スッキリ×モヤモヤ
「やっと笑顔が戻ってきたね。」
「突っ込まないでください…。」
すかさず突いてくるヴェクトルに、リリーナは照れた様子でうつむく。
そんなリリーナの頭に、重みを感じたのはそのすぐ後のこと。
「…失礼するよ。」
そう言われ、顔を上げると、頭の重みがヴェクトルの手だと気づいた。
それとほぼ同時に、ぽんぽんっと、その手が頭をなでる。
「…!?」
「…」
彼の手は止まらず、でも静かに、今度は左右のなでなでに変わっていた。
「ヴ…ヴェクトル様…?」
しばらく沈黙のまま撫でられる状態が続いた後、ヴェクトルの手の重みが無くなった感覚があった。
「ありがとう…。」
優しくお礼を言い、その手が引かれていった。
リリーナは彼を見上げると、穏やかに笑みを浮かべた表情で、
メガネの奥に見えるえんじ色の目も心なしかクリアになっているように感じた。
リリーナは撫でられた側ではあったが、何だか、
彼を少し元気にさせられたようで嬉しかった。
「こちらこそ、おかげさまで私も落ち着けました…」
「では、行こうか。そろそろ寮の門限を気にしなければいけない時間だ。」
「もうそんな時間なのですね…はい。」
そう言うと、2人はベンチから立ち上がり、寮への道を歩き始めた。
リリーナは無我夢中で走り、たどり着いたこの場所からどう帰るのか、
見当がついていなかったため、正直言うとヴェクトルがいてくれて助かった。
しばらく無言は続いたが、ヴェクトルはリリーナの歩幅に合わせるように、
ゆっくりと歩いてくれていた。
「そうだ…お菓子ありがとう。不思議な食感で美味しかったよ。
学園祭では準備に追われてほとんどお店を見れてなかったから
とても嬉しかった…」
「…お菓子… …!!」
リリーナはそれが、断罪の時に彼に投げつけた琥珀糖のことだと気づいた。
言われた言葉のショック状態ということもあったが、投げつけるなど、
なんとも失礼な渡し方をしたことを思い出し、猛省した。
「申し訳ありません…ちゃんとお渡しできなくて…」
「いや、いいんだ。君が私のやっていることをほめてくれた気がして
とても嬉しかったよ。ありがとう。」
ヴェクトルの目が細くなり口元がニコリとした。
その笑顔がまともにみていられなくて、リリーナはすぐに目を逸らしてしまったが
自分がしたことを喜んでもらえたことに、気持ちはほっこりしていた。
「あれは琥珀糖といって、きっとこれから流行するお菓子だと思います。」
「琥珀糖…なるほど。覚えておくよ。」
そこから他愛のない話をいくつか重ねながら進み
そろそろ寮の門が目視できるところとなった頃、ヴェクトルが切り出した。
「そういえば、君はマリエナ嬢に何かと目の敵にされているだろう…何かしたのか?」
「…いえ、何もしていないのですが、何か私はよく思われていないようですね…。」
「ふむ…そうか。」
さすがに、溺愛ルートを狙っているから自分が邪魔、もっというと命の危険にさらされた
ことなどは絶対に明かせない。
ここはざっくりと言ってはぐらかすしかなかった。
「か、彼女にも色々事情があるように感じるので、今度お話ししてみようと思っています。」
「なるほど…な。」
ヴェクトルは手を顎に持っていき、斜め上を見て少し考えると
目線をリリーナに戻して言った。
「私は魅了にもうかからない。
少しでも何かあったら…いや何もなくとも、私を頼ってくれていい。」
「あ…はい…。ありがとうございます。」
急な申し出に少し混乱したが、ちょっとだけ本音を話せる仲間ができたと思えて
リリーナは心が緩んだ感じがした。
「何にせよ、君には特別な興味があるから、いつでも懇意にしてくれると嬉しいよ。」
とさらに付け加えると、彼は意味深な笑みを浮かべていた。
”私への興味…? 特別…? ど…どういうこと!?”
心が緩んだばかりというのに、今度は頭の中をハテナが踊り始めた。
ぐるぐる回るそれを整理するために、リリーナはしばらく寮の前で
ヴェクトルの背中を見送っていた。
”あ!学友としてってことですね!?
お勉強や魔法技術のライバルとして…って…
はて、ヴェクトル様の方が全て私に勝るのでは…??ん…?”
ヴェクトルのことで、解決したかったモヤモヤはスッキリしたのに
また別のモヤモヤが生まれたのだった。




