学園祭:ワークショップ
ついにやってきた学園祭当日。
リリーナは寮を出て、とぼとぼと学園への通学路を歩いていた。
(この学園祭後の打ち上げパーティーでメリンダ様は婚約破棄と追放を言い渡される。
ついに、、さようならの時が来てしまった。)
そう思うと、心が押しつぶされるように痛くなった。
思わず物理的に胸を手で押さえてしまう。
その時、後ろから背中をぽんっとたたかれる。
何事かとリリーナが振り向くと、いつもの表情のメリンダがいた。
「リリーナ、おはよう。」
「おはようございます…」
背中の様子から、察していたメリンダは、
やれやれと言った表情で口を開いた。
「もしあなたが、私に今日起きる出来事について悲しい気持ちになっているのだとしたら
叱らせていただくわ。私は学園生活最後の今日をむしろ楽しんで過ごしたいの。
もちろん登校からよ。リリーナはそれにお付き合いくださると嬉しいのだけど?」
(…そうだ、せめて最後の断罪の前までは楽しい気持ちにさせてあげなくちゃ…!
自分が腐っている場合じゃない!)
そう思い直すと、よし、と気分を変えた。
「もちろん!!親友として最後の最後までべったりですよ…!」
2人は笑いながら正門へと向かった。
正門をくぐり教室へ。
ここに集合はするが、学園祭の日は基本的にフリータイム。
教室で出欠確認をして、2人は貴重品だけを持ち教室を出た。
「う〜〜ん、どこから行きましょうか…」
文化祭の催し物が一覧になった、パンフレットを広げて眺める2人。
ざっと20の会場で何かしらが行われている。
夕方にはクラスの出し物である演劇を控えているので、全てを回るのは時間的に厳しく、
ある程度は絞らないといけない。
そう考えているところに、メリンダが口を開いた。
「私、行きたいところがあるのだけど、最初に行ってもいいかしら…?」
「もちろん!ぜひ連れて行ってください〜!」
早速2人はそこに向かうことにした。
「天体ショーやってまーす!」
「おいしいクリームナッツクッキー売ってますよ〜!」
「見目麗しい騎士様がお茶を運んでくれますよ〜!」
各所で呼び込みが飛び交う。
リリーナは右に左に気になるものが多すぎて、キョロキョロが止まらない。
「メ、メリンダ様…!気になるものがありすぎて…め、目が…」
「ちょっと、リリーナ?まって、まだ一つ目の場所に向かっているだけなのに
少しヘロヘロしているのはどうして…!落ち着いて前だけ見ときなさい…」
「はい…」
そう言われメリンダに手を引っ張られる形で目的の場所に向かった。
リリーナも言われた通り、左右に目を向けずに、まっすぐ…
メリンダの綺麗なパールゴールドの髪が揺れるのだけを見ていた。
「着ついたわ!ここよ」
メリンダが立ち止まり、看板を指し示した。
それを見上げると飛び込んできたのは
『ワークショップ:雪の結晶』
「わぁ…!」
なんとも興味のわくフレーズに
リリーナも声を漏らした。
同じように、この素敵フレーズに惹かれてきた人たちですでに列ができていた。
2人もそれに並び、何ができるのか想像しながら楽しく待った。
10分ほど待ったところで
「お待たせしました!中へどうぞ!」
案内係に従い、中に通された。
中では、5つほどのブースがあり、その各所の中心に
小さな雲が浮かんでいた。それを取り囲むように、5人ほどのお客さんと
指導係が1人ついている。
2人は一番奥のブースを割り当てられて、前のお客さんが終わるのを待つ。
程なくして、その人たちのワークが終了し出口に向かう。
手には何やらキラキラしたものを持っていて、リリーナはそれに目がいった。
「メリンダ様…かわいいキラキラを持ってますよ…」
「ええ。今から私たちもあれを目指して頑張るのよ…!」
「…頑張る…?」
メリンダの言った言葉が気になり、復唱していると
そのうちにメンバーが揃い、指導係が声を発した。
