10年前の真実
リリーナはひとまず、席に座り、大人しくノーの話を聞くことにした。
ノーも、紅茶を一口含むと、ゆっくりと話し始めた。
「ー10年前。ストークス領。
あの日、リリーナは兄と遊んでいたな……そう、木登り。
2人で少し高さのある枝から飛んで遊んでいた。」
「何回か飛びあって、兄の番になった。
…だが彼は、着地に失敗して、足を痛めてしまったんだ。
痛みでうなり、うずくまる兄に対して、それにひどくうろたえた君は、
兄の傷が治るように強く願ったよ。」
「そしたらね、私に力が湧いてきて、『好きにしていいよ』って頭の中に響いてきたんだ。
だから、さっさと兄の傷は治して、
私は、リリーナと私だけの自然に溢れた世界を創ろうと思って木々を展開し始めたんだ。
でも、すぐに君の兄が抑えにかかってきてね。
私とリリーナの世界の邪魔をするのかって、私は反発した。
しばらく彼と攻めぎあったけれど、まだ魔力保持者である君の体が小さくて、
私の力ががうまく出せなかったから、打ち負けてしまったよ。」
「たちまち黒い空間に包まれて、私の展開した木々は一瞬でかき消されてしまった。
同時に、そのまま私のほとんどを彼に持っていかれて、
封印までされて動けないようにされたよ。
この強大な魔力の私が、…だよ?
全くめちゃくちゃなことをやる子供だと思ったよ。君の兄は。
それで用意周到なことにその時に、リリーナの記憶もすっかり消したみたいだ。
…まあ、君の性質上、消しきれていない部分もあったみたいだけどね。」
一通り話すと、ノーは両手を左右に開き、てのひらを上に向けて、
”やれやれ”と言わんばかりのポーズをした。
「君の兄は、大勢の目に晒されただろう、この事態を全て自分に向けるために、
わざと自分の存在を見せつけるように振る舞い、消えた。
やがて兄の思惑通り、彼のせいだと噂され、はっきりと顔がわからなかった事から
『銀灰の悪魔』と呼ばれ、恐れられるようになった。
君たち家族は、君の兄が銀灰の悪魔と言うのは知っていながら
何もしてやれなかったと言うところかな。」
ノーは組むか組まないかのゆるい腕組みをして、
体を背もたれに預ける体勢に変えて、話を結ぶ。
「これがニジェゴフの天変地異の真相だよ。」
事件の本当のことを聞かされ、リリーナは時が止まったように
動けないでいた。
(ニジェゴフの天変地異を起こしたのは…私……)
そして小さく震えながらうつむき、顔を両手で覆った。
(お兄様の大事な時間を奪ったのは…私…!!)
リリーナは先ほどまで強く思っていた、『魔力を取り戻して
早々に戻る』という気持ちが揺らいできた。
(もしかしたら、私が戻らない方がお兄様は幸せなのかもしれない…?)
大好きな兄をもうこれ以上苦しめないためにここにやってきた。
自分が戻ることで苦しみが続くならいっそ…
そう考え始めた時だった
”リリ…!!!”
(…お兄様!?)
リリーナ頭上の方でかすかに聞こえた兄の声。
それに反応するのを見て、ノーは軽くため息をついた。
「もう異変に気づき始めたね。さすが、鋭いよ君の兄は。
君の生命活動が弱まっていくのを感じ取ったようだね。」
「そう…なのですね…」
そう聞いたところで、戻らねば!という気持ちが湧かなかった。
(お兄様…心配してくれてありがとう…
もう私…)
リリーナは考え続けることをやめた。
そして何だか眠たくなってきた
「あそこのベンチに行こうか。」
うとうとするリリーナを近くのベンチに運ぶと、ノーは自分の膝にリリーナを寝かせた。
実際、リリーナも頭の重みを支えるのが辛いほど、
眠気がどんどん強くなってきたため、とても楽になった。
ノーはリリーナの頭をゆっくりと撫でていた。
「今となっては君の兄に感謝しているよ。
あの時、あのまま魔力を発動し続けてしまっていたら、
私の大切なリリーナを失うところだった。
これでリリーナと永遠に共に過ごせる。」
そう言うと、ノーはリリーナの眠りに落ちそうな目を見つめながら
優しく微笑んだ。




