ロニ
「どこにいるのかしら…。」
リリーナは庭に出て木の上を眺めたり
植え込みを覗き込んだり、外壁あたりを確認している。
このウィンターホリデーで帰省してからというもの、このように
ずっと何かを探していた。
「はぁ、ロニ…どうしちゃったんだろう…」
庭のガゼボでお茶を飲みながら、次はどこを探そうかと考えていた。
ロニ。
それはリリーナが8歳の頃、出会った黒猫。
ある日突然、庭に来るようになった。
リリーナにとても懐き、毎日のように一緒に過ごしていた。
あまりに仲良くしていたので、両親は飼い猫にしようとしたが
ロニはその思いを感じ取ってか、しばらく来なくなった。
その行動から本人の意思を感じ、飼い猫計画は早々に諦めた。
するとまた遊びに来るようになり、これには両親も苦笑し
気の向いた時にきて、好きなだけ過ごしたらいいよ、と言い聞かせた。
その話をしっかり聞いたかのように、それ以降は気まぐれに現れて
過ごしては去っていくというスタイルで固定された。
ロニは勘が鋭い子で、
リリーナが怪我をした時、すぐに人を呼んでくれたり
探し物が見つからない時、彼が示す場所で見つかったりと
不思議とすぐに困りごとが解決した。
そんな彼をリリーナ始め使用人までもが好いていた。
ただ今回、
リリーナが魔法学園に進学し、3ヶ月という長期間いなかった。
こんなに彼と顔を合わせないのは初めてかもしれない。
メイドに聞くとことによると、この3ヶ月は一度、しかも2日程しか
いなかったそうだ。
(出発する前にあれだけ待っててねって、伝えたのに…
まさか、もう来てくれないの…?)
少し悲しくなり、空を見上げた。
雲は流れ、合間から薄めの青色が広がっている。
「はぁ〜〜、次はどこを探…」
ドス…ッ!
この瞬間、リリーナは自身のもも辺りに急に重みを感じた。
彼女はびっくりして、ももを確認すると…
「ニャゴ!」
「ロニ!!!」
探していた彼が現れた。
久しぶりなのも、見つかってよかったというのも含めて
リリーナはロニを抱きしめて顔を埋める。
「ロニお久しぶり!会いたかったわ…!」
「… … … ニィ…!」
あまりしつこくもふもふしていると、猫パンチが入るので
『もう十分埋もれているぞ』的な、この一言が出た時点ですぐにやめた。
いつ見ても綺麗な、黒い毛艶。
耳毛の先端が長く、くるんとしているのが特徴的だ。
そして、透き通るようなグレーの瞳。
リリーナは久しぶりのロニを、たくさん撫でて堪能していた。
しかしすぐに異変に気づいたのだった。
呼吸が荒い。
「ねぇ…ロニ…。ちょっと元気ないんじゃない…?」
*
ペラ ペラ ペラ
ロニを自室の猫用ベッドに寝かせ
リリーナは大きな分厚い本で調べ物をしていた。
「猫にも効く薬草…回復… 療養食…魔法…」
植物暴走事件の時に、どこかに跳ね飛ばされた?
老衰…?
毒があるお花を食べた…?
色々な原因を想像しながら
ページをめくってはメモを取り、を繰り返していた。
そのメモから、色々と試しては見たが、ロニはほぼ拒絶。
ただ、どこかへ去るわけでもなく、ベッドにじっとしているので
とにかく見守ろうと、リリーナは思った。
「ロニ、早く元気になってね…」
今は様子を見てあげる、たくさん撫でてあげる。
これだけがリリーナにできることだと思った。
そうすること数日。
徐々に体力も食欲も呼吸の荒れも元通り、
元気ないつものロニに回復したのだった。
思わずきゅっと抱きしめるリリーナ。
「よかったね…!ロニ!!」
「… … … ニィ…!」
安心して嬉しくなったため、ついついロニの
サインを聞き逃してしまった。
ぺしぺしぺしぺしぺしっっ…!!
猫パンチがリリーナにクリーンヒットした。
*
ウィンターホリデーの期間は
幼なじみに会ったり
家族で出かけたり
ロニと一緒に過ごしたり
たっぷりとリフレッシュし、活力をチャージできた。
課題も半泣きになりながらもなんとかやり遂げ、
寮へ戻る日となった。
(ロニったら、やっぱり気まぐれね…)
ここ数日は回復も含めて、毎日一緒にいたのに、
昨日あたりからまたどこかへ行ってしまった。
いつもの放浪なのだが、あと一日待って欲しかった…!と
リリーナは少し残念に思った。
見送りにはセラドもきてくれた。
「先日言っていた、魔法騎士団の演習場だが
王都の学園寮に近い場所にあるから、いつでも行けるよ。」
とのことだったので、
学期がはじまってすぐの週末に見学に行くことになった。
「恩人探し、見つかるといいわね。
体に気をつけて、食べすぎないようにね。」
「はい、行ってきます。」
ウィンターホリデーも残すところあと1日。
王都に向かう馬車で振り返っていた。
(楽しかったなぁ…でもまあ、忘れたふりはしているけれど、
大変なことがあったしなかなかに慌ただしいホリデーだったわ…)




