学園祭:あの人…?
乾いた音が部屋に響いた。
立ちはだかる3人も、リリーナ達に注目していた生徒も、
何事かとあたりを見回す。
お皿…?
窓…?
シャンデリア…?
何かが破裂した音。
生徒達は、その原因になりそうなところを探っていた。
(…われ……た…?)
リリーナは朦朧としながらもかろうじて意識は保てていた。
味方は自分1人。
まずは医務室に行くのを優先しようとして
うずくまった状態で、意識の回復を待っていた。
カツ カツ カツ …
その時、誰かが会場に入ってくる足音が聞こえてきた。
リリーナは振り返れないでいるものの、その人の声でわかった。
(アロー様…回復…されたのね…よかった)
しかしいつものアローとは少し違う様子だと感じたのはその後からだった。
「なあ…、みんな彼女のことちゃんと見てた…?
俺は見てたけどそんな姿見なかったなぁ…それ本当?
ひとりを攻めて楽しんでいるように見えるんだけど。」
そう切り出した。
「何を突然来て言うんだ。
被害を受けたマリエナが言っているんだから、事実に決まっているだろう。」
それを聞いてアローはフンと鼻で笑うと
「ほら、見てない。将来はこの国を背負うかもしれない人が
1人の令嬢に影響を受けすぎだと思うんだけど…?」
きつい口調で返す。
「ひどいですわ、私が悪いみたいに言って!」
ユーストスを助けるようにマリエナが反論すると、
それに目を向けて言った。
「あんたも、もう少し考えてみな?
自分の行動が彼を左右していることを自覚してる?使ってるだろ…?…魅了。
わかってる?自分1人のためにみんなを振り回さないでくれるかなぁ…!!」
「…!」
マリエナは、核心をつかれたことにたじろいで何も言えなくなった。
次にアローはヴェクトルに向かって指を向け、軽く上下に振りながら言った。
「そんで君は、心の底にある気持ちと向き合ってみる努力をしたらいいよ。」
「何を知ったような口を…」
「…はいはい、そうだな。俺としたらそのまま蓋しといてもらっていいんだけどな。
あ、もう行くわ。彼女が可哀想だし。」
と言ったところで、アローは3人をはじめ、全体を見回し
声を張り上げて言った。
「みんな…楽しく終わるのが学園祭だよね…?
こんな胸糞悪いの見せつけられても楽しくないよなぁ…!!」
その一言になんともいえない、ピリピリとした威圧感があり
全体が萎縮して皆はただ動けないでいた。
そんな状態の周囲には目もくれず、リリーナを背後からそっと抱くと
先ほどとは全く逆の優しい口調で、彼女に話しかけた。
「大丈夫かい…?医務室に行こう…
体を預けてくれたらいいからね。安心して。」
(…アロー様…な…の…?)
トサッ…
そう思ったところで意識が保てなくなり
リリーナは体を任せるようにアローに倒れ込んだ。
彼はその肩を引き寄せて、誰にもわからないように軽く頭にキスをした。
「こんな茶番は初めからなかったよ…」
そう言い、アローは右手で指をスナップさせた。
たちまち会場を金色の粒子が包みこみ、キラキラと舞い落ち始めた。
それを会場の全員が浴びていく。
粒子が全て消え去った頃…
皆は一斉に目が覚めたような感覚になっていた。
「あれ、なにしてたんだっけ?」と言う者。
「ああ、それでさ」と会話を続ける者。
「オードブル取りに行くとこだった…!」と移動する者。
各々がリリーナ断罪前の行動の続きを始めていた。
アローは放心状態のユーストス、マリエナ、ヴェクトルの3人に気づかれるように言葉を発した。
「じゃあ、僕は医務室に忘れ物もしたし、彼女を運んでくるね。
引き続き楽しいパーティーを…!」
そうして、細い身体ながらどこにそんな力があるのかと思えるくらい
軽々とリリーナを前に抱えると、スタスタと医務室の方へ向かった。
先程までの雰囲気は消え去り、いつものアローの様子だった。
「何…してましたっけ…?」
「ん…変だな。何か抜けているような…」
マリエナははっきりしないものの違和感を感じていた。
(リリーナさんを断罪するはずじゃなかったっけ…?)
一方、ヴェクトルはアローの後ろ姿を見ていた。
その表情はなんとも言えない、難しい顔をしていた。




