学園祭:遭遇したくなかったな
琥珀糖を無事に手に入れたところで、時刻は少しお昼を過ぎていた。
2人はサンドイッチワゴンでランチセットを購入し、
中庭に設けられたカフェスペースで食べ始めた。
「あっという間に午前が終わっちゃいましたね。」
「そうね。はぁ〜、後少しなのね…。」
大きく上に伸びをしながら言うメリンダを見て
リリーナもいう。
「そうですね…」
深く考えると泣いてしまいそうなので、軽く思いを傾けると
今日でメリンダはこの学園を去ってしまう。
そして今このランチがきっと、学園では最後。
そうしんみりとしそうになった時に、メリンダは話し始めた。
「リリーナ、こんなギリギリで申し訳ないのだけど…また思い出したのよね…。」
「え、ストーリーの件ですか?」
「そう、何かあるといけないから…今、話しておくわね。」
「はい。」
リリーナは、寂しくてぐにゃりとなりそうだった体を
しゃきりと正し、聞く姿勢を整えた。
「リリーナは、銀灰の悪魔って聞いたことはあるかしら?」
「ぎん…かい…の…銀灰…あ!あります、あります。」
(そういえば、記憶を消される前のセラド様が言っていたわ。
くつろぎの会に銀灰の悪魔が出た噂があるって…)
しかし、その部分はヴェクトルとの約束があるので言えず、
昔から伝わる部分だけを話す。
「10年前のニジェゴフの天変地異を起こしたのではないかと言われている…
人嫌いの…魔導士さんですよね…?」
「そう、なんと…その方がマリエナさんの恋愛対象人物の1人なのよ。」
それを聞いて驚き、本当なのと言わんばかりに、顔をメリンダの方に近づける。
「ええ!?…だってこの10年まともに現れた話も
聞かないですし、そんな彼と…どうやって出会うんですか…??」
「それが申し訳ないことに、私はその部分が全く思い出せなくて…。
ただ、対象人物だということだけで、恋愛状態になる条件も全然わからなくて…」
「うーん…それ、もしかしたらマリエナさんは知っているかもしれませんね。」
(彼女がくつろぎの会に来た時、セラド様との出会いだけを目的としていなかったようにも
思えてきた…もしあの場に銀灰さんが現れていたとしたら、マリエナさんとすれ違うくらいは
したのではと思う…それが恋愛対象にする条件の一つだったとしたら…)
「そうね。彼女なら何かしらの情報は掴んでいるかもしれないわね。
とりあえず、直接リリーナに何かがあるわけではないけれど、銀灰の悪魔は国を脅かすほどの魔力を持っているとも聞くし…もし現れるとしたら、私がいなくなった後になるだろうから気を付けておくのよ。」
「わかりました…どうやって気を付け…うーん…ひとまず、
マリエナさんに目をつけられないようにするしかないですね。」
「そうね。あの子の周囲の人にも近づかないようにしておくといいわね…。」
そう言って、メリンダが中庭から見える廊下に目をやった。
リリーナも次いでそちらを向くと、ヴェクトルがおそらく演劇の準備で奔走しているのが見えた。当日になっても忙しそうだ。
「そうします。」
(ヴェクトル様は学園祭を楽しめているのかしら…?)
近づかないほうがいいと言われたばかりだが
人一倍頑張っていたのを思い出して、リリーナは彼が少し気になった。
お腹が満たされたところで、午後は演劇までの間にできるだけ回ろうと
いろいろなところへ行った。
占い
スノーグローブの展示
魔法楽器の演奏会
多種多様な工夫がされ、もはや学生レベルではなかった。
さすが国が誇るトップレベルの魔法学園だと、リリーナは実感した。
「じゃあ、次はここ、入っちゃいますか?」
看板には”ゴーストハウス”
「え、え、え…遠慮するわ。わ、私休憩するから、リリーナ1人で行きなさい…?」
「1人では楽しめませんねぇ…もしかして、メリンダ様、怖いの苦手ですか〜??」
「う…そ、そ、そうよ!!めちゃくちゃ嫌いよ!」
照れながらも素直に認めた姿が可愛く思えて
思わずくすりと笑ってしまう。
「仕方ないじゃない、所作のレッスンは何百回とこなして慣れているけれど、
こればっかりはレッスンなんてないもの。苦手なものは苦手なの!」
「ふふふ、行きませんよ!大丈夫です。
メリンダ様かわいいですね〜!」
「やだ、それってからかっているの…?」
「違いますよ、純粋な気持ちで言ってますって!ふふふ。」
「もうリリーナったら…」
と2人ではしゃいだところに、そのゴーストハウスから出てきたカップルと遭遇した。
「いやぁっ!怖かったです!ユーストス様ぁ〜!」
「はは、くっつきすぎだよ、マリエナ嬢。
でも、ちゃんと守ってやっただろう?」
「はい!でもこわかったぁ〜〜」
できれば演劇終わりまで、直接会いたくなかった2人だった。
2人の密着度は側から見ても顔が赤くなるくらいで
ユーストスはマリエナの腰に手を回し、もう片方の手は彼女の両手に包まれていた。
その2人はメリンダとリリーナに気づくと
ユーストスは少しばつの悪そうな顔をし、
マリエナは、たちまち顔を青くさせて、ユーストスから少し離れて言った。
「メリンダ様…も、申し訳ありません!あ、あの、メリンダ様がリリーナ様と行動されると
いうので、私が一緒にいて差し上げようと思ったのですが、でしゃばって申し訳ありません!」
また自分は棚に上げての救ってやった節。言われ続けて半年、慣れてはいないが「またでた」
くらいには思えるようになった。メリンダは、それに対して明らかな反論ではないものの
少し嫌味を込めて話す。
「私がお尋ねした時点で、ユーストス様は仲の良いお友達と回るとおっしゃっていましたので
リリーナを誘ったのですけれど…?まあこの際順番の前後なんていいですわ。
マリエナさんがそのお友達でしたか。お二人で楽しめているようで、よかったですわ。」
「なんて言い方だ、メリンダ。マリエナ嬢は、私のためを思ってついてきてくれているのだ。
仲の良い…そうだな。今の君とよりは仲はいいよ。」
ユーストスは少し離れたマリエナの肩を持って自分に引き寄せて、
眉をひそめながら言った。
(ひどい…マリエナさんが随分前にお誘いしていたのは知っているわ。
婚約者に確認もせず、約束するのもおかしい。メリンダ様が声を掛けるタイミングなんてなかったじゃない…)
思わず口を出しそうになったが、そこはメリンダが軽く手で制した。
余計な火の粉をリリーナに向けないようにするためだ。
そうして、毅然とした口調で答えた。
「そうかもしれません。その仲の良さは誰もが羨むことと思いますわ。
では引き続きお楽しみください。失礼いたします。」
そう言って、リリーナの手を持つと、彼らとは逆方向を向き、足早にその場を後にした。
「失礼いたしま…」
そう去り際に言おうと振り向いたリリーナは
ニヤリと笑うマリエナを見逃さなかった。
(ひどい…!)




