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ヴェクトルとの約束

翌日。

新しく購入したベッドをそれぞれが使い、昨日と比べると、平穏な朝となった。


しかし、リリーナの方は今日も違った理由で寝不足だった。

放課後にヴェクトルと話す機会がある。

それを考えると、何をどう話そうかと色々と思ってしまい、昨晩はなかなか寝付けなかった。

結局空が白む頃に、意識が飛ぶように眠りに落ちて、夢も見ないまま起床の時間となった。



「ふぁぁ〜〜っ…」



朝食を済ませ、いつものように朝の支度をしているときに

昨日に続いて大きなあくびをするリリーナを見て、

アシュレイは心配そうに顔を覗き込んだ。



「リリ…どうした?昨晩は俺もノーも大人しく寝ていたぞ…?

例の…マリエナ嬢のことか…?」



「いえ、そちらもそうなんですが、もう一つ解決しないといけない事があって…」



そう、少し言葉を濁して伝えるリリーナにアシュレイはピンときたようで、

厳しい表情へと変わると、彼女の肩に優しく手を置いた。



「あの…メガネくんだな。

…あいつがリリを困らせているのか…?」



「いえ、あの、そういうことではなくて、説明が難しいのですが、マリエナさんとの仲を応援してあげたいというか、ただ私への言葉の本心も知りたくて…そうすれば立ち位置を決められると言いますか、うーん……

いろいろあって、このグチャグチャをどう整理しようか考えてて眠れなかっただけです…。


今日話し合えば、お互いスッキリすると思うんです。だから安心してください。」



それを聞き、アシュレイはやや怪訝そうな顔をしながら、

もう片方の手に持っていた棒のアイスを頬張った。



「わかったよ。ついて行きたいって言ってもダメって言うだろ?

ここで大人しく待ってるよ。何かあったら伝えて…?」



アシュレイはリリーナが首から下げる黒いクリスタルのネックレスを人差し指で

トントンと触って言った。



「わかりました。」



「私もいつでも準備はできているから、呼んでくれるといいよ。」



絵を描いていたノーも、続いて言ってくれた。



「ありがとうございます。何かあったら連絡させてもらいますね。

…では、行ってきます。」



「あぁ。」

「はい。」



リリーナは寮を出ると、昨日と同じようにマリエナとユーストス、そして

今日は少し長く目が止まるヴェクトルと、一定の距離を保ったまま教室までたどり着く。


教室は相変わらず薄ピンクだ。

このピンクのモヤを見ながらリリーナは考えていた。



”ひとまずヴェクトル様には、私がマリエナさんに害をなそうとする存在ではない事を

しっかりと伝えられたらいいわ。

彼が、マリエナさんに想いを寄せていると言うのも知っているから応援するわ、くらいまで

言ったほうが信頼されるかしら…。”



だいたい整理がついてきたところで、今度はマリエナの方にも目をやった。



”マリエナさんのほうは…溺愛ルートに相当こだわっているし…

できれば争いが生まれないように話を持って行きたいわ…”





色々と考えているうちにあっという間に放課後となった。


教室でまだ談笑をしているヴェクトルたちを横目に、リリーナはすぐに蔵書室に向かった。

時間は決めてはいなかったが、どこかで時間を潰していくと言うよりは

一番落ち着く蔵書室で本を読みふけるほうが、リリーナにとってはよっぽど気が紛れる。


早々に到着すると、窓に面した6人がけの大テーブルの一番窓側に陣取り

新しく入荷したという、エッセイを読み進めていく。


蔵書室には人がまばらで、それぞれ勉強、読書に集中していた。

時が経ち、その人たちもだんだんと少なくなり、

閉館時間を気にしなければいけないほどになった。



”もしかして…何かあったのかしら…?”



リリーナは新入荷のエッセイ本もとうの昔に読み終わり、その後2冊、3冊と

読み終わったところで、いくら待っても姿を現さないヴェクトルを心配に思った。


彼の今までの性格から言って、すっぽかす事はあまり考えられず、

彼の身に何か起きたのではと考え始めた。


そして…彼が現れないまま、閉館時間となった。



司書から閉館の旨を伝えられ、リリーナは席を立った。

4冊目の半分。残りは帰宅してから読もうと、貸出処理を終えてから蔵書室を出る。



「どうされたのかしら…」



リリーナは彼が来られなかった理由を考えながら渡り廊下を歩き、

学園の門へと向かっていた。

薄々、約束が破られた事も頭にはちらついた。


彼に伝えたいことを整理するために眠れなかったこと、

彼に対する複雑な気持ちがスッキリすると期待したこと、


平気なふりをしていたけれど、目にじわりと温かいものが込み上げてきた。



”いけない…きっと理由があったのだわ…。明日聞いて…”



そう考え、涙を収めようとした矢先のことだった。



「ふふふ…。もう…。」



「だね…。何を…。はは。」



門柱の裏あたりから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

リリーナは門の通過ついでに確認しようと、顔は俯き気味に

目線だけそちらに送った。

おおよその検討はついていたが、そうであってくれるなと願っていた。


リリーナの思いは届かず、それは彼女が知りたくなかったものだった。



「そうなんですの、それで私、その時につまずいちゃって…あら?

リリーナ様…?遅くまでいらしたんですのね。」



「…マリエナさん…」



「…」



そのままスッと抜けたかったところをわざわざ呼び止められてしまった。

話の主はマリエナ。そして相手は

…ヴェクトル。


彼を目にして、リリーナの心臓が痛いほどキュッとなった。

彼はマリエナを優先したのだった。



”仕方ないわ。いつもはユーストス様がべったりで、2人きりで話すチャンスなどあまりないもの。

私と会うのとマリエナさんと会う、を比べると、こちらが捨て置かれることは当然だわ…。”



そんなことは分かっていたが、

すっぽかすはずはない、と勝手に考えていたことやら

先ほど押さえ込んだばかりの気持ちが一気に溢れて、目から溢れそうなものを

もうせき止めきれなくなった。



「ごきげんよ…ぅ…っ…!」



そう言い、涙を悟られないように、走り去った。

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