「さ、お待たせしました!今からあなた達は自分だけの
雪の結晶をこの雲から取り出して、チャームに変化させるということを
やってもらいます〜!さ、これを1人1本ずつ持ってね。」
その人から15センチくらいの先細りの白い木の棒を渡された。
細くなっている先端は小さな丸粒がついている。
リリーナが何に使うのかと、いろいろな角度からその棒を確認していると
指導係が話を続けた。
「それは、クリスタルスティックと言って、この小さな雲から
雪の結晶を取り出す時に使う棒です。
どうやって使うかというと…こうやってゆっくり雲の中に差し込んで…
スティックの半分くらいのところで止めて、ゆーーっくり息を吐くように
細く魔力を流します。」
そう言い、目を閉じて集中した。
程なくして、雲の中が薄い水色に輝くと、すぐにおさまった。
指導係が目を開けると
「魔力を流し終えたら、またゆっくりと棒を引き抜きましょう。
そうしたら、ほら!雪の結晶の取り出し成功です!」
雲から現れたのは、キラキラと薄水色に光る、はっきりと枝分かれをした
雪の結晶。
「わあっ…!!」
リリーナもメリンダもそのブースのお客さんは
みんなそれを見て目を輝かせた。
「じゃあ早速やってみましょうか。ポイントは細く長い魔力注入ですよ〜!」
「はーい。」
そうしてそれぞれが結晶化を試み始めた。
「メリンダ様…やりましょう!」
「…ええ!」
2人は緊張しながら、スティックを雲に差し込んだ。
(集中…集中… … …細く…長く)
そうやって集中していると、不意に思い出したことがあって気が乱れた。
ぼうっ!!
「!??」
そう音を立てると、リリーナのスティックの先が重くなった。
様子がおかしいと、スティックを取り出してみると…
「雪…玉…だね。」
指導係が苦笑いをしていた。
魔力を一時的にたくさん込めてしまったからだという。
気を取り直して再度チャレンジ。
一連の出来事は、メリンダの耳にはしっかり聞こえていて
おそらく突っ込みたかったであろう、彼女はピクつきながらも
集中を続けていた。
「いい?他のこと考えず、集中だよ?」
「はい…」
リリーナはもう一度アドバイスを受けるとスティックを差し込む前に
心を落ち着かせることにした。
なぜ魔力が乱れたかというと、思い出した内容が原因だ。
(ヴェクトル様と絵を描いた日にパンをかじられた…それを普通に食べたけど
あ、あ、あああれって…か、か、間接キ…)
そう改めて考えると
顔や頭が熱くなって集中できない!
リリーナは一度立ち上がり、ほっぺをつまんでムニムニと引っ張った。
そして何度か深呼吸をする。
(わ、忘れよう、彼はそんなつもりないし、私だけ気にしているのも迷惑がかかるわ。
落ち着け落ち着け。甘くて美味しかった…美味しかった…)
自分なりの暗示にかけ、心も落ち着いたところで再度チャレンジ。
メリンダのスティックの先が薄紫色に光り、完成間近といったところなのを
確認した。
リリーナはスティックを雲に入れ、目を閉じて、細く長くを意識しながら
魔力を注入し始めた。
スゥー… …
程なくして目の前が明るくなるのを感じた。
「わぁあ…!」
どこかで歓声が上がる。
他のブースで素敵な結晶ができたのかな?と少し気にはなったが
気を乱すほどではなく、リリーナも無事に魔力を流し終えた。
それから目を開ける。後は取り出すだけ…
「??」
すでに抽出を終えたメリンダが、驚きの表情でリリーナを見ていた。
彼女だけじゃない、そのブースのお客、指導係までも同じように見ていた。
「…あれ、わたしまたやらかしました…?」
そう言いながら、ゆっくりスティックを取り出すと
綺麗に枝分かれし、少しゴールドがかった七色に光る雪の結晶が
出てきた。
「これ…は…見事…」
指導係もそのブースのお客さんも、もちろんメリンダも
息をのんでそれを見つめていた。




