優しい助っ人
数分かけてようやく落ち着いた頃。
「大丈夫そうかい?」
と、ヴェクトルが優しく声をかけてくれる。
「はい…ありがとう…ございます。」
返事もできるようになった事を確認すると、
口元をにこりとさせ、軽く頷いた。
そしてリリーナの肩をぽんっと叩くと、気分を切り替えるように言った。
「では、私ができそうなところを言ってくれるかな?」
「…はい…!
では…このお花を…ええっと、この色で塗っていただけますか…?」
リリーナの方も、目の端に残る涙を全てハンカチで拭き取り、気分を変えた。
こうして一緒に作業をしてくれる仲間が増えて、
俄然力が湧いてきた。
「わかった。…ああそうだ!」
そう言って、思い出したようにヴェクトルは持ってきた小袋のもう一つを開けた。
「どうせなら、好きなものを食べながら作業をしたほうが楽しいと思わないか?」
袋から取り出したのは、
甘いパン、かわいいキャンディ、装飾が綺麗なクッキー
期間限定の食感が面白いドリンク、などなど。
リリーナが好きなものばかりで彼女は思わず目がキラキラした。
「わあ!!ありがとうございます!
力が湧きます!いただきます〜」
嬉しそうに一口目を頬張るリリーナ。
しかしその後すぐに何かに気づいた。
「ああっ…!」
「どうした?」
「私…真っ先に甘いパン食べちゃいました…
もしかしてヴェクトル様…これがよかったですか…?」
「はは、大丈……あ、そうだな…
じゃあ、味見させてもらおうかな。」
そう言って、パンを持つリリーナの手を持ち、
自分の口元に寄せると、ひとくちかじった。
「……!」
リリーナは彼の思いがけない行動にびっくりして固まってしまう。
みるみる顔が熱くなっていくのがわかった。
ヴェクトルは口を静かに動かしながら、リリーナを見つめると言った。
「君が好きそうな味だ」
いたずらそうに微笑むと、口元についた砂糖の粒を親指で拭った。
そんな珍しい表情に釘付けになってしまったリリーナだったが
目線をパンに移した時に、ハッと気づいた。
「ん…あれ!?
は…半分くらいもう無くなっています…!?あれ?
ヴェ…ヴェクトル様?」
「ははっ。一口いただいただけだよ。」
動揺するリリーナにニマニマと口元を緩めながらいう。
「ひとくちが…大きいです…ね?」
あっという間に小さくなったパンを前に、不思議そうな表情を浮かべながら、
リリーナはパンをかじった。
その部分がグレーズたっぷりの部分でとても甘くて美味しかったようで
たちまち幸せそうな表情に変わっていった。
それを優しい目で見ながら、ヴェクトルは言った。
「……元気が出たみたいだな。
さあ、食べたら、早めに終わらせられるよう頑張ろうか。」
「…はい!」
すっかり日も落ち、暗くなってからどのくらい時間が経ったか。
校舎の戸締りで警備員が回る時間が間近に迫った頃
「できた!」
「これは…」
見事に綺麗な花に描き換えた背景が完成した。
その出来栄えに喜ぶ2人。
喜びつつも、リリーナは抱えていた疑問をヴェクトルに投げた。
「あの…ヴェクトル様…?
絵心ないってウソですよね。この画力…ありえません。」
「ん?…嘘ではない。大して私はうまくないが…?」
「どこまでもストイックですよね…」
「ん?」
「いえ、素晴らしいものができてよかったです!本当にありがとうございました!」
「いや、これはリリーナ嬢の頑張りの成果だ、褒めすぎないでくれ。」
「ふふ。じゃあ2人で頑張れました!という事で!」
パチンッ!
2人でハイタッチをして喜び合った。
かくして、警備員に注意される前に学園を出ることができた2人は
ようやく寮への帰路についた。
学園からの道は女子寮の方が近いため、自然と送ってもらう形になった。
寮の前でお別れの挨拶を言う前に、改めてお礼を言った。
「今日は実は、持ち帰って一晩中作業をすると覚悟していたので
本当に助かりました。ありがとうございます!
ヴェクトル様、しっかりお休みになって下さいね。」
「ああ、リリーナ嬢もしっかり休むように。じゃあまた…あ…これ。」
そう言い、リリーナの手に何かを渡した。
「食べなかったお菓子だ。お茶菓子にでも。」
「わあ…!ありがとうございます!…じゃあ、お返しに私のお気に入りをどうぞ!」
そう言い、いつも持ち歩いているお気に入りのキャンディの小瓶を差し出した。
「ほう、エルダーフラワーのキャンディか…珍しいな。いただくよ。」
そう言い小瓶から一つ取り、口に入れた。
「ありがとう。この甘味はいまちょうどいい…疲れが癒えるようだよ。」
「ふふ、良かったです。…では…、おやすみなさい。」
「ああ、また明日。おやすみ。」
この晩、リリーナは肩の荷が降りたこともあって、ぐっすり眠れた。
また、最近学園祭の考え事が多すぎて不眠気味だったヴェクトルも
久々に深く眠れたのだった。




