新学期
新学期が始まった。
リリーナは久々に会う彼女に緊張をしていた。
「あら、おはよう。…よかった、変わってないわね!」
校舎の前で、見知った綺麗なパールゴールドの髪の彼女が話しかける。
リリーナはうれしくなって彼女に駆け寄った。
「メリンダ様…!おはようございます。
ちゃんとキープしてきました!」
「ふふ、えらいわ!」
それからホリデーの間のことを話しながら、2人で教室に入ると、
左手にユーストス、マリエナ、ヴェクトルのいつもの三人組がいた。
久しぶりに見るこの組み合わせに、前期の嫌な感覚が一瞬蘇る。
「おはようございます」
「おはよう」
最低限の挨拶と目線をユーストスに送り、自席に向かうメリンダ。
ユーストスも同じような態度に、休みの間も一緒には過ごしていなかったのだと
リリーナは察した。
メリンダに続き、挨拶をして自席に向かおうとした時、
マリエナが話しかけてきた。
「リリーナ様、おはようございますぅ!」
新学期になっても、このきゅるんとした可愛さ路線は変わらずだ。
(わ、なぜ話しかけるの…早く切り抜けよう…)
正直彼女に話しかけられると、今までいいことが起こらなかった気がするので
気構えてしまう。
「おはようございます…」
挨拶をして、早々に立ち去ろうとした時、ユーストスが珍しく話しかけてきた。
「そういえば、”くつろぎの会”でマリエナ嬢と会ったそうだね?」
「はい…あの」
と言ったところで思い出した。
リリーナは表では笑いながらも心の中では、セラドと仲良さそうに去っていったことが
忘れられなかった。
「?」
「あ、ああの、楽しんでいただけたようですね。探していたものも、お買い物できたとか…」
「そうですわ!わたし、素敵な騎士様にご案内いただいたのでした。
リリーナ様のお知り合いの方らしくて、お話ししてるところにお邪魔したので
本当にごめんなさい、あの時少し怖い顔をされていたので謝らなきゃと思って…」
「え…」
(まただ、またこういう言い方で攻めてきた…)
無邪気な顔をしてさらっと嫌なことを言う。それを聞いたユーストスは少し反応した。
何も言わないが、視線がピリついたのを感じた。
新学期早々こういう攻撃を受けるのは辛く感じたリリーナは
「い、いいえ、全くなんとも思ってませんので!彼は騎士としての仕事をするのは
当たり前ですし…怖い顔に見えたのは、もしかしたら前日の準備の疲れが取れていなかったのかもしれません。それでしたら、こちらこそごめんなさい…。
しっかり騎士様に守られて…怪我もなくてよかったです…。」
全面的に自分に非があるようにして答えた。
今はその方が早く切り抜けられると思ったから。でもやっぱり気持ちはしんどかった。
マリエナに答えたところで、ヴェクトルがこちらに目線を向けているのに気がついた。
と同時くらいに彼は口を開いた。
「リリーナ嬢。あの…用事をことづかっている。ユーストス、マリエナ嬢、
少し失礼するよ。リリーナ嬢こちらへ…」
「?」
ヴェクトルとリリーナは廊下へ出た。
ホームルームが始まるギリギリの時間のため、人が少な目である。
教室が見える程度の場所まで移動した時、急に彼が振り返って言う。
「リリーナ嬢、約束を忘れていないか…?
マリエナ嬢はしっかり記憶を書き換えさせてもらっているが、ユーストスは王族だから
あの事件のことは知っているので、気をつけて欲しい…!」
「ああ…!申し訳ありません…」
あんなに約束したのに、注意よりも先行して、セラドとのことを考えてしまったからだ、と
振り返り反省した。新学期から気分が少し落ちてしまった。
「…なにかあったのか…?」
小さなため息が聞こえてしまったか、いつもの雰囲気ではなかったため、
ヴェクトルは少しかがみ、リリーナに尋ねた。
だが、この件に関しては彼に言えることはないので
「いえ、なんでもありません!」
そう、明るい表情で答えた。
ヴェクトルはそれにやや怪訝そうな顔になったが
「そうか…なら、よかった。」
そう答え、早々に教室へ戻るよう促した。
リリーナは、ヴェクトルの眼鏡の奥の表情が、少し豊かになったなぁと思いながら
教室に入った。
自関に戻る間に、メリンダと久々の目くばせ。
”大丈夫なの?”
”はい、問題ないです!”
やっと自席に落ち着いたところで、リリーナは気づいた。
(…ん…??ヴェクトル様、私の呼び方変わってない…?)
一瞬気になったが、そもそも学園が名前を呼び合うことを推奨しているので
ようやくそれに従ったのだと納得した。




