お部屋訪問
「ちょっと聞いてます?2人とも!」
「ん?」
「聞いてるよー?」
なんともだらしない返事がした先には、ベッドで本を読みくつろぐ人間姿のアシュレイ。
そして、その横のデスクで文具を散らかしているのは、同じく人間姿のノー。
この部屋に戻ってきて10分ばかりと言うのに、2人は早速馴染んでいた。
「聞いてませんね。ですから、窓から見える可能性もあるので、人間姿になるときは
しっかりカーテンを閉める。」
シャッ!!
リリーナはそう言いながら、部屋のカーテンを閉めた。
「冒険物語はあるか?」
「ありますよ!えっと…この本が…じゃなくて!
お兄様はベッドに本を散らかさないでください…!」
「はいはい。」
アシュレイは本を受け取りながら、渋々ベッドに散乱している本をまとめ始めた。
リリーナはそれを見届け、次にノーに目を向けると
「そして、ノーはがしゃがしゃと荒らさないように!」
「だって、触ってみたかったんだよね、これがペン…あ、書けた。」
「そうなのですね、楽しそうですからいいで…あああ!
デスクに書いちゃダメです消えないから…!!え、えっと紙…!
はい、これに好きなだけ書いていいですからね…。」
「ふふ、ありがと!」
そう言い、ノーはペンを持ってぐるぐる、ギザギザとペンの走りを楽しんでいた。
「両隣には別の生徒が生活していますから、できるだけ騒がないようにお願いしますよ?」
「わかった。」
「はーい。」
と聞いてくれたかどうか不安な返事が返ってきた矢先に
ドカッ!
アシュレイの足が壁にヒットする。
「ああ、すまない。」
「お、お兄様は、足の長さがあるのを忘れないでください!」
ガシャーッ!パラパラパラ…
ノーがペン立てを床にひっくり返す。
「あああ、ごめんね。」
「一本ずつ取りましょうか…!」
途端に騒がしくなった状況にリリーナは苦笑したが、楽しそうな2人を見ていると、
以前お手伝いに行った教会での幼児たちの遊ぶ姿と重なって、
それが微笑ましく思え、寛容な気持ちになれた。
「ゆっくりでいいです。慣れていきましょうね、お二人とも。
お隣には後でお断りを入れておくので。
…ふふっ。それにしても、1人部屋に大人三人だと流石に窮屈ですね…!」
と、リリーナが自分はどこに座ろうか、と思っていた時のこと。
コンコン
突然、リリーナの部屋をノックする音が響いた。
途端に緊張感が走り、アシュレイもノーも猫の姿に戻り、警戒をした。
リリーナはドアから少し離れたところから応答した。
「はい。どちら様でしょう?」
「ああ、戻っていらしたのね。ちょうどよかった。
マリエナですわ。」
「マリエナさん…!」
リリーナの背筋が凍った。無理も無い、演習場で向けられた敵意…むしろ殺意を
知ってしまったから何かあるのではと思うのが当たり前だった。
「ふふ、何もしないわ。信用されないと思いますけど。」
「そうね…ちょっと開けられないわ。申し訳ないけど、ドア越しのままでいいかしら。」
「わかりましたわ。…警戒心が強くて良いことですね。
まあ、今日はお知らせに来ただけですからこのまま伝えさせていただきますわ。
リリーナ様がいなくなった後、
先生には、リリーナ様が体調を崩して先に帰ったと伝えておきましたわ。
魔獣も『一緒に』倒したことにしています。
これで単位を落とさずに済んだのですから、感謝していただけると嬉しいですわ。」
「そうなのですね。助かりましたわ、ありがとうございます。」
(魔獣はお兄様が倒したと思うのだけど…)
そう思いながら、マリエナの次の一手を待った。
…しかし、しばらく応答がない。
リリーナが振り向き、アシュレイとノーに目線を送ると2人とも首を横に振った。
まだいるのか、と察するとすぐにまたマリエナの声がし始めた。
「…銀灰様とは楽しく過ごせたかしら。今そちらにいるんでしょう?
本当は私が行くはずだった…のに…譲ってさしあげたことも感謝していただきたいですわ。」
そうして、ドアノブがゆっくりと回り始めた。
それを見て、三人は一層警戒をした。
事前にアシュレイがロックの魔法をかけているので開かないようにはしてある。
「何を言ってるの…?
…その前に…マリエナさん、私を殺そうとしましたよね?」
「殺すだなんて、やだ!物騒ですわ…
私は少し魔獣と遊んで欲しかっただけですよ?」
ガチャ… ガチャ…
ドアノブが大きく2回動いた。
だが開くことはなかった。
「は…入ってこないでくださる?許可はしてないわ…!
今日はお話をするのはやめましょう…お互い少し落ち着く必要があると思うわ。
また後日、機会を設けて話しましょう…」
リリーナがそう言うと、ドアノブがゆっくりと戻った。
「…わかりましたわ。
つまらない…私の銀灰様に会わせてくれもしないんですのね…!
ひとまず、今日はこれで失礼いたしますわ。
私はこれからユーストス様とお買い物に出かけますの。
ではまた明日学園で…ご機嫌よう。」
そう言い残し、マリエナは去っていった。
リリーナは念の為ドアに近づき、足音を確認してみたが、遠ざかっていくのが聞こえた。
しばらく確認の体制のまま様子を伺っていたが、本当に行ってしまったようなので、
ようやく三人は警戒を解いた。
ロニはベッドに沈み込み、ノーは椅子の背もたれに寄りかかる。
リリーナもその場にへたり込んだ。
「ふぅ。」
「どっと疲れが出たわ…」
リリーナはしばらく立ち上がりたく無いと思うほどの倦怠感に襲われた。
そんな感覚のまま、ノーに目線をやると、
神妙な面持ちでいるのを見た。
「ノー、どうしました?」
思考を巡らせすぎたのか、リリーナの問いかけに少しだけ遅れて反応したノーだったが、
リリーナと目を合わせると、ぼそっとつぶやいた。
「…あの娘、何か内に飼っているね…。強大な何かを…」
「え…?飼っている…使い魔ってこと?」
ノーは首を軽く横に振り話を続けた。
「違う。もっと根本のところの…何かだ。
よく感知できないんだ…。ただ、それが良く無いものだと言うのはわかる。
しかも、膨れ上がっているイメージがある…
リリーナ、気をつけて。」
「わかりました…。
マリエナさんとは…学園で顔を合わせることは避けられない。
最大限に警戒をしながら、一度じっくり話さないといけないかもしれない…。」
「危険だけど、必要がありそうだな。」
アシュレイも同じような感覚を覚えたようで、表情は硬くなっていた。




