意地っ張り
「痛っ…」
こんなに歩くことは想定していなかったので、
ヒールが高めの靴を履いてきてしまい、一歩一歩進めるたびに
つま先に痛みが出てきた。
「はぁ…なんだか…いやだなぁ…」
思わず口をついて出た。
気にしなければいいのに、いちいち心を乱してしまう。
メリンダのように受け流せない自分が嫌だ。
チヤホヤされているのが羨ましいわけではない。
親しい人との思い出をぐちゃぐちゃにされるような感覚があって
すごく嫌な気持ちになる。
それが悪意に裏返らないように、心を保つのも正直辛い。
(もう限界かもしれない。癒されよう…)
リリーナはそう決め、足を進めるスピードを少し早めた所だった。
パカッ パカッ …
「リリーナ!」
後ろから凄い勢いで蹄の音が近づいてきて、リリーナは名を呼ばれた。
振り返ると、馬に乗ったセラドが彼女の元に到着した所だった。
馬もセラドも息を切らしている。
「すまない…本当に、長いこと待たせた上に、1人で帰らせるなんて…!!」
反省を口にする彼の感じはいつも通りに戻っており
どうやらマリエナの魅了は切れているようだと感じた。
ただ、それに素直になれずに、リリーナは言った。
「いいえ、いいんです。ユーストス様がせっかく来てくださったんですもの
彼らを優先することは当たり前です。
私は1人で帰れますから、お戻りいただいて結構ですよ。」
精一杯の作り笑いをして、軽く挨拶をした後リリーナは歩き始めた。
ポック ポック …
すぐ後から馬の足音がゆっくりと、追いかけてくるのはわかった。
あの一言で戻るような彼ではないのも知っていた。
「…リリーナ。」
「… …」
「…」
ポックポックポック…
セラドは呼びかけにも応えず、ズンズンと進んでいってしまうリリーナの
少し前に馬を回し、馬を降りると、リリーナを抱き上げた。
「あっ…?と…!!セ、セラド様!?」
「これ以上、少したりとも辛い目に合わせるものか。」
そう言い、リリーナを馬に乗せると、すぐ後ろに自分も乗り
後ろから抱き抱えるように手綱を持った。
「だ、大丈夫ですから…まだお仕事のお時間で…」
「仕事というなら、これが一番大事な仕事だよ。」
「…」
もう何も言えなくなってしまったリリーナは、このまま乗せてもらうことにした。
後ろから何かに包まれるという感覚が今までなく
それがとても安心することに気づき、拗ねてはいたが、
この状態が長く続けばいいのにと内心考えてしまった。
帰路では会話はなく、ただ馬の蹄の音がだけが響いていた。
そして夕日になりかけた頃、寮の入り口に到着した。
先にセラドが降りた後
リリーナを抱き抱えるようにして降ろした。
子供の頃はよくこうして遊んでもらったのだが
体が大きくなってからはこういうことはなかったので
気恥ずかしかった。
「リリーナ?おかえ…えっ!」
この瞬間をばっちり見ていたのが、メリンダだった。
彼女は2人を見てとても驚いていた。
抱き抱えられる姿が珍しい…確かにそうだ。
いままでは”救助”される場面しか見ていなかっただろうから。
(そういえば、メリンダ様とセラド様は初対面…)
そう気づいたリリーナは、慌てて紹介をする。
「セラド様。こちらが私が今一番仲良くさせていただいでいますメリンダ様です。
メリンダ様、こちらは私の兄の幼馴染で魔法騎士団 第2隊長のセラド様です。」
双方挨拶をした。
「じゃあ、私はそろそろ戻るよ。足はしっかり冷やすように…。」
「はい。」
セラドは他にも何か言いたげだったが、メリンダを気にしてか
それ以上は何も言わずに帰っていった。
彼が乗る馬の姿が坂道の下りに差し掛かり、姿が見えなくなったところで
メリンダが興奮気味に口を開いた。
「あ、あ、あのね…夕食後、お部屋に行っていいかしら!?」
「…はい!もちろんです。私もメリンダ様に癒されなきゃ、
やってられないことがありすぎて…聞いてほしいです!!」
「わかったわ。また後でね。」
そのあとは約束通り、リリーナの部屋でお茶をした。ひととおり休みの出来事から繋がる、今日のことを話し
半べそになるわ、励まされて元気になるわ、で感情が大きく動いた。
「やっぱり紳士よね…」
「その部分尊い…」
と、たまに変な相槌が出ている、と持っていたら案の定だ。
「セラド様はマリエナさんの恋愛対象人物よ…」
「ほらやっぱり…」
マリエナがくつろぎの会に現れたのは、やはり偶然ではなかった。
セラドへの固執ぶりに納得がいった。
2人の話は、夜遅くまで続いた。




