今度こそ彼と…
空は深い藍色になり、月が顔を出していた。
無我夢中に走り、辿り着いたのは
小さいながらも、手入れが行き届いた花壇のある公園。
花壇とベンチのみしかないが、昼の景色は素晴らしいものだと予想がつく。
小さな街灯がベンチの側で灯り、そこに座るリリーナの小さい影を地面に落としている。
彼女は、ベンチで肩を大きく揺らして泣いていた。
1人である開放感もあり、色々なものを吐き出すように、大いに泣いた。
しばらく盛大に涙を流した後、心も落ち着いてきたようで
少しだけ考えられる余裕ができてきた。
腫れた目が熱を持っていたので、濡らしたハンカチに半冷凍の魔法をかけて
目を冷やしていた。
”いいの…ヴェクトル様にとってはあれが最良…
私との約束なんて…いつだってできるもの。”
考えるとまた泣いてしまいそうになるので
もう、そう思い込んで決着をつけようとした。
「私は…誰かの壁になるために学園に入ったんじゃないのにな…なんでだろう…
マリエナさんにもヴェクトル様にも…迷惑が…
…ああ、元を辿れば私が魔力暴走したことでお兄様が…ノーにも…
結局は…私が原因なのね…。そう…。
私が…いなくなれば……」
「はぁっ…はぁっ…やめてくれ…」
「え…」
リリーナは突然の背後からの声に驚いたが、
顔を合わせるのがつらくて、そちらの方には振り返らず、下を向いていた。
「はぁっ…頼むから…いなくなるとか…はぁっ…はぁっ…、言わないでくれ…」
「ヴェクトル様…」
全速力で走ってきたのだろう、彼は息も絶え絶えになりながら言葉を発した。
「ごめん…約束を忘れたわけではないんだ…はぁ…その…
マリエナ嬢に合わせないといけなくて…」
必死に説明をしてくれる彼の誠実さに、応えたかったが
リリーナは俯いたまま、憂いを帯びた微かな笑みを浮かべて言った。
「いいんですよ、ヴェクトル様。私などお気遣いなさらないでください。
そこまで優しくしてくれなくていいです。私はただの疎ましい同級生です。
私のことは気にせず、どうかマリエナさんの元にお戻りください。」
「疎まし…い?」
「私はマリエナさんに害をなそうとは、一つも思っていません。
想いを伝えるお邪魔をしませんので、どうか放っておいてください…。」
「想い…?君は何を言って…」
「色々とお話ししたかったですが…申し訳ありません。
今日は私の方がもう限界です……」
そう話しながら、リリーナはベンチを立った。
収まったはずの涙は、再びリリーナの目をいっぱいにし、溢れそうになりながらも、
精一杯の笑顔を彼に向けた。
「失礼…します…!」
「…!」
そのまま走り去ろうとしたリリーナだったが、瞬時に腕を掴まれてしまった。
彼の胸に飛び込みそうな勢いで引き寄せられると、くるっと半回転する形となり
体ごと彼の方を向いたため、目がばっちりと合った。
ヴェクトルは滝のように汗を流していて、まだ息が整いきれてない様子だった。
彼はもう片方の手でリリーナの肩にふれ、強い眼差しでリリーナを見つめて言った。
「だめだ…行かせない!…今捕まえておかないと私は2度と君と向き合えない気がする。
だから絶対に…離さない。
勝手だと思っているだろう…でも…!
今日私が言いたかったこと…それを聞いて欲しい。
それから、君が話したかったことも…聞かせて欲しい。」
思いがけずの懇願に、承諾一択しかなかった。
リリーナは、小さくこくりとうなずいた。
それと同時に、彼女の目からは我慢しきれなかった涙が流れた。
*
漆黒の夜空の下、一際目立つようになった小さな街灯が、今度は
ぽこぽこと並んだ小さい影と大きい影を地面に落とす。
2人はベンチに座っていた。
リリーナは、すんっすんっとまだ鼻は鳴っていたが、だいぶ落ち着いていた。
あの後、泣き出したリリーナをベンチに座らせ、背中をさすり続けていたヴェクトル。
何も言わずに優しく、ゆっくりと。
リリーナが落ち着きを取り戻し始めたところで、すぅっと離れていった手は
指を絡めて自身の体の前へ投げ出されていた。
その親指はしきりに動いてはいたが、目線を地面に落として、
静かにリリーナを待ってくれている様子だった。
そういえば、滝のように流れていた汗も、すっかり引いていた。
「ごめんなさい…」
ようやくリリーナの口から出てきた言葉は、ヴェクトルに対しての謝罪だった。
彼はすかさず首を横に振り、
「君が謝ることは何もない。むしろ私だ。すまない…
私は…君を泣かせてばっかりだ…。」
悲しげな目線を地面に落としたまま、ヴェクトルは言った。
「…話をしてもいいかい?」
「…はい。」
リリーナも彼と目線は合わせないものの、ハンカチを持ったまま前方を見つめて
聞く姿勢となっていた。
ヴェクトルは、リリーナの返事に対して軽くうなずき、話をし始めた。
「うん…。まず、今日待ち合わせに間に合わなかった理由を言わせてくれ。
…マリエナ嬢を騙すためだった…。」
「…え…。」
「彼女が皆に魅了をかけているのを知っている…そして私はそれにはかかっていない。
だが、それを彼女に知られると都合が悪いため私は、魅了にかけられたふりをしているんだ。」
「ふり…?」
「そう。君との約束のために抜け出そうとは何度もしたんだ。
だけど、今日は彼女がなかなか帰ろうとしなかった。話をやめて私がスッと帰ってしまうと、
魅了にかかっていないことがわかってしまう。
そう言った訳で…タイミングが掴めなくて…本当にすまなかった。」
「そう…だったのですね…魅了に…
だからモヤがかかっていなかった…」
「モヤ…?
君は私が魅了にかかっていないことを知っていたのかい?」
「…はい。」
リリーナはヴェクトルに薄ピンクのモヤの件を話した。
それに彼は驚くと同時に、納得の表情を浮かべた。
その表情変化の意味はその時のリリーナにはわからなかった。




