表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/142

歓喜と憎悪

一方、リリーナとノーが対話をしている頃。

森の中の小屋。


黒猫姿のアシュレイは呼吸が浅くなっていくリリーナに対して

顔面蒼白で、必死に呼びかけていた。



”リリ…!!リリ…!!戻ってこい…!”



手をギュッと握ったり、耳元で優しく呼びかけてみたり…

自分でできる限りのことをしていた。



”くそ…やっぱり…すぐに消えればよかった…!

こんな辛いことをさせないで済んだのに…結局はリリを悲しませてばかりだ…俺は。”



悔しい気持ちが溢れそうで、思わずギリっと歯を噛み締める。



もう、魔力を抑えるのを気にして猫の姿になってなくていい。

この姿では十分にリリーナを介抱してやれない、と人間の姿に戻った。



「…俺はお前がいなくなったら耐えられそうにない…

リリ…頼む戻ってきてくれ!」



アシュレイはソファーに横たわるリリーナのすぐ横に腰掛け、

上半身が覆い被さるような体勢となった。

左手でリリーナの右手を握り、右手でリリーナの頬を包みこみ

その親指で小さく撫でる。

リリーナの鼻あたりに自分の頬を近づけ、その頬に定期的に触れる

リリーナの呼吸を感じ取っていた。



「!」



その時、アシュレイは側に懐かしい気配を感じた。

それを確かめるようにそっと目線をずらすと、

ソファーの側に置かれた丸太椅子に白猫が座っていた。



「ちゃんと生きてるだろう?」



「! おまえ…!」



今の今まで自分の中にいた気配を忘れるでもなく、アシュレイは白猫の正体を

リリーナに戻った魔力だと気づいた。



「残念ながら連れていけなかったよ。」



「なに…?」



その一言に感情が昂り、手が伸びる!

だが、ノーの鼻先で震えながら止まった。

リリーナに戻った魔力を傷つける事、イコール彼女を傷つける事。

それを知っていた彼は踏みとどまった。

それに対して、ノーはその手に鼻息を吹きかけて言った。



「リリーナは、お兄様を笑顔にしたいんだと。」



「え…おれ…?」



ノーは前足をアシュレイの背後に向けて

ツイツイ、と指示をした。

それに応えて後ろを振り返る。



「おに…いさま…?」



「リリ…!!」



いつの間にか起き上がっていたリリーナを見て

アシュレイは、みるみる口もとが緩み、目が潤んでいった。


そしてリリーナを引き寄せると、強く抱き締めた。



「よかった…リリ!!

……おかえり…。」



「…ただいま戻りました…お兄様!」



その感情の表れっぷりにノーは不思議な顔をしていた。



「兄よ、いつも冷静なお前が珍しいな。こんな感情を爆発させて。

リリーナには甘々なのか…?」



そう、冷静な顔で聞いてきた。

それにアシュレイは顔を真っ赤にさせて、珍しく取り繕うようにしどろもどろに言った。



「そりゃまあ、10年ぶりに人の姿で接しられたのだから仕方ないだろう。

きっとお前だって同じだろ?」



そう言って、リリーナを抱き締めながらも左手を伸ばし、

ノーの頭をクシャッと撫でた。

ノーの方も、先ほどリリーナに抱きつかれた時の事を思い出し

確かに、これは気持ちが良い方向に向かうと理解したようで、



「むぅ…!今は許してやる。」




と、まるで自分が上の立場かのように話していた。







またその一方で…



演習場にひとり取り残されたマリエナは混乱していた。



(銀灰様がリリーナ様を連れていった…

彼は間違えただけ…私の元に来るはず…)



そう、暗示のように繰り返し考えていた。

マリエナは、仕方なく視界の先に転がる小さい魔石を持ち、

とぼとぼと演習場の入り口へ戻った。


入り口には何組かが既に戻っていたのが見えた。

ユーストスとヴェクトル組はやはり一番のようだった。



1人で戻ったマリエナに対して、先生が駆け寄ってきて尋ねた。



「マリエナさん一人か?ペアのリリーナさんはどうした?」



それを聞き、みんなの目が彼女の方に目がいくのを感じた。

マリエナは、一度ごくりと喉を鳴らして言った。



「リリーナ様と一緒に、魔獣を討伐しました。けれども、

直後にリリーナ様は気分が悪くなられたので、寮に戻ると伝えてほしいと言われました。」



「なに…!私に知らせてくれたら…よかったのに。」



「そう判断すべきでしたが、かなり辛そうだったので、私の使い魔を呼んで連れていかせました。

勝手をして申し訳ありませんでした…」



そう話すマリエナの表情は乏しく、感情がほとんど無いかのようだった。



「そうか…。それなら安心だな。ありがとう。あとで様子を伺うことにするよ。」



先生も優秀なマリエナの意見には疑いを持たなかった。

マリエナは、討伐の印となる魔石を先生に渡すと、ユーストスやヴェクトルに

構ってもらいに行くでもなく、演習をクリアした者たちが集まる広場の

木陰の方へ向かい、ひとりひっそりと座った。

そして、小さな葉っぱが風に流れるのを見ながら思った。



(少し話を変えておいてよかった。ここでいなくなると捜索されて厄介になるわ…。

リリーナ様は寮に戻ったあとに、行方をくらませたことにしよう…。


銀灰さまの元へ行った後はあそこに現れるはず。


そこに罠を施しておけば…彼女はさよなら。

そうして晴れて溺愛ルート復活よ。

…ようやく、物語の通りになるわ…)



これから自分にとっては良い方向に向く出来事だとおさらいをすると

少し口元が緩んでしまったので、見つからないよう、下を向いた。



そうするとすぐに、見慣れた靴が視界に入ってきた。

ユーストスの靴だ。

慌ててマリエナは顔を上げて、いつもの表情に戻す。



「ユ、ユーストス様…どうされまし…た?」



「マリエナ嬢、元気がないね…リリーナ嬢が心配かい…?

君は優しいから考えすぎないようにね。きっと大丈夫だから。」



「あ、お…お気遣いいただきありがとうございます…」



(驚いた…今は魅了をかけていないのに…

昨日の食堂での一件で完全に嫌われたかと思っていた。彼は魅了なんか関係なく、平等に優しいのね…。)



そこからいくつか談笑を重ねていくうちに、マリエナの表情も

やわらいでいった。


そういえば、久しぶりに自然に話したと、感じた。

策略も魅了も関係なく、物語の制限を気にせずに自然に交わす会話が

マリエナはとても気持ちよかった。



「…ふっ。」



話し終えたマリエナは、戻っていくユーストスを目で追いながら

誰にも気付かれないように口元を緩めた。


ふと、ユーストスが戻った先にいたヴェクトルに目をやると、明らかにいつものクールさは失い

本人としては気づかれないようにしているのか、学園寮の方を何度か見るのが伺えた。



「…!」



それに対して、現実に引き戻された。

マリエナはみるみる顔が青ざめ、頭の中をぐるぐるとまた使命のように回り始めた。



(私だけが愛されないといけないのに…!)



もう物語については、イレギュラーなことが起こりすぎて

もはや何が正しいかはわからなくなっていた。


しかし、すでに物語通りに進めてこそが、自分の存在価値と思ってしまっていた。



(やはり、リリーナ様の存在は消すべきものだわ…)



と、強く思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