一難去ってまた一難
「どうしようかしら…。」
困った顔をして、湿地帯の方からリリーナに向かって来るのは
マリエナだった。
「マ…マリエナさん!?あれ、先生は…?」
「呼びに行きませんよ?だって、確認しないといけないのに…
だけど、まさか討伐しちゃうなんて…せっかく見つけた強い子だったのに…
やっぱりリリーナ様、私の溺愛ルートには邪魔ですわ…。」
「待って、溺愛ルートって…あなた、やっぱり違う世界の記憶があるのね…?」
「あら、ご存知でした?メリンダ様が言ってたかもしれないですね。
ま、別にもういいんだけど。」
既にかわいさアピールもする必要もなく、リリーナを傷つけようとした事も
バレているので開き直った素のマリエナがうかがえる。
彼女は苛立ちを隠せない顔だった。
「ねえ、溺愛ルートはもう始まっているでしょ、なぜ私に干渉してくるの…?
私、関係ないじゃない!!」
リリーナは思わず声を荒げて言う。
それに対して同じように答えるマリエナ。
「なってないの!!溺愛どころか、あなたの魔力のせいで、全部台無しなの!」
「なに言ってるの、私の少ない魔力のどこが…」
「それ本気で言ってるの!?たまに大量に魔力がダダ漏れしてるの気づかないの!?」
「え…」
「そうよ、打ち上げパーティーの後からよ…。
私の魅了効果をあなたは一瞬で消し去ったわ?
そのせいで、皆ちやほやなんてしてくれないわ…!本当に何…?
やっと、メリンダ様に出ていってもらったのに…!!」
「そんなこと言われても…実際魔力がある感覚もないし、あなたの邪魔を
した覚えもないわ。」
「さっきもそう。学生じゃ到底討伐できないレベルの魔獣なのに
なんで倒せるの?」
「あれは、強く祈ったらたまたま出ただけで…」
「それ!私がここを離れるまではいつものちょろっとしかない魔力だったのに、
さっきは凄まじい量の魔力だったわ。そして今はまたちょろっと。
祈ったら魔力が増える?ありえないから…!
ねえ…リリーナ様、何者なの…?物語には出てこなかったはずよ?」
「何者って…ただの平凡な学生としか言えないのだけど。
…あのね、もう溺愛ルートなんてどうでもいいじゃない…!
魅了をかけないと愛されないなんてことおかしいわ。
真剣に人を好きになって、1人に愛されることだって素晴らしいことだと思うのに。」
「ダメ!マリエナはみんなに愛されないといけない事になってるのよ!」
「なにそれ…物語通りにしないといけないってこと?」
「そうよ!!物語は絶対よ!
だから、あなたがいると溺愛フラグが立たないの…!
…そうだわ。もう、リリーナ様…行方不明になってもらいます。」
マリエナは急にハッとした顔をして、一瞬思考を巡らせた後
リリーナを見てにこりとした。
「どういう…こと…?」
その目線に恐怖を覚えたリリーナは、足の鎖を手で引っ張ってみた。
だがジャラッと鳴らすだけで、抜ける兆しはひとつもなかった。
マリエナは、気持ちを落ち着かせるために、乱れた服や髪を整えると、
人差し指を立てた右手をリリーナの方に向けて、くるくると回した。
すると、リリーナの眼前の空間が歪み、そこから狼型の魔獣が2頭出てきた。
「え…ちょっ…!魔獣…召喚…?」
「ふふっ、今度は小型だけどなかなか強いのよ?
このままその空間に連れていってもらうわね。」
グルルルル…!!
2匹の魔獣は歯をむき出しにしてリリーナから目を離さず、
獲物を見定めるように見ている。
(どうしよう…もうほとんど…魔力がないのに…!
けど…それでも立ち向かうしかないわ!!)
へたり込んでいたリリーナは、体を奮い立たせてヨロヨロと立ち上がった。
「魔獣が出現し、2人で討伐を試みた…
魔獣に苦戦し、リリーナ様は単独で森へ走っていってしまった…
それを追って魔獣たちも森へ…
私は必死に追いかけたけど、見失ってしまった…
その後リリーナ様が見つかることはなかった…
というお話でいかがでしょうか?ふふふ…!」
「下手なストーリーだわ、あなた脚本家に向いていないみたいね。
…だからさっきみたいに、その筋書きは覆してあげるわ…!!」
「うるさい!ふん…まあせいぜい頑張って。」
そう言い、魔獣に合図をした。
「見せてちょうだい!」
ガルルル!!
狼魔獣は踏み込むと、同じタイミングで両サイドから飛びかかって来た。
リリーナは先程の枝を強くイメージした。
(おねがい…!!)
ガガガ…ギギギ…!!
先ほどと同じように、リリーナの思いに呼応して
彼女を包み込むように、網目状の枝が現れる。
しかし、少しタイミングが遅れたせいで魔獣の攻撃全てを防ぐことができず
爪が左腕に触れてしまった。
深くえぐられるような感覚と鋭い痛みが、リリーナの体に走る。
「いっ…!!!」
あまりの痛みに声も出ず、左腕を押さえて膝をつく。
「もう拘束を解いても動けそうにないわね。」
この様子を見ていたマリエナは、拘束魔法を指一本動かして解く。
狼魔獣は引っかかった網目状の枝に尚も噛みつき、どんどんと壊していく。
リリーナは魔力を絞り尽くしたのと、痛みとでもう動けなかった。
狼魔獣はバリバリと枝を壊し続け、そろそろ体が通りそうな大きさまでになると
ぐりぐりと体を動かしながら入って来た。
「さあもうおしまいよ。
リリーナさんの存在は物語に干渉しすぎたの。
あちらの世界で魔獣と仲良くね…もっともすぐにさよならかもしれないけど…!
ふふっ…」
「はぁ、はぁ…」
(くやしい…お父様、お母様…お兄様…ロニ…)
リリーナの目の前には禍々しい空間へと通じるモヤ状のもの。
彼女は自ら発動した枝のドーム内で防御していた。
しかしそのドームの両サイドは壊され、中には狼魔獣が2匹。
今にも襲い掛からんとしている。
そんな状況下で、もうほぼ諦めるしかないのかと思い、俯いた。
目に入ってきたのは、ロニからもらった黒いクリスタルのネックレス。
それを指で触れてリリーナはつぶやいた。
「ロニ…元気でね」
魔獣の闘気が高まり、ひと吠えすると、
足を深く踏み込み
リリーナに向かって飛びかかって来た。
「ふっ」
微笑むマリエナを横目に見ながら、現実を受け止めた。




