マリエナのためらい
「ただいま。」
「お!帰ってきたな?」
「遅かったね?」
魔力を使うことはほとんどなかったというのに、
放課後だけでいろいろな事があったリリーナはかなり疲れていた。
部屋に入ってすぐに休む…ともいかず、
出迎えた興味津々の2人にこれから報告会だ。
「帰って早々、その興味津々の目で見られると辛いです…
少し着替えたり準備をする時間をください…」
そう言うと、それぞれアシュレイはベッドの上で、ノーは椅子で、
前のめりになっていた姿勢を少し戻した。
「すまない…遅かったから心配していたと言うのもある。」
「だね、私たちの出番が来るような事態にならなくてよかったよ。」
「はい…。ありがとうございます。ちょっと待っててくださいね。」
リリーナは早めに準備をしながら、話す内容を考えていた。
”全ては話さなくてもいいわね…誤解が解けた、ヴェクトル様は魅了にかかっていない。
そして、マリエナさんには想いを寄せてなかった…”
整理した後、みんなにお茶を淹れて改めて席を設けてから、
順を追って説明した。
意外だったのは、
ヴェクトルがマリエナに想いを寄せてなかった話題を出した時のこと。
「そりゃ見ればわかる。そのあたりリリはなぁ…。ぼそぼそ…」
とアシュレイに即時に切り返された。
「え…?」
「だからといって、あのメガネくんに行動されるのはなぁ…ぼそぼそ」
「しばらくは私たちのリリーナでいて欲しいからね。」
アシュレイとノーは2人だけがわかるような、会話をしているように見えた。
リリーナは内容も理解できず、2人のやりとりを目で追っていた。
「ん…?」
*
同じ夜 別室。
ここはマリエナの部屋。
彼女は、備え付けのベッドの上で毛布を被り座っていた。
小刻みに震えながら、例の分厚いノートをペラペラとめくっている。
学園の様子と大きく違い、口角が下がり悲壮な表情を浮かべている。
「ああ、もう…ぐちゃぐちゃ…!」
そう言い、前髪をかきあげて掴む。
まるで取り憑かれたかのような瞳でノートを見つめてつぶやいている。
「ユーストス…、それからヴェクトル。
セラドにレオンも断罪明けには周りにいるはずなのに、全然違う…!
それと、銀灰の悪魔の隠れ家に連れて行かれるというイベントも…リリーナが…
なんで!?なんで上手くいかないの!?」
思い通りに行かず、思わずノートを持つ手に力が入り
端が少しくしゃっとなる。
「ああ、いけない…!」
我に返ったように、ノートのシワを伸ばすマリエナ。
そして、少しシワの残ったノートを両手で持ち上げ、
人物名が書かれたページをまじまじと見つめた。
「はぁ…もう…溺愛ルートじゃなくて…いいかな…
全てが物語通りなんて無理…。
思い通りにならないことだってあるわ。」
”そんなことはない。お前が魅了さえかけ続ければすべて叶うのだ。”
マリエナは会話を始めた。肉眼で見ると独り言を言っているように見えるが
彼女自身の中で会話は繰り広げられていた。
「無理よ!だってリリーナに一瞬で吹き飛ばされるもの!
もう偽りの自分を演じるのも疲れたし、複数の愛もいらない…
私はあの方とだけ相愛になれたら十分…」
”ダメだ!お前が小さい頃に記憶が戻ってから、ずっと願ってきたことではないか!?
もう諦めるのか。溺愛ルートを!!?”
「違うの…、私が本当に望んでいたのは、溺愛ルートじゃないって気づいたの。
無理に全員と愛し合わなくてもいい、そして、他人を傷つけなくてもいい…!
私は、1人を愛したい…。」
”魅了も私の魔力もなしに、誰に愛されると思う…?
お前の価値は、金の魔力量と魅了によって得られる賞賛だけだ。”
「そんなことない…と思う。私の素を受け入れてくれる人だっている。
あぁ、そうだ、リリーナに打ち明けてみよう…!
もう私が異世界出身って気づいてるし、本当のことを言っても…!」
“甘えるな。今更、死に追いやろうとした彼女にそんなことを言って、
協力でも得られると思うのか?"
その声に、マリエナがハッとした表情になる。
”また、あの世界の時のように、蔑まれ、疎まれ
ひとりになって、それから…”
「いやっ!!!…そ…それだけは…いや…」
途端に、何かを恐れるような恐怖を帯びた顔で
かぶっている毛布を掴み、更にぎゅうっと自分を包むと
うつむいて震え始めた。
「私は…あの時みたいには…なりたくない…」
”だろう。だから頭を使うんだよ。
頭を使えば上手く彼女を排除して、溺愛ルートを確立できる。
なぜか彼女は魔力量が格段に上がっている。
何もそれに面と向かって対抗しなくてもいいんだ。”
「頭…を…」
”そうだ。まずは… …”
「う…ん…」
独り言のような会話を続けるうちに、マリエナの表情もだんだんと
落ち着きを取り戻していった。
だがそれは、よからぬ事件の幕開けとなった。




