独壇場の練習開始
休みが明け、今週からは演劇の練習が始まった。
ストーリー考案者ということもあって、マリエナを中心として進行していた。
愛する2人のシーンは濃厚に、戦闘のシーンはよりリアルにという意向のおかげで
影響を受けている人がここに1人いた。
「う、わぁー……!」
ドサッ!
「…はーい、ストップしますね。」
戦闘シーンを終え、パンパンと手を鳴らして、シーンを切るマリエナ。
「アロー様、最後の断末魔はもっと辛い感じで言っていただきたいのと
倒れ方は、もっともーーっと激しくしていただけると嬉しいのですが…」
「あ、ああ…。わかった…やってみる…」
銀灰役のアローは、先ほどから繰り返される、とどめのシーンに、もうへとへとだ。
背景位置のバランスを見るため、舞台袖で見ていたリリーナは
1人だけ息を切らすアローを見て、いたたまれなくなった。
ちょうど休憩が入ったので、リリーナは持ち歩いているお花のキャンディを彼にすすめた。
「アロー様お疲れ様です。これで少し補給して下さい。
とてもハードな役ですが…頑張って下さい!」
「リリーナ嬢…!ありがとうございます…喉の調子が良くなかったので助かります。」
そう言い、小瓶からキャンディを一つ取って口にする。
ボリュームのある前髪が、ほぼ目を隠しているので表情はうかがいづらかったが
口元がにこりとしたので、喜んでもらえたようだと、安心した。
休憩後、先程のとどめのシーンを何度か練習して、ようやくOKとなった。
彼はやっと解放されたと言わんばかりに、速攻で着ぐるみを脱いで
椅子に倒れ込んだのをみて、リリーナは心の中で「お疲れ様でした…」と言った。
さて、今度は濃厚な2人のシーンだ。
こんななシーンには、あまり目を向けたくなかったが
リリーナは背景をはじめ装飾類の見栄えのバランスを見なければいけない。
同じように、メリンダも衣装係として、服が着崩れないか、
不具合が出た時に、即修復に走れるよう近くに待機していた。
リリーナは心配してメリンダの顔を見てみたが
スンとした座った目で見ていたので、幾分か安心した。
「姫!ご無事ですかっ!!」
「勇者様…きっと来てくださると信じていました。」
「あぁ、私はなんて幸せ者なんだろう。
女神のような笑顔を独り占めできるなんて…!」
2人は濃厚に抱き合った。
…
… …
(…長くない?)
誰もがそう思っただろう時、マリエナが口を開いた。
「ユ、ユーストス様…!恥ずかしいです…!」
そう言いながらユーストスの手をタップするマリエナ。
同時に、メリンダやリリーナに視線を送っていることを
2人は見逃さなかった。
「あ、あああ、すまない。」
慌ててユーストスは手を離した。
彼の顔はやや赤らんでいたのが見受けられた。
(見せつけ…ですか…)
周囲は抱き合う長さなど気にせず見惚れていたが
メリンダとリリーナはこの見せつけに対して
より一層冷めた目になった。
それから抱き合う長さや顔の近さなどを調整するという名目で
何度か同じシーンを繰り返した後、
マリエナも満足したようで、OKとなった。
少しうんざりしていたリリーナがやっと終わった、と
開放されるように次のシーンの準備をしようとした時、事は起こった。
「…ああっ!」
立ち上がろうとしたマリエナがふらつき、ユーストスにもたれかかった。
「どうした?マリエナ…?」
ユーストスがもれなく胸で受け止め、大きな手で彼女の肩を支える。
マリエナは辛そうな表情を浮かべて、彼に向かって言ったのは…
「今日はドレスを…メリンダ様にキツめに絞られたので…苦しくて…。
でもいいんです!一番キレイに見えるようにしてくれたのですから…
私がもう少し我慢できなきゃダメなんです…!」
目をうるうるさせてユーストスを見上げる。
それを見て、怒りの表情に変わると、キッ!とメリンダに目を向けた。
「なに…メリンダ!!あなたは程度を知らないのか…まったく。
自分以外の者に少しは優しさを向けてやれないのか。気をつけてやってくれよ!」
彼はみんなが見ている前で、強く叱責したのだった。
その言葉にメリンダは青ざめながら答える。
「気を…つけます…」
さすがにみんなの目線が痛かったので、メリンダは舞台裏の方に下がった。
同じように青ざめたリリーナは、言えないながらも少し怒りの感情が湧いた。
(私と過ごしているときの、気を遣いながら接してくれている
彼女の姿を知らないの?長年婚約者をしているくせに、そう言う
彼女の良いところに目が向けられていないのも問題があると思う…!!)
そう思いながらマリエナとユーストスを流し見ながら
メリンダの元に向かった。
すぐに舞台裏で彼女を見つけた。
簡易椅子に座り、俯いているので髪で表情はうかがえない。
リリーナはゆっくり近づき、彼女の肩をさすりながら声をかけた。
「…これからは、ドレスの着付けは私がやりますね。
メリンダ様は一切関わるのやめましょ、もう傷づく必要なんてないんです。」
俯いていた彼女は少し顔を上げ、リリーナに目を向けた。
強がらず、素直に悲しい顔をしていたのが印象的だった。
「ありがとう…お願いできると嬉しいわ…
…あと少し…あと少し頑張ればいいんですもの…耐えてみせるわ。」
「!」
リリーナは思い出した。
(あと少し…そうだ。メリンダ様は学園祭が終わるといなくなる…)
落ち込みそうになったが、今はそうなっている場合ではない。
その時は、メリンダをなんとか回復させることに集中した。




