久々のカフェは最後のカフェ
翌日。
綺麗に仕上がっている背景パネルを見つめるマリエナは
一瞬表情を曇らせたかのように見えたが、いつもの愛らしい笑顔で
「素敵です!とても綺麗な背景にしていただきありがとうございます!」
と言った。
リリーナは、嬉しくてヴェクトルに喜びを伝えようとしたのだが、
あいにく最終調整に忙しく、稽古の場には来れていなかった。
マリエナのわがまま無双も本番が近づくにつれ少なくなった。
本人も主役級なので、覚えることも多い。
流石にわがままに気が回らなくなってきたのだろう。
それにホッとしたついでに、久々に時間が取れそうだったので
準備が終わった後は、久々にメリンダとカフェに行くことにした。
「久々のカフェは、原点に返り、カフェ・モーメントにしましょう!」
「わかってるじゃないの!」
そうして実に数週間ぶりにカフェタイムを満喫する2人。
メリンダは、いつものように毎月変わるおすすめのフルーツティー。
今月は三種のベリーティー。甘酸っぱい香りを楽しんでいる。
リリーナは、スウィートベリークリームたっぷりのシュガーラテ。
山盛りのクリームを乗せて、甘々しい香りを放っている。
「ふふ、相変わらず甘さへの振り切りがすごいわね。」
「はい、補給です!」
「補給といえば、あなた、舞台袖でクリフォード様の絵姿を眺める姿を
何度も見たけれど、もう隠すのやめたの?」
「えっ!!?私、そんなことしてましたか?」
「…まさか、無意識だったの…?」
メリンダの紅茶を飲む手が止まる。
リリーナは目線を上に向け、何かを思い出しながら言った。
「やだ…そう…いえば、
稽古中の記憶はあまりないんですが、日々だんだんと絵姿がヨレヨレになっていくので
おかしいなと思っていたんですよね…」
「相当疲弊していたってことね…。確かに、マリエナさんのわがままは酷かったわね。」
「…そうです!そうなんですよ…。よくぞ乗り切った、私たち!ですよね。
あんなにひどいわがままなのに、彼女の魅了のせいで誰もおかしいと言わないし、
私たちが声を上げたら更に何かされそうだし…、本当、耐えましたよね…」
「そうね。やっとだわ。」
そう言い、紅茶を置くと
メリンダはリリーナに改めて向き直した。
「リリーナとこうしてカフェを楽しむのも、今日が最後かもしれないわね。」
その言葉を聞いた途端、改めてこれから起きることを突きつけられるような衝撃を受けた。
リリーナは込み上げてくるものがあり言葉に詰まった。
何も言えずうつむき加減のリリーナに対して、メリンダはゆっくりと話を続ける。
「確かに…今までみたいに一緒にはいられなくなるわ。
…けれど、ずっと準備してきたことがね、やっと始められるの。
私…
カフェを開くわ!!」
「…カ、カフェ!?」
あまりの衝撃に、リリーナはぐいっと顔を上げ、メリンダの目を見た。
先程までの落ち込みはどこかへ吹っ飛んでいったようだ。
「そうよ。」
「り、料理はできましたっけ…?」
「料理全般はグラフィムがするわ!あの人、とても美味しい料理を作るの。
私は主に接客ね。あと…」
「前の世界の記憶を辿って、変わった料理を出そうと思うの。
オムライスとか、ナポリタンが世代を問わずに受け入れられそうかなと思って。」
と、周囲には聞こえない声のレベルで伝える。
「おむ…?なぽ…?? …す、すごく気になります…」
どんな料理かを想像しながら、興味津々のリリーナ。
メリンダはいつもの彼女に戻ったと少し安心をした。
「ふふ、食べにきてね。」
「い、い、行きます行きます!
あそうだ…店名は何にしたんですか?」
と言ったところで、急にメリンダの顔が赤くなりうつむいてしまった。
「あ…れ?メリンダ様?」
不思議に思って、リリーナはメリンダの顔を覗き込む。
すると、メリンダは顔を見られまいと、両方の掌で顔を覆い、答える。
「は、恥ずかしいの!!…笑わないで…くれるかしら…?」
「もちろん!メリンダ様が考えたんですもの、そんなわけないじゃないですか!」
「そ、そう?じゃあいいわ…」
メリンダは顔から手を外し、リリーナを上目遣いでみた。
リリーナはワクワクしながら続く言葉を待った。
「メリーナ喫茶店」
ぼんっ!!
たちまちリリーナの顔が真っ赤になり、今度はこっちの方が
顔を両手で覆い、停止してしまった。
メリンダも顔を赤らめてリリーナに言う。
「な、なによ…」
「いいんですか…
メリフィムじゃなくていいんですか…」
「それは、惚気てるみたいで嫌だわ…あのね、
リリーナ聞いて。私は、断罪まで光のない学園生活を送るだろうと思っていたの。
だけどあなたと出会って、一緒に過ごすうちに、日々を楽しいものに変えてくれたわ。
だから、私にとってあなたはとっても大切なお友達なの。そんな大好きな人の名前を
入れたくてこうしたのだけど…嫌だったら変えるわ。」
「いえ!むしろ光栄です。ありがとうございます!
メリンダとリリーナでメリーナ…嬉しい…」
メリンダの気持ちを受け取り、涙ぐむリリーナ。
同じように、今までしっかり伝えられなかった気持ちを伝えたメリンダも
涙ぐんでいた。
「行きます…約束。」
「ええ。」
友情を深めた2人。
その日は閉店まで話は尽きなかった。




