く着替えて準備してくださいよ!」
そう言って、リリーナは少し照れた顔で、黒猫姿のアシュレイの頭を
わしゃっと撫でてノーを起こしに行った。
残されたアシュレイは、一瞬不貞腐れたような顔をしたが、
すぐにニヤリと口元を上げ、指スナップ一つ鳴らし、人間姿で着替えた姿となった。
「ふむ、立派なレディになって…。」
そう、ぼそっと呟くと、本棚から読みかけの冒険小説を取り出し、
ベッドに仰向けになり読み始めた。
一方、ノーの方は二股しっぽの白猫姿で、ペット用ベッドですやすやと眠っていた。
こちらについては、元が魔力そのものなのでどんな姿でも維持は問題なかった。
「ノーも起きてくださいね…。」
そう言い、リリーナはノーの頭を優しく撫でる。
「うー…ん…。今日はお休み…だよね…?」
リリーナの手で起こされたばかりのノーは寝ぼけまなこで
彼女に尋ねた。
「そうです、おでかけですよ。とっても楽しい、おでかけですっ!」
リリーナがとても楽しそうに言うので、それを見たノーはどんどん眠気も飛んでいき
つられて楽しそうにした。
「それで今日は朝からどこにいくのだ?」
アシュレイは冒険小説から目線を外し、本から覗く形でリリーナに尋ねた。
「やだ!言いましたよ?
私の親友がやっているカフェに行くのです。」
せっかく着替えた姿になったものの、寮を出る際は猫の姿になっていないとまずいので
アシュレイには申し訳ないが、早々に変化してもらった。
寮を出発し、学園を通り過ぎ、繁華街の中心地にたどり着く。
少し歩けば、お店が立ち並ぶところに行けるとは、学園の立地には驚かされる。
さすが王都、さすが王立の学園である。
ここまでくればアシュレイもノーも人間の姿になれる。
目立たないように、街の路地で素早く変化すると、次は馬車乗り場へと向かう。
ここからは定期馬車を使って、隣の都市…もとい隣の国へ向かうのだ。
馬車は乗合で、たくさんの荷物を持つ帰省らしき人や、
おしゃれをして恐らくこれからデートだろう、という人などが乗車していた。
アシュレイとノーでリリーナを挟む形で乗り込み、席が埋まったところで出発となった。
ここからは時間にして2時間。ゆっくり体を揺られる旅が始まる。
時間だけ聞くと長いと思っていたが、実際は、ノーがガラスのない窓から体を乗り出すのを抑えたり、アシュレイの長い足が行き場を失い、結局はリリーナを包む形で足を組むことになったり…
挙げ句の果てには、他のお客さんの目線がリリーナに集まっていると言い、
ノーとアシュレイで彼女をサイドから包むような形となって、会話を交わすなど
リリーナにとっては、全く気が休まる時間がなく、あっという間に到着した。
リリーナは2人に馬車の乗り方とは、を説きながら馬車を降りた。
改めて街を見回すと、王都と比べるととても落ち着いたイメージはあるものの、
人々は絶えず往来しており、生活必需品を問題なく手に入れる環境もあり、
活気のある街だと感じた。
「え…っと。」
あらかじめ調べておいた地図の場所と自分の位置を照らし合わせて
慎重に進んでいく。
地図をクルクル回しながら、しばらく行くと、
円筒形に青い三角屋根の可愛らしい建物が見えてきた。
「あった!あそこだ…!」
それを見つけるや否や、はやる気持ちが抑えられず、小走りになるリリーナ。
ノーとアシュレイはそれに合わせてついていく。
彼らにとっては、歩幅が広くなった程度ではあったが。
そうして、その建物の前に辿り着き、リリーナは扉の上に掲げてある看板を見た。
『メリーナ喫茶店』
リリーナの口元がこれ以上ないニンマリになり、目がキラキラし始めた。
それをノーもアシュレイも微笑ましく見つめ、2人同時に軽くリリーナの背中をポンっと押した。
一歩押し出される形となったリリーナは、うん、うなずくとドアに手をかけ勢いよく開けた。
カラン カラ カラン…
「いらっしゃいませ……ぇえーー!!??」
出迎えた店員さんは間違いなく見覚えのある姿。
長いウェーブがかったパールゴールドの髪を一つにまとめ、襟元と袖口にレースがついた
動きやすいドレスをまとい、可愛らしいエプロンをつけた姿の彼女。
「来ちゃいました、メリンダ様。」
「リリーナ…!」
そう言って、テーブルを拭いていた手を止めると、リリーナに走り寄り手を取った。
メリンダは少し潤んだ瞳で彼女を見つめて言う。
「あなた…まだ早いわ…!この間さようならしたばかりじゃないの。」
「やっぱり…でも私、お会いしたくて…」
「ううん、いいの、嬉しいわ…!」
2人ともつなぐ手に力が入り、再会を喜んだ。




