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誤・解・決

「あ…しまった…

今、私は大変なことを言ってしまった。

魅了がかかっていないなんて…このことは黙っていてくれないか。」



ヴェクトルは口元に手を当てて、顔が一瞬青ざめた。

どうやら、うっかり口がすべったようだ。

いつも完璧クールなイメージからすると、少し意外だとリリーナは思った。

そのお返しではないが、リリーナも魅了のことを告げる。



「大丈夫です。私も初めから魅了はかかっていません。」



「やっぱり…そうなのか。リリーナ嬢は私の記憶操作の魔法にもかからないし

状態変化の耐性が高いのか…。」



「あの、私の方こそ申し訳ありません。

せっかくお話が盛り上がっているのに邪魔してしまって。

少し確認したいことがあって、それでぐるぐる頭がまわっていて…

でも話せなかったことできっと感情が昂ってしまったんだと思います。

ご迷惑を… あ…迷…惑…」



「いや、気にすることは何もない。」



そう話すヴェクトルを見ながら魅了にかかっていなかった事を知ったリリーナは

どうしても確認したいことがあった。

回答が怖い気持ちもあるが、改めて彼の顔を見て、尋ねてみる。



「そう言えば、その魅了にかからなくなったのは…いつから…ですか…?」



「はっきりとは思い出せないが、ホリデー明けくらいからかな。

だんだんと周囲、特にユーストスの惹かれ方がおかしいと思い始めて。」



それを聞いてリリーナは心臓が大きく跳ねるのを感じた。



”…と言うことは、私の断罪時は魅了がかかっていなかった。”



『迷惑だと思っている。』



あの言葉は、魅了されていない彼の口から出た本心だったと確信してしまった。

自分は”マリエナへの想いを邪魔する者”。

リリーナはまた地面へと目線を落とすと、どこにも吐き出せない悲しみが、

ぎゅうっと心にたまるのを感じた。



「そ、そうなんですね。じゃあ演じるのも大変でしたね。

私の断罪の時なんて…

あ…!えっと…えーっとですね…」



リリーナへの断罪は、アローに憑依したアシュレイがあの会場全員の記憶を消したので、

なかったことになっている。

リリーナはそのことを考えすぎて、つい口をついて出てしまった言葉を、濁した。

次の話題に変えようとしていた矢先…



「知っているよ。」



「…?」



「私は、打ち上げパーティーの…君への断罪の事も覚えている…」



「え…?」



思わずヴェクトルに振り返り、困惑の表情を浮かべるリリーナ。

ヴェクトルはリリーナの顔をみて話し始めた。



「あの時のアローはいつもと違う雰囲気だったけれど、きっと…

別の誰かの意識が入っていたよね?

その人が、最後にかけた記憶を操作する魔法だけれども、私にあれは効かなかったんだよ。」



「効か…ない?」



「我がハイマン家の家業をもう忘れたか…?

記憶操作を生業とする家系の者が、同じものにはかからないよ。」



「…!…そう、でした…。」



『迷惑だと思っている…!』


再びあの言葉がリリーナの頭の中を巡った。

彼女は苦しく感じながらも、話を続けた。



「じゃあ…やっぱりそうでしたね…私は迷惑な…」



「待って…違う。ここから…聞いてくれ…!」



ヴェクトルはすかさず、ハンカチをぐっと握るリリーナの手に

そっと自分の手を乗せた。



「あの断罪の時は魅了にかかったふりとは言え、君にあんなひどいことを言ってしまった。

私は…君の心を大きく傷つけてしまった。

それが本当に申し訳なくて…ずっと謝ろうと思っていた。

迷惑など微塵も思っていない…これだけはわかってほしい。

すまない…」



そう言うと、リリーナの手に乗せられている彼の手が、キュッと軽く締まった。

その手を見つめるリリーナの目は驚いていた。

自分の出した結果と逆のことを言われたからだ。



「…ヴェクトル様はお優しいですから、気遣って言ってくださっているのですね。

あの言葉の通りです。確かにマリエナさんとヴェクトル様にとっては、

私は”迷惑”な存在です。

これは…私ではなく、マリエナさんにしてあげてくださいね…。」



そう言って、ヴェクトルの手からスッと自分の手を抜き取った。



「マリエナ嬢に……?」



「…そうです。

私はヴェクトルさまがマリエナさんのことを大切に思う気持ちを邪魔しません。」



彼は残された自分の手を見つめて、その目線を夜空に持っていくと、

すぅーっと大きく深呼吸をした。



「リリーナ…嬢。さっきから少しおかしいと思っていたんだ…

君はとてつもなく勘違いをしているようだが、

私はマリエナ嬢を大切な人だとは思っていないし

今後も想いを寄せるつもりもない…。」



「…え…」



「むしろ私は…… … …っ!!」



「!?」



突然顔を片手で覆い、下を向くヴェクトルにリリーナは驚いた。

こんな大きな動きは、普段の冷静な彼からは想像もつかなかったからだ。

しばらく、動きを止めてじっとしていたが、すぐに顔を上げ

少し脱力した様子で彼は話した。



「はぁ…… …すまない。

私も言いたいことが色々と混ざって頭が混乱しているようだ。

とにかく、私は、マリエナ嬢をそういう目では見ていない。

もしそう写ってしまったのなら申し訳ないが、君の勘違いだ。」



「…え…と、ヴェクトル様はマリエナさんに想いを寄せていて、

私が何かとマリエナさんと絡むので、邪魔な人って嫌われていると思っていたのですが…」



「そんなことは…絶対にない…!!」



真剣な眼差しをぶつけてくるヴェクトルに、嘘はないと思った。

それと同時に自分のかなりひどい勘違いがとても恥ずかしくなり、

顔を真っ赤にして、顔を両手で覆った。



「あの。わ…私、大きく勘違いをしていたようですね…

本当に申し訳ありません…なんだか…私が勝手に色々と妄想してしまって…

すごく失礼でした…」



「いや、私の方も君のここ数日の表情が曇っている原因がわかって良かった。」



「気にさせてしまって申し訳ありません…そんなどんよりでした…?

でも何だかごめんなさい…今…とてもスッキリしています。」



「ははっ!…やっぱりこれが君らしくていいな。

どうやら君の中の、わだかまっていたことは解決したようだね?」



「はい…」



ヴェクトルの口元が緩んだのを見て、リリーナもつられて笑顔になった。

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