ダメ!決めた。
リリーナは、眠りに落ちる寸前のふわふわした感覚がとても気持ちよかった。
そんな中で、まるで演劇を観ているような感覚で、今までの色々な思い出が頭を駆け巡った。
メリンダと仲良くなった。
カフェやスイーツが美味しかった。
演劇に気持ちが高揚した。
クリフォードの絵姿を何度も眺めた。
セラドが家族を心配してくれた。
レオンにたくさん助けられた。
マリエナの猫被りがすごかった。
ヴェクトルと学園祭の絵を描いた。
アシュレイ兄と会えた。
(あれ…お兄様…顔… 悲し…そう…?)
「……うっ…!!!」
「ん?」
「っ……ダメだわぁっ!!!!」
突如、目をぱっちりと開き、ノーの膝からガバリと起き上がって言った。
「ど…どうした…!?」
ノーは隣で急に目がギラギラとし始めたリリーナに驚きを隠せない様子で
撫でていた手を持ち上げたまま、彼女を見た。
「私、ここで終わろうって覚悟したけど、やっぱりやめます!!」
「えっと…兄が苦しまないように、身を引くのではなかったのか…?」
「今、お兄様を残して私がいなくなってしまうと、ノーがいた時の苦しみは無くなるけれど
また別のことで、今度は一生苦しませてしまうかもしれないんです。
いなくなったら後戻りはできないので、私がそばにいて、
できることをまずやってみようと思って…。
そして何より、私がやりたいことがありすぎて、このままノーと一緒に
行ったとしても、きっと今じゃなかった…って、あなた自身も後悔すると思います。」
迫力も伴うリリーナの強い気持ちに
ノーも次第に落ち着きを取り戻した。
「…それで?…どうする?」
「お兄様ともっと話したいし、出かけたい。
お兄様ができなかったことを少しずつ取り戻して行くのを手伝いたいです。
あとは…
カフェに行きたい。
メリンダ様に会いに行きたい。
美味しいものたくさん食べたい。
演劇が見たい。
生のクリフォード様と話がしたい!
ええっと、まだまだあります…!」
「…やりたいことだらけだな…?」
「そうなんです!だから、少しだけお時間をもらっていいでしょうか?
お兄様が笑顔になることをたくさんやってあげたいんです。
それでも、やっぱりお兄様が苦しむようなら、その時はノーの言う通りにさせてもらいます。」
「…いいのか?きっとリリーナの感情に左右されやすい私はすぐに暴走するぞ?
彼を笑顔にする前に、世間に、兄に悲しい思いをさせる可能性もあるんだ。」
少し悲しげな表情を浮かべて言うノーに対して、
リリーナは手を添え、微笑みながら言った。
「いいえ。あの時より私は成長しましたよ?今はあなたの存在を知り、対話ができる。
感情が昂った時もこうやってお話をすればいいの。
…今の私なら、あなたと一緒にうまくやっていける気がするんですよね!」
「私と…一緒…に?」
その言葉を聞いて、ノーはフッと小さく笑った。
「やっぱり…君の兄の中にいたからよくわかってたよ。
リリーナの性格。言ったら聞かない頑固な子だ。
…うん。面白いね。じゃあ、しばらく見させてもらうとするか。
ただし、わかるよね?
リリーナが諦めた時点ですぐに、私とリリーナのだけの世界に連れて行くからね?」
「はい!わかっています。」
リリーナが答えると、ノーはやれやれとボソリと言ったかと思うと
目を閉じて、光に包まれ始めた。
それはやがて小さくなり、ベンチの上に30cmくらいの白い塊としてまとまった。
光がだんだんと弱まって見えてきたものは、綺麗な毛並みの白猫。
薄いゴールドの瞳は、人型の時と変わらず輝いていた。
耳毛と胸毛が長く、尻尾はたっぷりのボリュームで2本。
それをふにふにと動かしながら、リリーナに目を合わせた。
「リリーナが受け止めきれない魔力の分で、この姿になった。
これからは嫌でもずっといるぞ?覚悟しろ。」
「はい!ありがとうございます!!」
そう言って、リリーナは思わず猫姿のノーに抱きついた。
この姿はとても馴染みがあったからだろう、ずっと一緒にいたロニ…
黒猫姿のアシュレイとほぼ同じ姿に、ロニにしていたようなことを
ついついしてしまった。
「お、おぉ…!?」
一方、そんなことには慣れていない、むしろ初めて経験するそれに、
ノーは変な声をあげて戸惑っていた。
が、だんだんとそれに心地よさを覚えたようで、
気分が良さそうな表情に変わっていった。
「ふむ…ふむ…。」
「ふふ。」
そんな様子に、リリーナも思わず微笑んでしまった。
リリーナの抱きしめから解放されたノーは少し恥ずかしげな表情を
浮かべながら口を開いた。
「そう、リリーナの属性について言っておくよ。
君は自分を風属性だと思っているだろうが、実は光属性だからね。
この魔法を使えるものは指折り程度。
更に言うと、君は光の中でも、起源になる創生魔法が使える。
くれぐれも口外してはいけないし、暴発しないように気をつけること。」
「光…私光属性なの…?
だから風魔法もあまり振るわなかった…てこと…!?」
「今となっては珍しい属性の上に、強大な魔力量を持つことになった。
絶対に目立たないようにね。特に王族には気付かれないようにしなよ。」
「はい…十分に気をつけます!」
そう答えると、ノーの方もうなずいた。
「よし、じゃあ、戻るよ。」
「はい。」




