ここはどこ、あなたはだあれ
リリーナは、ローブで一瞬視界を隠された後、
次に見えた光景が全く変わっていたのに驚いていた。
午前中だと言うのに、木々が重なり光があまり落ちてこない
薄暗い森の中。
銀灰の悪魔と呼ばれた彼は、リリーナの肩にそっと触れて合図をすると、
前方を指さした。視界に入ったのは、小さな小屋。
「あそこに…いくのですね…?」
ローブが軽く縦に揺れる。
そして、手のひらをリリーナに向けて差し出した。
(手を貸して…くださるの…?聞いてたイメージとは全然違う気がするわ…)
そう思いながら、厚意に甘えて、手を差し出した。
「ありがとうございます。」
本当は、そうしてもらえないと1人で歩ける自信がないほど
体力と魔力を消耗していたから助かった。
彼はゆっくり、リリーナのペースに合わせるように、小屋へ向かった。
小屋に入ると、機密性が高く、外の冷たい外気をしっかり遮断する構造になっており
暖かさを感じた。
地面に敷き詰められたふかふかのカーペットが気持ちよい。
それよりさらにふかふかそうな、ソファーベッドが一角を陣取り、部屋の中央には
小さなテーブル。壁際には小さな本棚とくすんで見えないフレームがある。
壁には無数の薬草や、複雑な数式が書かれたメモが貼り付けられていた。
(わぁ…読めない字…計算式…ぜんぜんわからな…ん…?
エルダーフラワーの押し花…?かわいい…)
リリーナは壁に貼り付けられていた物の中に、小さな押し花のフレームを
見つけ、釘付けになっていた。
そうしていると、彼はそっと両肩を持って、リリーナソファーベッドに座らせた。
そして自らは小さなテーブルのそばにある、切り株に腰を落ち着かせて
ぼそりと声を発した。
「…つらく…ないか?」
「え…あ、いえ、ありがとうございます。…大丈夫です。」
随分と声を聞いていなかったが、久々に口を開いた彼から出たのは
優しくリリーナを気遣った言葉だった。
リリーナは起きていられないほど辛くなかったが、
多少フラフラしていたので、こうして気持ちの良いソファーに
座らせてもらえただけでも嬉しかった。
「あの…助けてくださりありがとうございました。
実は…今回助けていただくのが2回目で…
その時の感謝も今言わせてください。ありがとうございました…」
と、リリーナは深々とお辞儀をした。
ガタッ…
すると、銀灰はおもむろに立ち上がると、リリーナの方にやってきて
腕に触れた。
「いっ…!」
「気付くのが遅れてすまない…」
そういえば、さっき狼魔獣の爪が刺さり、傷を負っていた。
色々と不思議なことが自分の身に起こりすぎて、その痛みにまで
気が回っていたかったようだ。彼に触れられたことで、思い出した。
彼は、すぐにリリーナの腕に手をかざすと、暖かい光を発して
腕を治していく。それはすごい速さで。数秒数えるうちに完全に元通りとなった。
「すご…い。…もう痛くありません…。」
彼は、軽くうなずくと、傷のあった部分をささっと撫でて確認し
また丸太の方へ戻り、こちらを向いて座った。
終始ローブで隠されて口元しか見えなかったが、先ほどマリエナに対する時の
口元とは大きく違い、自然な形だったのを確認した。
「… …」
「… …」
少しの間沈黙が続いた。
リリーナは疑問がいっぱいあった。
マリエナが言っていた、銀灰の悪魔。色々な噂があるその彼が
どうして助けてくれたのか。そしてなぜここに連れてこられたのか。
思いはするが、彼がまず何かを言うまでは待とうと思っていた。
彼の足元あたりに目線を落としながら、黙っていた。
「…ふぅ…」
彼が小さく息を吐いた。
何か言いたげに、顔を上げるのを捉えたので、リリーナも合わせて
彼の顔に目を向けた。
「あ……ぐ…ぅうっ…!!」
何か言おうとした時、急に右手でフードの中の顔を覆うと、
苦しそうな声を上げながら、うずくまってしまった。
「あぁっ…!どうされたんで…」
「そのままで…!!」
ソファーから降りてこようとするリリーナに対して、左手を突き出し
止めるように手のひらを彼女に向けた彼。
それに思わず降りるのをやめ、ソファーに座り直した。
「はぁ、はぁ…、やっぱり…人間の姿は…今は辛いな…。」
そう言って彼は顔をあげると、自身を黒いモヤモヤで包み込んだ。
それはみるみる小さくなり、座っていた丸太の上に30cmほどの塊となって止まった。
そのもやがどんどん晴れていき…その姿を見たリリーナはとても驚いた。
黒い毛艶。
ピンと立った耳に特徴的なカールの毛。
そして、透き通るようなグレーの瞳を持つ猫。
”リリ、この姿は知っているな?”
「え…ロニ!!??」




